《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》金
「勝負には勝ちと負けしかないからな、認めてやるぜ……痛て……」
「流石に急所ならば頑丈にするにも限度があると思ってやったが、予想通りじゃったの」
「そうだぜ、あたた……俺じゃなくちゃ間違いなく死んでたっつうの」
大男は自分のことをディギンと名乗った、勝負が終わってから始めて男が工房の主であるということがわかったわけだ。正直いさんでいたは否めない。
「で、剣は売ってくれるのかの?」
「當たり前だろ、俺は言ったことは守る。言ってねぇ約束とかは結構破るけどな」
「それは誠実なのか不誠実なのか、判斷に困るところじゃのう……」
痛い痛いと繰り返しながらもディギンは普通に立ち上がり、若干がにになりながら歩き出した。
そのタフネスを見て、やはり一撃で決めに行かねばわしが負けとったなと述懐するディル。
二人は行きよりもしだけ距離を近付けて、工房の中へっていく。
「わわっ⁉」
「おいこらレイ、お前あそこで待ってろって言ってただろうが‼」
「す、すいません‼ でも親方が心配だったので‼」
「ったく、いいから適當に支度しとけ‼ 俺が戻ってくる前には打ち込めるように用意しとけよ‼」
「は、はいっ‼」
レイと呼ばれていた男の子はぴゅぴゅーっと飛ぶように走っていってしまった、今度こそ言われた通りのことをこなすつもりなのだろう。
「ディギンは、どうしてあの子にあれほど強くあたるんじゃ? あんな言われ方をしていては、びるものもびないと思うんじゃが」
「いや、俺だって言わずに済むならそうしてぇが………そうもいかねぇんだよ」
レイの背中を見ていた彼の目には、優しさがあったように思えた。やはり、ちょっとばかし盲目が過ぎたの、とし反省するジジイ。
「あいつが今月だけで壊した剣、何本かわかるか? 十本だぞ十本‼ 俺の店はただでさえ客がねぇってのに、あいつが出來たもんかたっぱしからぶっ壊したり爐にぶちこんで再度熱したりしちまうせいで、俺の店は完全に商売あがったりなんだよ‼」
どうやらあのレイ年は、覚えが悪いなどという言葉では片付けられないほどに使えない徒弟であるらしかった。剣を安く売ったり、逆に高値で売りすぎて常連が消えてしまったり……そういった年のやらかしエピソードは、枚挙に暇がなかった。
「あ、あいつのせいで俺の生活はいつもギリギリなんだ。借金しなくて済んでるのが不思議なくらいによぉ。そりゃ厳しくもなるだろうがよぉ‼ じいさんにわかんのかよ、裏で徒弟に暴働いている男って噂されてる俺の気持ちがよぉ‼」
話しているうちに堰が切れたようになり、地面にうずくまりながらディギンはだんだんと床を拳で毆っていた。どうやら彼がしているのは鬱憤晴らしとかではなく、純粋な注意であるようである。若干語気が強いのは否めないが、何度も何度も同じミスを繰り返さればそうなることもあるだろう。
男泣きすらせずに床を毆りながら號泣しているディギンを見るジジイ。あ、わし間違っとったわ。そう素直に認めざるをえないほどに、彼の背中には哀愁が漂っていた。
「金的してすまんかったの。わしでよければ常連になるから」
「ほ、本當か⁉ 俺もう、ごみ漁りしなくても大丈夫か⁉」
「大丈夫なように必死で武を使って買わせてもらおう……というか、そんなことしとったのかい。冒険者をやり直せば鍛冶屋なんぞより稼げるだろうに」
「俺は鍜冶師として生きると決めた、そんなことできるもんか‼」
「ゴミを漁るくらいなら、矜持を曲げた方がいいと思うけどのぉ……」
どうやら相當悲慘な暮らしを、それも大部分はレイのせいで送らざるを得なくなっているらしいディギン。
だがレイのことを詰る彼の顔には、出來損ないの息子をを込めて馬鹿にする親父のような、そんな気配があった。
わしめっちゃ早まったっぽいけど……まぁ、良い鍜冶師と知り合えたしよしとするかの。
ジジイはせめて二食をしっかり食べられるくらいにはこの工房にお金を落とそうと決め、再度商品の陳列してある部屋へと向かっていった。
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