《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》最終試験、開始

ディルは頑張った、それはもう頑張った。

本來ならけないような毒消し草の採取依頼をこなし、馬車に揺られながらも二つ隣の街へ行き筆記試験もけに行った。そんなことをしたのももちろん、それら全て冒険者ランクの昇格のために必要だったからである。

まず彼は普段やらないような依頼をこなし、昇格試験をけるために必要な採取依頼を達したという実績を作った。討伐依頼に関しては、スライムの獲により既に十分な実績があったのはわざわざ言うまでもない。

一番の難敵である採取依頼をこなし気分上々だったジジイだったが、次にやることもまた彼を唸らせるには十分なだけの厳しさがあった。

そう、先にも述べた筆記試験である。

覚えの悪い頭を必死に使い、灰の脳細胞を必死になりながらギルドの會則や取ってはいけない野草、引っかけ問題の多いマナーに関するクイズ等の知識を詰め込んだ。辛うじて読み書きができる程度のディルは夜に開かれたミースと二人きりでの勉強會の甲斐もあって、彼は無事筆記試験に合格することができた。正直サボってスライムを狩りに行きたい衝に駆られたことは一度や二度ではなかったが、一生懸命教えてくれるミースの信頼に応えないわけにもいかなかったために逃げることはしなかった。

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人間、やらねばいかんとなれば案外できるもんじゃ。ジジイは

依頼をこなし筆記試験をこなし、基本的な冒険者として必要な知識や教養があることは十分に証明された。

これでディルがやらねばならぬものはあと一つのみ。そしてその容とは、とあるものを調べるものである。

冒険者にとって最も必要な、シンプルにして絶対の尺度。

もちろんそれは……。

「よし、ではこれから実力試験を行うことにする。今回の試験は俺、Bランク冒険者のズーニーが務めさせてもらう。何か文句がある奴は言え、とりあえずボコしてからなら意見は聞いてやるから」

ディルは今、冒険者ギルドに併設されている訓練場へとやってきていた。訓練のために使われるか比較的賑やかなムードの漂っているその場所は、今日はどこかピりついていた。

訓練場右側の中央部、麻縄で囲まれている円形の空間の中に一人の男が立っていた。

「ではこれより説明事項について話しておく、まずこの戦いにおいて冒険者ギルドは……」

大柄な男が理路整然と手慣れた様子で免責事項のようなものを説明している間、ディルはじっと彼のことを見つめていた。

にはクロスした紋が幾つもっている獨特な柄の皮革の當てがついている。著ている防は魔の革の軽鎧で、手首には青のグリーブを著けており、足には膝丈のブーツを履いている。

背中に背負っている一本差しはまず間違いなく刀剣、その刀は通常の鋳造剣と比べるとかなり細い。恐らくは刺突剣、エストックの類だろうとあたりをつける。

(最後はもちろん実力試験。試験なんぞけ慣れとらんから、戦うだけでいいのが一番落ち著くわい)

髭をもしゃもしゃしながら周囲を見渡すと、そこにいる面子の態度はそれぞれ違っていた。

試験のBランクという言葉の重みにみ上がっている男、もし死んでもギルドは責任を負わないという文言にを震わせているローブの。自分の武の手れに余念が無さそうな男もいれば、その隣には頷いてると見せかけて実は目を開けて寢ている戦士もいる。もちろんというかなんというか、試験をけている老人はディル以外にはいなかった。

彼もれると五人が最後の試験に駒を進めたということになる、これが多いのかないのかはわからないが、ディル的にはかなりホッとしていた。

ようやくここまで來たと嬉しくなる気持ちと、ああ早くスライム狩ってお金を稼ぎたいという気持ちがせめぎ合うおじいちゃん。

ディルはもうしで鎧代の金貨十枚が貯まるというところでお預けを食らっているのが、かなりのフラストレーションになっていた。それに勉強や採取で時間を取られていたというのも、彼にとってはあまり面白いことではなかった。

つまるところ、今のおじいちゃんは抑圧されて我慢を強いられている狀態なのである。

今の自分がやっていることがミースを喜ばせ、ひいては結果的に自分のためになるということもわかっている。だがなんとなく釈然としないのもまた事実。

ジジイは論理的でないを抱く自分の神面の未さを恥じ、頬をポリポリと掻いた。

「……説明は以上だ、では早速だが試験を始めさせてもらうとしよう。我こそはというやつはいるか?」

參加者達をぐるりと見渡し、誰も手を挙げないのを確認したズーニーが肩を落とす。

「おいおい、何も取って食おうって訳じゃない。手加減はするし、そんなことではこれからの冒険者稼業が……」

彼が最後まで忠告を言い切ることはなかった。なぜなら眼前に一人、挙手している冒険者がいたからである。

その挑戦者は曲がった背筋のまま、し震える左手で手を挙げている。

「それじゃあわしから、行かせてもらおうかの」

「……よし、こっちに來いじいさん。一丁軽くんでやるぜ」

最近々と不便を強いられていたディルは、自らの抑圧を解放するべく腰の黃泉還し(トータルリコール)にれた。

その隙の無い構えを見たズーニーがほうと嘆の溜め息を溢すのが、彼の方へ歩いていくディルの視界の端に寫った。

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