《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》萬丈

「當たり前じゃ! 今をときめくアクープの英雄! 人に迷をかけていたグリフォンを懲らしめて、改心させ、自分の従魔にして従える。そんな英雄譚にときめかない子(おなご)など存在せぬ!」

そ、そんなことになってるの?

……もう恥ずかしくて、アクープの街をうかつに出歩けないよ。

アイビー、やっぱりグリフォンに乗ってやってくるのは演出でも大げさが過ぎたんじゃないかな。

「みー」

いや、私が正しい?

君はいつだって自信たっぷりで、本當に羨ましいよ。

ちょっとはその自己肯定を、僕にも分けてもらいたいくらい。

アイビーと話をしていると、グリフォンをでることを止めたエカテリーナ様が、その寶石みたいに輝く瞳を僕の方に向けた。

う、うわ……や、やりにくい。

そんなマジモンの英雄を見るような目やめてほしいよ。

幻想を壊すのは心が痛いけど、実は大した人間じゃないですよって正直に言ってしまいたくなる。

は僕の方を見て、それからようやく、肩の上に乗っているアイビーに気付いたようだ。

「あ!」と元気に指さしをして、私気付いちゃいましたというアピールをされる。

「その子も従魔なのかの?」

「書類上は従魔になってますけど……家族みたいなものですね」

「――うむうむ、従魔をペットや下僕としてではなく家族と捉えるのは良き従魔師(テイマー)の資質よな」

腕を組んで、大仰に頷かれた。

僕よりちっちゃいから、偉そうにふんぞり返っているというより、背びをしているように見える。

なんだか微笑ましくて、思わず笑みがこぼれた。

「その子はどんな亀なんじゃ?」

「ええっと……」

どんな亀……といわれても表現するのが難しい。

魔法が使える亀、とでも言っておこうかな。

ギガントアイビータートルとかゼニファー=ゼニファー=ゼニファーとか言っても、絶対通じないだろうしね。

そんな僕の逡巡を勘違いしたエカテリーナ様が、

「何、別にグリフォンと比べる必要などない。おぬしの家族なのだから、決してバカにしたりはせぬ」

めのようなセリフを口にする。

いや、違うんですよ。

グリフォンより優れてないんじゃなくて、むしろその逆というか。

空の覇者を軽く足蹴にして従魔にしたのは、この子の方というか。

「みー」

「アイビーって言います。こう見えて、魔法とかも使えたりしますよ。あと、結構きれい好きです」

「みー……」

「ほう、魔法が」

無難に紹介すると、アイビーがとっても不満そうだった。

じゃあなんて言えばよかったんだい。

グリフォンを侍らす王様とか?

「みー」

悪くないわね、とアイビー。

……冗談で言ったつもりだったのに。

どうやら彼と僕には、何か認識に大きな隔たりがあるみたいだ。

「エカテリーナ様、足に切り傷が出來てますね?」

「え? ……ああ、蟲取りをして遊んでたから、大方その時にでも草の先端にやられたんじゃろ。わらわの足を切るとは、なかなかの業よな」

蟲取りて。

そして業て。

グリフォンにダイブしたり、家の中じゃなくて庭にいたりしたことからなんとなくわかっていたけど……どうやら彼は、かなりアクティブなタイプらしい。

貴族の令嬢って家の中で紅茶飲みながらお菓子食べてるイメージしかなかったけど、元気に跳ね回って傷をこさえたりするような子もいるんだね。

アイビーやグリフォンに嫌悪を抱いてるような様子もないし、護衛する貴族のご息としてはかなり當たりの部類なんじゃないかな、多分。

「みー」

僕の言葉からどうすればいいのかを読み取ったアイビーが、エカテリーナ様の足にできた切り傷を回復魔法で治していく。

傷を回復魔法で治す時っていうのは、じんわりとした溫かさとむずがゆさみたいなものをじる。

はクフッと笑いを堪えきれず、むずむずとしながら全を揺らしていた。

すぐに治療が終わったのできは止まり、

「凄いの! 回復魔法を使える従魔まで従えておるとは! 黒の軍勢が襲來しても、ブルーノ達なら敵なしじゃな!」

……黒の軍勢?

見知らぬ単語に眉をひそめるが、あっというエカテリーナ様の聲ですぐに思考はかきされて消えてしまう。

「そういえばととさまが言っとったんじゃった。急いでブルーノとかいうバカを連れてこい、グリフォンが出した損害きっちり耳揃えて払ってもらうって」

あはは……できればそういう嫌な話は、もっと早くに聞きたかったかな。

……というか、グリフォンが出した損害って僕が補填することになるの?

……そっかぁ、そうだよなぁ。

一応名目上は、僕の従魔になったわけだし。

僕自はなんにもしてないけど……借金漬けになっちゃうのか。

人生って……波瀾萬丈だ。

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