《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》プロローグ 2
冒険者の四人が目を覚まして、事の説明を求めてきた。
だから僕は聞かれたことにはなんでも答えた。
縁日の屋臺でアイビーを掬ったことから、どんな風にアイビーが育ってきたかという長記録まで、つぶさに説明をした。
彼の好が葉野菜で、嫌いなはだということも教えたら、彼らはびっくりしていた。
そのことに僕が逆にびっくりしていると、白を著ている男の人が教えてくれた。
なんでもアイビーのような大きな亀というのは基本的には食で、兇暴なことが多いらしい。
彼らもそれで事態を重くみて、討伐依頼をけてやってきたのだという。
草食でこれほど大きな亀は見たことがないと、四人が口を揃えて言っていた。
実はアイビーは草食ではなくて雑食で、食べろと言われれば一応も食べられるのだが、そのことは黙っておいた。
世の中、言わない方がいいことだってある。
「ああ、申し遅れました。私はゼニファーと申します。冒険者もやってますが、本業は魔學者でしてな」
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どうやらこの冒険者の四人組はゼニファーさんとその助手で構されているらしい。
彼は魔學の研究で、そこそこ有名な學者さんらしい。
だから僕は気になっていることを聞いてみた。
「亀の長が止まらないのって、やっぱりおかしいですか?」
僕なりに調べてはみたが、長し続ける亀などの回りにはいなかった。
ゼニファーさんならそういう種にも心當たりがあるだろうか、と思い立っての質問である。
「おかしいですね。というかそもそも、この子……アイビーはただの亀じゃありません、亀の魔です」
アイビーは恐らく新種の魔だろうと彼は言った。
通常、亀型魔というのはそこまでサイズが変わらない。
今のアイビーよりも大きな亀もいるらしいが、そういう種は元からサイズが大きく産まれてくる。
アイビーみたく最初は他の子亀くらいの大きさで、數年かけて大きくなるような魔の前例はないと彼は力説していた。
「王立の研究所に出せば恐らく一生遊んで困らないくらいのお金が手にりますよ? よければ私が口利きをしてもいいですが……」
その言葉を聞いて、アイビーがギョッとするのがわかった。
そしてその様子を見て、アイビーが人間の言葉を理解するとわかり、四人が更にギョッとするのもわかった。
そんなに心配しなくていいよ、アイビー。
大金と引き換えに、家族を引き渡す奴がどこにいるっていうんだい?
「お斷りします、彼は僕の家族ですから」
「ふむぅ………仕方ないでしょうな。あなたとアイビーを見ていれば頷ける話だ」
ただ、私たちは魔に詳しいし、こうして面と向かっているからわかるだけだ。
伝え聞いたことを冒険者ギルドに報告しても、それが正面からけ取られるとは限らない。
場合によっては本當にアイビーを殺すために、冒険者達が大挙してくるかもしれない。
ゼニファーさんの言葉を聞いて、僕はどうすればいいのかわからなかった。
いったいどうすれば、アイビーは普通に生活することができるのだろう。
それはずっと前から抱き続けていた悩みだった。
魔には好戦的なやつらが多いみたいだけど、アイビーは戦うことは全然好きじゃない。
どちらかと言えば溫厚で、彼が一番好きなことはずっと昔から変わらず、僕と一緒にひなたぼっこをして寢ることだ。
このまま指をくわえて見ているままでは、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
だから僕は頭を下げて、ゼニファーさんに頼み込むことにした。
「アイビーが普通の暮らしができるように、何かしてもらうことはできないでしょうか。僕たちにできることなら、なんでもします」
戦うのが好きではないだけで、アイビーは実は強い。
森に住んでいる暴れイノシシなんか一瞬でやっつけちゃうし、冬眠から起きた兇暴な熊もその足で潰してしまう。
を軽くしたりもできるし、最近はどういうわけか口から火や水を吐けるようにもなった。
そういう荒事を解決するための魔として、アイビーが生活をすることはできないだろうか。
そう、それこそ……アイビーが冒険者になるような形で。
ゼニファーさんは僕の言葉を聞いて笑った。
「それならブルーノ君、君が冒険者になればよろしい。君を従魔師(テイマー)として、アイビーを従魔として登録してしまえば、危険扱いはされなくなりますよ」
無論この大きさですし、街の行き來は制限されるでしょうが、と彼は続ける。
冒険者になって、アイビーと一緒に々なことをやっていく。
ゼニファーさんのその言葉は、まだ將來何をするか決まっていなかった僕の未來予想図にカチリと嵌まった。
僕はゼニファーさんに頼み込み、將來冒険者になった時にアイビーを連れられるよう、々と手を打ってもらうことにした。
一度ゼニファーさんが務めている研究室へ行ってアイビーを新種の魔として登録してもらったり。
とりあえずはゼニファーさんの従魔として登録し、僕が人になった段階で僕に譲ってもらう契約書を用意してもらったり。
本當に彼には苦労をかけてしまった。
僕はお金はほとんどなかったので、何で対価を支払えばいいか不安だったが、ゼニファーさんは、
「新種の魔――アイビーの種族であるギガントアイビータートルの學名に、私の名前をれさせてもらえればそれで結構です」
と言ってくれた。
そんなものでいいのか、と思いながら了承した僕はその二年後に、アイビーの種族の學名がゼニファー=ゼニファー=ゼニファーになっていることを知る。
ゼニファーさんは結構、自己顕示の強い人だった。
それからも、結構んなドタバタがあった――――。
でも僕は今、こうして無事に人である十五歳になることができた。
「みー」
そして僕を乗せているアイビーも、元気に鳴いている。
彼はまだまだ長中で、つい先日僕の家よりも大きくなったばかりである。
僕は今、旅裝になってアイビーの背に乗っている。
今日は僕の誕生日。
つまり僕が冒険者になり、従魔師としてやっていくことになる記念すべき日でもある、ということだ。
「父さん、母さん、行ってきます!」
「元気でなー!」
「手紙書くのよー!」
アイビーの背から、麥の粒のように小さく見える父さんと母さんに手を振る。
あれからもどんどん大きくなったが、母さんはアイビーを以前のように化けと呼ぶことはなくなった。
二人とも僕たちの旅路の門出を祝ってくれている。
僕は父さんと母さんが見えなくなるまで、手を振り続けていた。
実はアイビーは既に、自分のサイズを変化させることができる。
でも姿を村の皆に見せつけるという意味合いもあって、わざわざ本來の大きさに戻って歩いているのだ。
アイビーを冒険者達に殺させようとした前科があるし、ちょっとビビらせておくくらいのことはしても罰は當たらないだろう。
森を抜けて遠回りをしなければならないのは面倒だけど……そればっかりは我慢だ。
これからは二人で、頑張っていくんだから。
父さんと母さんには、迷が及ばないようにしなきゃね。
「頑張ろうね、アイビー」
「みー」
アイビーは『私も頑張る!』と、いつもよりちょっと高めの聲で鳴いてくれた。
どうやら彼も、やる気は十分みたいだ。
のっしのっしと歩いているのに、揺れはほとんどない。
彼の背中は、いつだって快適なままだった。
さぁ、ここから僕たちの冒険者生活を、始めていこう――。
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