《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》プロローグ 1
それは僕――ブルーノが、八歳の頃のことだった。
僕の住んでいる村では年に一回、麥の収穫に合わせてお祭りが開かれる。
屋臺や出店なんかも並んで、結構賑やかで楽しい催しだ。
子供は遊べる場所があれば、どこでも楽しめる。
僕も例にれず、祭りを満喫していた。
小さな頃の僕は、一つの出店の前で足を止めた。
それは亀掬いという、薄い布を張った木の枝で亀を掬えればもらえるというルールの、一回で銀貨一枚もする遊びをやっているお店だった。
僕がお祭りだからって父さんに貰えたのは、銀貨一枚と銅貨が五枚。
銅貨はもう四枚使っていたから、亀掬いをやればあと銅貨一枚しか殘らない。
つまりはそれ以降、僕は祭りの雰囲気しか楽しめなくなってしまうということだ。
「お、なんだ坊主。亀掬いがやりたいのかい?」
「うん!」
テキ屋のおじさんに聲をかけて、枝付きの布をもらう。
わざわざ銀貨一枚という大金を使ってまで挑むことにしたのは、大きな水槽の中で泳いでいる一匹の亀が気になったからだ。
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基本的に、亀という生きは緑をしている。
でもその亀だけは不思議なことに藍をしてたんだ。
それはとっても綺麗で、僕の目にはその亀が生きた寶石みたいに見えた。
惚れ込んでしまっては、挑戦しないわけにはいかない。
取る前から僕はかに、その亀にアイビーって名前までつけていた。
「そいつは人気でなぁ、もうんな奴らが挑戦したんだけど、結局誰も取れなかったんだよ」
僕がアイビーを狙っているのを理解したおじさんが笑う。
どうやら皆、考えることは同じらしい。
だとしたら普通にやってもダメだ、と思った。
きっとアイビーは客寄せ、皆に亀掬いをさせるための目玉商品なんだ。
滅多なことで取れないから、おじさんはきっとできやしないと笑っているに違いない。
いなりになんとなくそれがわかった僕は、布をれる前に考えた。
どうやったらアイビーが取れるのだろう。
僕はアイビーを飼いたいという一心で、じっと見つめていた。
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「おいおい、あんまり時間をかけすぎないでくれよ。他の子達もやりたがってるかもしれないからな」
おじさんの言葉はもう、耳にっていなかった。
僕はアイビーをじっと見つめる。
すると不思議なことに、アイビーがこちらを向いた。
つぶらな瞳で、僕の全部を見かしてるぞ、という顔をしている。
アイビーは頭がいいんだ、と僕にはわかった。
もしかしたら自分がなんのために水槽にれられているのか、理解しているのかもしれない。
「こっちにおいで、アイビー。僕の家で、一緒に暮らそう」
亀に話しかけるなんて、バカな奴だと笑うかい?
僕の向かいに立ってた、テキ屋のおじさんみたく。
だとしたら君は大馬鹿者だ。
だって本當に――アイビーは人間の言葉がわかるんだから。
「みー」
「なあっ!?」
僕の言葉を聞いたアイビーはすいすいっと、こちら側へと泳いできた。
他の亀たちを掻き分けて、僕のところへやってきたのだ。
亀が鳴くっていうのは、ちょっと驚きだ。
しかも思っていたよりも、ずっと高い聲で。
僕はどうすればいいか考えて、とりあえずゆっくりと布を水に浸した。
するとアイビーが、その上にスッと乗る。
優しく持ち上げてみると、アイビーは信じられないくらい軽かった。
よく羽のように軽いなんて言い方をするけど、そんなものじゃない。
アイビーは自分で空を飛んでるみたいで、全く重さをじなかった。
僕はアイビーを布と一緒にもらったコップの中にれる。
彼は狹いコップの中にってから、フチに爪を引っかけて顔を上げる(あとでわかったんだけど、アイビーは実は雌だった)。
水槽の外をキョロキョロと見つめて、外の世界に興味津々な様子だ。
「ふ……ふざけるなっ! この亀は絶対に枝が折れるだけの重量があるんだ! イカサマしやがったな、坊主!」
おじさんが怒鳴り散らしてきたが、僕は何もやっていない。
布を返して確認させると、彼はうなだれてしまった。
しだけ悪い気分になりながら、でも絶対に取れないアイビーをれてたんだから、おじさんも悪いよねと思い直す。
心なしか、おじさんが凹んでいてアイビーの機嫌が良さそうだった。
僕は彼を肩に乗せて歩き出す。
ずっと人間の手にれ続けるのは、ストレスが溜まる。
去り際にちょっとだけ改心した様子のおじさんが、そう教えてくれたからだ。
こうして僕はアイビーを手にれた。
そしてアイビーは、すくすくと長していった。
一年が経った。
アイビーはどんどん大きくなって、両手じゃないと持てない重さになった。
普通の亀はこんな急長をしないらしい。
やっぱりアイビーは特別なんだと、僕は誇らしい気持ちになった。
二年が経った。
アイビーは橫に住んでるランドルフさんの家の猟犬くらいの大きさになった。
不思議なことに、そんなに大きいというのに僕は軽々とアイビーを抱えることができた。
僕がスーパーマンになったのかと思ったけど、そんなことはなかった。
どうやらアイビーは、自分の重を軽くすることができるみたいだった。
なんで僕だけが屋臺で簡単にアイビーを掬えたのか。
その理由を、二年越しに知った。
アイビーは昔を思い出して、たまに僕の肩に乗ろうとする。
「もう肩には乗れないよ、アイビー」
彼は僕がそう言うと、いつもしょんぼりした顔をして地面に著地する。
でもどうやら僕の肩を諦めてはいないらしく、定期的にチャレンジしてくる。
僕は無理だと思うけど、その頑張りは評価に値すると思う。
三年が経った。
アイビーの背丈はとうとう僕を追い越した、けど長はまだまだ止まる様子がない。
今はもう家の中じゃなくて、橫に建てた小屋に住んでもらっている。
僕の肩に乗るのを諦めたアイビーは、今度は僕を自分の背中に乗せたがるようになった。
僕ももう十一歳、そこそこの重さがあるはずだ。
けどアイビーはそれを苦にもせず、悠々と僕を背にしてお散歩に出かけてくれる。
僕の家は村の端の方で、家の裏口を真っ直ぐ進むと森に繋がっている。
森は僕とアイビーの、お散歩スポットだ。
最近の僕のマイブームは、アイビーの背中に橫になって眠ること。
不思議なことに全然揺れない背中は、まるでゆりかごみたいで寢るのに最適なんだ。
気になることができた。
最近、パパとママの様子が変なのだ。
どうやら、アイビーのことを流石におかしく思っているらしい。
確かに普通の亀じゃないけど……アイビーはアイビーだよ、ママ。
「みー……」
そんな顔しなくて大丈夫だよ、アイビー。
だって君はもう、僕の家族だもの。
五年が経った。
「その化けを処分しなさい、ブルーノ」
とうとう母さんの堪忍袋の緒が切れた。
「化けじゃない! アイビーは家族だよ!」
母さんはアイビーを化けと呼んだ。
それを聞いて僕は、生まれて初めてかもしれない怒鳴り聲を上げた。
彼は確かに普通の亀じゃない。
でももう何年も一緒に暮らしてきている、大切な亀だ。
言葉がわかるアイビーは僕の話を聞いてくれるし、辛いことがあったときは一緒にいてくれる。
母さんや父さんには言えないことだって言えるアイビーは、もう僕の大切な家族の一員だった。
アイビーは母さんの言葉を聞いて、泣きそうな顔になっていた。
彼の背丈は更に大きくなり、もう小屋には収まらなくなってしまっている。
アイビーを置くスペースは既に家にはなく、彼は森と家の間の獣道を寢床にしている。
僕は大きくなっても変わらず綺麗な、アイビーのをでる。
ちょっとひんやりとしていて気持ちがいい。
彼はきれい好きなので、普通の亀のような青臭い匂いもしない。
「大丈夫だよ、アイビー。母さんが何を言ってきても、僕は君の味方だから」
その一言でアイビーは元気になった。
でも何かじることがあったのか、彼は森の奧深くで暮らすようになってしまった。
僕とお父さんの取りなしで、なんとか母さんは平靜を取り戻した。
でも最近アイビーが大きくなりすぎて、村の皆が怯えているような気がする。
母さんみたくどこかで、暴発しないといいんだけど……。
六年が経った。
冒険者、と呼ばれる魔の討伐請負人達がアイビーを殺すためにやってきた。
村の皆がかに、アイビーを危険視して呼び出したのだ。
僕がそれを知ったのは、村の奴らに今頃あの化けは死んでるよと嘲笑されてからだった。
直後森の奧でび聲が聞こえて、僕は急いで森へった。
すると傷一つなく倒れていた………アイビーではなく、彼を殺しに來た冒険者達が。
白を著たひょろっとした男が一人と、が二人、そして騒な大剣を背負った男が一人。
息を確認して、皆が生きていることを確かめてから、どうするべきか考えた。
このまま彼らを殺してしまうのはダメだ。
アイビーが危険な化けと認定されてしまえば、本當に彼が殺されてしまうかもしれない。
恐らくそれをわかった上で、アイビーも彼らを気絶させるにとどめたのだから。
とりあえず看病をしよう。
僕は母さんと父さんに事を説明して、四人を家にれることにした。
ちなみに最近、母さんはアイビーのことをまた名前で呼んでくれるようになった。
そしてたまに、僕と一緒に背中に乗って散歩に出かけたりもしてくれる。
今はもう、アイビーは人間二人を乗せても大丈夫なくらいに大きくなった。
もうそろそろ、父さんも一緒に乗ることができるようになるかもしれない。
母さんがアイビーと仲直りしてくれて、良かったと本當に思う。
家族の仲が悪いのは、嫌だからね。
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