《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》上級回復魔法
「サイズは変幻自在なの?」
「大きさは自由に変えられますし、重さも軽くできますね」
「え、それって重力魔法じゃ……」
「……そうなんですか?」
「なんであんたがわかってないのよ!?」
僕は村の外にほとんど出た事なんてないし、村に魔法使いの人はいなかった。
魔法に造詣が深くないのは、仕方のないことだと思う。
どうやらサラさんはアイビーの力をよくわかっていない僕に、怒り心頭な様子だった。
怒ってるからちょっとだけ怖かったけど、説明してくれるようお願いすると快くオッケーをくれる。
「この子も自分の力を知ってもらえないんじゃ浮かばれないし。それに……ううん、これは今はいいや」
首を振りながらサラさんが肩に乗り直したアイビーの方を見る。
一何を言い淀んだんだろう。
し気になるけど……今はいいか。
「まずその電撃だの雷撃だのの話は置いとくよ? あとで実際に使ってもらえばいいだけだから。最初は回復魔法についてね。アイビーの魔法がどんくらい凄いのか、あんたはわかってる?」
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「一級神レベル……なんですよね?」
「うん、それ私が言ったやつね。つまりはなんにもわかってないってことか……。いい、よく聞いてね?」
そもそも魔法というのには、下級中級上級という三つの區分がある。
それを回復魔法にあてはめて、大雑把に説明をすると。
切り傷やり傷くらいしか治せないのが下級。
軽い骨折なんかも治せるようになるのが中級。
重傷を負った死にかけの患者も治せるのが上級。
となっているらしい。
「普通は回復魔法って何回も掛けて、ゆっくりと治していくものなの。何回も掛ければ中級だって開いた腹部も治せるし、傷ついた臓もある程度は治せる。でもその子は一発で、一瞬で全火傷っていうそこそこ重い怪我を治した。それってつまり、アイビーの回復魔法の腕は上級クラスってことなの、わかる?」
「上級ってことは、冒険者で例えるなら二級や一級ってことですよね。ということは、相當珍しいのでは……?」
「珍しいなんてもんじゃないわ。回復魔法の使い手って基本的には施療院っていう教會の組織に引き取られて暮らすことが多いんだけど、そこの中でも上級使えるのなんて數人程度よ。詳しい報は匿されているから正確にはわからないけど、まず間違いなく十人もいない」
回復魔法の専門家達を集めた組織の中ですら滅多にいないような力を、アイビーは持っている。
それが一どういう意味を持つのかはわからない。
でも稀な何かを持っているっていうのは、アイビーにとってきっと好ましくないことだと思う。
どんどんと大きくなってしまうというただそれだけのことで、彼は村の皆から快く思われなかったのだから。
そしてサラさんが言っていた重力魔法というのは、要はを重くしたり軽くしたりできる魔法らしい。
これも使えるような人が滅多にいない、レアな魔法なんだって。
僕はアイビーだけが軽くなるものだと思ってたけど、どうやら彼は何かを軽くすることもできるみたいだった。
サラさんの話を聞いて僕が思い出したのは、まだ僕をギリギリ背に乗せられるくらいの大きさだった頃、僕のことを難なく持ち上げていたアイビーの姿だった。
確かに三人で乗ってもへっちゃらだったときはたくさん乗っても平気なんだなぁとは思ってたけど、どうやらカラクリがあったらしい。
僕に説明をしきって疲れている様子のサラさんが、ぜぇぜぇと息を吐きながら背を反り返らせた。
汗に濡れてしの濃くなった青の髪が、束になって揺れている。
知らずな僕にここまで説明してくれて、ありがたい限りだ。
やっぱり僕は周りの人達に恵まれているのかもしれない。
「上級の回復魔法に重力魔法、それにギルマスの一撃でもびくともしない障壁を作る力に、ブレスみたいな攻撃手段もあるんでしょ? どんな化けよ、それ」
「あ、サラさんその言葉使うの止めて下さい。アイビーそれ言われるの苦手なんです」
アイビーは母さんに言われて以來、化けと言われるのに苦手意識がある。
どうやら僕がいないところで村人にも言われたことがあるらしく、その言葉は彼にとってトラウマになっているのだ。
「みぃ……」
しゅんとした顔のアイビー。
ちょっとしゃがれたような聲を出していて、目がうるうると潤んでいた。
たとえ彼が珍しくて特殊な力を持っていたとしても、化けとして扱われて平気でいられるわけじゃない。
アイビーは酷いことを言われれば傷つくし、嫌なことがあったら拗ねたりもする。
そういう部分は、あまり普通の人と変わらないんだ。
首を甲羅の方に引っ込め始めたアイビーを見て、サラさんが慌てて謝った。
今度何か小をプレゼントしてあげると言われると、アイビーの機嫌は一瞬で直ってしまう。
アイビーは気持ちの切り替えが早いからね。
彼が大人な亀でよかった。
「まぁんな力を持ってるけど、アイビーは普通のの子ってわけなのね」
「そうですね、の子じゃなくて雌ですけど」
「みぃっ!」
指をガジガジと噛まれた。
ちょ、痛いってアイビー!
機嫌直ったんじゃなかったの!?
「……今のはデリカシーないよ、ブルーノ君」
「うん、今のはナシ寄りのナシ」
僕は何故か三人と一匹から白い目で見られてしまう。
そこからオーガ討伐のために隣街に著くまで、僕は肩の狹い思いを味わうことになった。
たしかにアイビーはの子みたいなを持ってるけど……でも普通に亀だし。
なんでここまで変な目で見られなくちゃいけな
いのかわからない。
の子って難しいなぁ。
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