《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》英雄、勇者、魔王

「にしても、ここまで何もないと逆に気になってくるよねぇ……」

「みぃ」

結局、あの魔の大量侵攻の原因は、魔が何者かにられていたことが原因だとわかっている。

そして恐らくその黒幕は、僕に特攻をしかけてきたあの鬼みたいな魔だと、アイビーは言っている。

でもだとすると、あの魔はこのアクープの街を滅ぼそうとしていたってことだ。

もしあいつが魔王に命令されていていたのなら、二の矢三の矢が飛んできてもおかしくはない。

だから々と面倒なことも増えたけれど、とりえあず僕らはこのアクープにを置いたままでいる。

知り合いや仲良くしてくれる人達も多いし、こんな隠れ家的な場所をもらえてしまうくらいだから、居心地はかなりいい方だと思う。

けれど結局、あれからまったくというほどに魔達の方にきはない。

の數もアイビーがやっつけまくったおかげでかなりなくなっていて、むしろ危険度は前よりグッと下がっているくらいだ。

Advertisement

最近では向かいのセリエ宗導國とももうちょっと國とかしようかって話にもなっているらしいしね。

よくはわからないけど、向こうも向こうで大変なんだってさ。

政変だのなんだの、々起きて國がてんやわんやらしい。

まったく、どこもかしこも大変だ。

そんな中、僕らがだらだら過ごしてもいいのかなぁと、若干罪悪を覚えなくもない。

けどエンドルド辺境伯やゼニファーさんには恩があるし、ここを出れば間違いなくもっと面倒なことになるぞと聞かされたら……ねぇ。

そこまでして嫌な思いをする可能が高い場所に行くほど、僕もアイビーもマゾじゃない。

(嫌な思い……か……)

僕はスッと立ち上がり、びをする。

アイビーが小さくなってふよふよと浮き、僕の肩に乗ってこようとする。

そんな彼の小さな額を、人差し指でこつんと叩く。

「ちょっと街まで降りて、買いに行ってくるよ。野菜とか魚とか、食料を買い込んでこなくちゃ」

「みぃっ」

わかった、と彼はそのままふよふよと浮いて、小さなサイズのまま再度お晝寢に戻る。

今じゃ、アイビーは良くも悪くも有名人だ。

が本気を出した時の巨は、街にいても確認ができたらしいから。

アイビーはそのせいで、誠に憾なことに、おいそれとアクープの繁華街に出るわけにはいかなくなってしまったのである。

は今でもお出かけするのは大好きなんだけど……まったくデリカシーのないことに、彼にひどい言葉を投げかけてくる考えなしというのがいる。

數はそんなに多くはないけれど、そういうことをされるかもしれないと考えるだけで、ストレスは溜まっていく。

ああいうひどい言葉を投げかける奴は、どうしてアクープの街に魔被害がまったくなかったのかとか、僕らにエンドルド辺境伯の後ろ盾があることなんて知らずに(あるいは事実を見る勇気がなくて、知らないフリをしているのかもしれない)、平気で罵詈雑言を吐いてくる。

あいつらはアイビーが何を言われても傷つかないと思い込んでいるから、そういう言葉を吐けるんだろう。

僕は何か言われる度に傷ついてシュンとするアイビーを見ていられなくて、何か必要ながある時にはアイビーにはお留守番をしてもらうことにしていた。

せめて買いに行った気分でも味わえるように、何か彼に贈りでもしてあげよう。

「サンシタ、行くよ」

「グルウッッ!」

姉さん、ちょっくら失禮いたしやす。

軽く頭を下げるサンシタにがり、僕は空を駆ける。

僕は今日もアクープの街へと降りていく。

またアイビーと一緒に、自由気ままに街で暮らす。

そのために必要なのは時間もそうだけど――何より大切なのは僕の名聲だ。

僕の従魔であるアイビーの悪口を面と向かって言えなくなるくらい、僕の存在がこの街にとって大きなものになればいい。

そしてそれは、それほど難しくない。

きっと時間の問題だろうと思っている。

だって今の僕は――アクープの街に降り立った、グリフォンライダー。

の危機から皆を救い出した英雄なのだから。

僕がサンシタに乗ってアクープに降り立つせいで問題が起こることようなことは、さすがにもうなくなった。

未だに驚きながら武を持つ冒険者の人達はいるけれど。

そういう人達を見て「あら、まだアクープに來たばかりなのね」という視線を住民の皆様方が向けることが、この街の常識となりつつあった。

「わあっ、サンシタだサンシタだ!」

「僕焼き菓子持ってるよ! 食べて食べて!」

「グルッ、グルグルゥッ!」

サンシタの方も、以前と変わらず出されたは殘さず食べている。

傍から見ると完全に餌付けだけれど、相変わらずサンシタの方は「人間には殊勝な奴らも多いでやんす」となぜか満足げなので、よしとしよう。

を鳴らしながら、與えられた焼き菓子を頬張っているサンシタを放置して、とりあえずいつもっている八百屋へとる。

サンシタは一度子供達に囲まれるとなかなかそこから抜け出せないから、しばらくの間は放置していても大丈夫だ。

彼が子供を襲うようなこともないらしいしね。

サンシタにとって彼らは、貢ぎをくれる子分らしいから。

「よぉブルーノさん、今日もいつものでいいかい?」

「あ、はい、いつも通りでお願いします」

「あいよ」

サンシタは食獣なので自分で獲ってきただけを食べていればそれで生きていられるが、僕は農家出で野菜やパンで育ってきている。

アイビーも基本的に雑食だけど、彼は僕以上に食事の栄養バランスとかを気にする。

適當に葉野菜を食べればいいやくらいの僕よりもかなり意識は高く、種類ももっと多くとか、菜もしっかりと食べないとというじで、満遍なく野菜を取ろうとするのだ。

そんな彼に合わせた食生活をしているおかげで、男の一人暮らしも同然な僕の食生活は、驚くほどに彩りに満ちている。

心なしか調も、前よりよくなっている気すらするもんね。

おかげで今では、八百屋のお得意さんだ。

ちなみにアイビーの食事量は、基本的にはない。

皆あれだけサイズが大きくなるのなら、巨を満足させるくらいの大量の食材が必要だとばかり思っているみたいだけれど。

アイビーは実際のところ、結構小食なのだ。

でも実は、スイーツが好きだったりする。

食事の好みを見ると、完全に若いの子のそれだよね。

ちなみにそんな僕らの生活に合わせているせいで、最近はサンシタも野菜を食べるようになった。

もしかしたら彼は世界で初めての、雑食グリフォンかもしれない。

気高き『空の覇者』であるグリフォン……のはず、なんだけど、な……。

野菜を買い終えて、サンシタを回収し、こちらに手を振る子供達に手を振り返してから、街を歩いていく。

アイビーが喜びそうな、手乗りサイズの彼がつけられるアクセサリーでも見つけてあげなくちゃ。

てくてくと歩いていると、明らかに無遠慮な視線がいくつも僕に突き立ってくる。

(……あんまり気分がいいものじゃないよね。やっぱり慣れないなぁ)

今の僕は、アクープの街では知らぬ者のいない有名人になってしまった(もちろん一番有名なのはアイビーだけど、彼は有名亀だからね)。

そのおかげか、最近では僕を勇者だとかなんとか呼ぶ人間までいるほどだ。

まったく、勇者だなんておとぎ話の中の話じゃないか。

そんなことをバカ正直に信じているなんて、皆も案外語好きだよね。

値踏みする視線や、こんな大して強くもなさそうなやつが……みたいな、々な思いを絶えず向けられるのは、やっぱりあんまり気分のいいものじゃない。

けどこの程度なら、僕には耐えられる。

僕の肩にアイビーが乗っていると、これらに加えてアイビーを恐がる人間というのが一定數現れる。

そしてそれに、アイビーは耐えられない。

正直、今のアクープで生きていくのはちょっとばかり息苦しい。

こうやって買い出しをするのにも、一苦労するくらいだし。

使用人でも雇えばいいのかもしれないけど……果たして僕らに雇われてくれるメイドさんや執事がいるものなのか、正直微妙だと思う。

「サンシタ、行こっか」

「グルルゥ!」

僕は買いを終え、サンシタにまたがって繁華街を抜けて家へと向かっていく。

その最中、何人かの人達が僕の方へ手を振っているのが見えた。

僕はなんでもないかのように手を振り返して、にこやかに笑う。

英雄を演じるのは、なかなかに力のいる仕事だ――。

【しんこからのお願い】

この小説を読んで

「面白い!」

「続きが気になる!」

「早く元に戻れるといいねぇ」

しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

あなたの応援が、しんこの更新の原力になります!

よろしくお願いします!

    人が読んでいる<【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください