《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》客
中はなんとなく外から覗き見た時の想像と全く違わぬ空間だった。
全的に暗い室には隙間かられている太ののおかげで最低限の明るさはある。
だが薄暗いと形容するには々暗すぎるとじられるこの空間は、とても客商売をしている店の中とは思えない。
室はそれほど大きくはなく、右から左へと視線をかしてみれば簡単に部屋の部を見渡すことが出來る。
細長いテーブルに陳列されている剣、壁に立て掛けてある槍、天井に見えているよくわからない武らしきもの。
ディルも枯れた老人ではあるが、やはりこういう男のロマンの詰まったような場所に來ればテンションは上がる。
そっと近場にあった右側の機へと歩いていき、とりあえず目についた剣を観察してみる。
全的に鋭利な印象を抱かせるスラッとした刃のそれは、冒険者が普段使うような両刃刀と比べるとかなり細めで、パッと見切り結びでもすればあっという間に壊れてしまいそうに見える。
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握りの部分は木製のグリップがついており、り止めのためか何か薄い皮のようなものでその柄が覆われている。
手に取って確認してみたい、心を躍らせながらあたりを見渡すも一向に人が來る気配はない。
「違う、叩くまでが早い‼ それだと芯まで熱せてねぇだろうが、そんなこともわからんのかお前は‼」
「ひぃっ、スイマセン‼」
店員の姿はなく、聞こえるは何やら不手際を責められている弟子とお叱りの最中の親方の聲だけである。両方とも先ほど聞こえていた聲と似ており、そして彼ら以外の話し聲は全く聞こえてこない。槌が鉄を打つ甲高い音も、鉄と金床がれ合うそれより一段低い音も、彼らが話している間は聞こえない。推測するに、恐らく今作業場にいるのは二人だけなのだろう。
そりゃ、人手不足にもなるわい。
過激な言い方でずっと弟子の不出來を嘆く男の野太い聲を聞いているせいで、ディルはしばかり心がささくれだっていた。
「これだからお前は使えないって言ってるんだ‼ お前が今メシ食えてんのは誰のおかげかわかってんのか? わかってるわけねぇわな、わかってたらこんな何度も何度も同じミスしないはずだもんなぁ?」
「すいませんすいませんすいません……」
ひたすらに謝っているしばかり高い聲は、隨分と高い。鍛冶屋の徒弟としてってきているのだから恐らく男ではあるのだろうが、聲変わり前のせいで聲自は中的だ。
ディルは出ていこうかとも思ったが、それはしないでおいた。
以前ミースを助けた時とは違い、今一時のに任せて男を懲らしめるのは年のためにならない。
話を聞いている限り、そして年が未だこの場所にいることから推測する限りでは、恐らく彼には本當に行く場所がないのだろう。
下手につついて彼の居場所をなくしてしまっては本末転倒だ、ゆえにここは靜観が正しいはずである。
(じゃが……どうにも、落ち著かんの)
徒弟制度がかなり厳しいというのは良く聞く話ではある。だがいくらなんでもあれはやり過ぎなのではないだろうか。
ミースはどうしてここへ自分を連れてきたのだろうか、彼ならば自分がここに來ればこんな風にしばかり気分を害することも簡単に想像がついただろうに。
うんうんと唸りながら剣を眺めてみる、素人目に見ても出來は良いように見える。全く審眼などというもののないディルにとっては完全に直としか言えないのだが、どうにも品は通り行く冒険者達が使っているものよりも地味で、そして有用なように思えるのである。
(武の良し悪しは格の善し悪しにはあまり関係がないということなのかの、普通に考えれば人柄とか出ても良さそうなもんじゃが……)
複雑な気分になりながら武骨ながら素樸な味わいのある刀剣を眺めていると、ようやく彼の方へ向かってくる足音が聞こえてきた。
「ったく、あいつは本當に……あ、客か?」
そこにいたのは熊のような格好をした大男だった。橫幅なんぞディル二人分はあるのではないかというその恵ならばあれほど聲が通りもするだろうと妙に納得するディル。
「そうじゃね、客じゃよ」
「そうか、じゃあ帰ってくれ」
「……え?」
キョトンとするディルを見る彼の目はすこぶる冷ややかである。
「俺はしっかりと武として使ってくれる奴にしか剣は売らないと決めてるんだ。もしかしたらあんたが誰かの代理人なのかもしれないが、武の購に代理を立てるような弱な奴に俺の剣を売る気はない」
「いや、自分で使うんじゃけど……」
ギロリと強い視線でディルを居抜く大男。
客に対する態度ではないじゃろ、それは。
先ほどの一件のせいで自然ディルの視線も厳しくなる。
「それはないな。剣ダコがないし、筋のつき方も剣士のそれじゃない。つうかその日の飯を食いっぱぐれるようなよくいるじいさんだろどう見ても。押し問答する気もねえんだから、さっさと帰れよ。こちとらプロだ、見りゃわかる」
「なくともお前さんを倒せるくらいには、強いと思うがのぉ……」
明らかなディルの挑発に、男の眉間がピクリとく。
「ほう……言うじゃねぇかじいさん。引退しちゃあいるが俺はこれでも、昔はそこそこ名のある冒険者だったんだぜ」
「そうかい、それじゃあ先輩の肩を借してもらえるとありがたいんじゃがの。こちとらまだ冒険者になって三日目なもんでの」
「良いだろ、試し切り用の広場があるから裏手でやるぞ。お前さんの言うことが本當なら、剣を売ってやってもいい、死んでもびた一文払わんがな」
「ええよ、わしもそんな気分での」
あの年を助けるのは角が立つ。
じゃが……しばかりジジイの癇癪をぶつけてやっても、バチは當たるまいて。
しばかり気が立っていたディルがわざと相手を煽ったために、模擬戦が行われることになった。
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