《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》せっかち

ディルが工房を表から出ようとすると、大男が彼を止める。

「こっちから行った方が早いぞ」

素直に忠告に従い彼の背中を追い、工房を突っ切るような形で向かう。

の並んでいた場所を抜けカウンター橫の木戸を越えていき、蝋燭一本ない暗い通り道を抜けると、向こう側にはしっかりとした明かりが見えていた。

思っていたよりも縦に長い作りになっているらしいわい。ディルは明かりへと近付いていくにつれ、それが明かりではなく爐に燈った火であることに気づく。

その近くに、こちらを見て口をわななかせている一人の年が見えた。

「お前はここで待ってろ」

「はいっ‼」

そこにいた年は、小柄で筋のついていない様子から考えるとどうにもの子にしか見えない。短く雑に切られた髪は、赤い炎に反して赤茶けてっている。背丈は腰の曲がったディルよりも小さく、どこからどう見ても子供である。

ジジイは彼の橫を通り抜ける際、一聲かけようかと振り返った。だがすぐに止め、首を戻して歩みを再開する。

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年の瞳に浮かんでいたのは、親方と思われる大男への心配の念だった。

言葉は厳しくとも、実際は優しい職人気質な人間だったのかもしれない。

(うーん……なんというか、早まった気がしないでもないの)

何が正しいのかは実際に聞いてみないとわからない。だが喧嘩を売ってそれを買われてしまった以上、もう後には戻れない。

まぁ、話が終わってから聞いてみればいいかの。ジジイは疑問を棚上げにし更なる、外へ降り注いでいるの元へと歩いていった。

そこはディルが思っていたよりも本格的な練習場だった。

かなり広くスペースが取ってあり、中央から全に広がるように大きな円形の舞臺がせり上がっている。そしてその周囲には藁や木の束、練習用と思われる武の數々が置かれていた。

あるのは明らかななまくらや失敗作と思われるものがほとんどであったが、まぁそれも當たり前のことではある。警備の人間を雇う必要のない、言ってしまえば取られてもそれほど困らないようなものをここに置いているのだろうと思われたからだ。

後ろの方には工房があり、一応部からこちらを見通せるような作りにはなっている。

親方の命令を忠実に守るためか、あの年がこちらに出てくるようなことはなかった。

「剣だったら好きなのを選んでいいぜ」

「了解じゃ」

始めて木剣以外の武を使う機會が模擬戦になるとは想像していなかったが、まぁこれも対人経験を積む良い機會じゃろうと気持ちを切り替えるディル。

もしあの激怒がしっかりと的をたものであるのなら、自分がなんとなくムッとしたのは完全にお門違いになるわけではあるが、それは別に気にならない。

やりたいことをやって死ぬ、人の迷を考えるのはそれから。セカンドライフに妥協はしないストイック爺は慎重に獲を選定する。

明らかに先が細い、片刃の、鍔に特徴的な意匠が施されており相手の剣を引っかけられるようになっているもの。実にたくさんの種類があったが、ディルは迷わずにし細目の直剣の両刃刀を選んだ。

理由は単純で、中で一番木刀に近そうだったから。試しに二度ほど振ってみると、特に問題なくかすことが出來た。手首を捻り角度を調節することも、しだけ指をかして微妙に刃先をかすことも十分に出來る。

しばかり木刀よりかは重かったが、十分に扱える範囲の重量である。

ディルが剣を取り後ろを振り返ると、大男は刃を潰した斧を持っていた。

かなり重量のある鉄斧を摑まずにクルクルと回しているその様子は、明らかに練者のそれである。

先ほどはしばかり別の意味をこめて言ったが、今はそれが本心に変わっていた。

自分のようなスキルで手にれたものではない、純然たる努力により培われた技量。

この戦いで何か摑むことが出來れば、儲けものじゃの。ディルは転ばないようにしっかりと目を凝らしながら段差を乗り越え、し盛り上がった壇上へと上がる。

「よし、やるか。勝利條件は特にないが、ああ終わったって思ったら終わりだ」

「適當じゃの」

「それくらいがいいんだよ、こういうのは」

「わかったぞい」

ディルは即座に見切りを発、相手のきを捉え全力で移し、脇腹に思いきり鉄剣を叩き込んだ。

「……おいおいじいさん、隨分手癖悪いな」

「悪いがわしは、せっかちで……のっ‼」

開始の合図すらない狀態で放たれたディルの奇襲ぎみの一撃から、二人の戦いが始まった。

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