《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第25話 リリィ、魔法使いになる

「むずむず…………たぁーっ!」

ばっ、と手をばすリリィ。

…………ポーズこそ立派なのだが、俺の魔力はピクリともかずリリィの中で絶賛待機中だ。

「ぬぬぬ~…………たぁーっ!」

…………絶賛待機中だ。

「んーっ!!!」

以下略。

「…………むずむずでてかない」

「うーん、なかなか難しいな」

…………リリィの魔力知覚練習は難航を極めていた。今試している「他人の魔力で補助する方法」は魔法學校の授業でも実際に行われているやり方なのだが、センスのない生徒でも何度かやればコツくらいは摑んでくる。自分の魔力を知覚する所まではさほど苦労しないのだ。しかし、リリィはやればやるほど功から遠ざかっていった。

「りりー、まほーつかいになれない…………?」

肩を落とすリリィの目には涙が浮かんでいる。俺はそれを拭うと、小さなを思い切り抱き締めた。

「そんなことないぞ。リリィは絶対凄い魔法使いになれる。パパが保証してやる」

「うん…………」

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これは気休めなどではなく、魔法書で読んだハイエルフの特徴が真実だとするならばリリィはかなりの魔法使いになるだろう。きっと將來的には俺をも超えていくに違いない。

…………だが、今はハイエルフであることが足を引っ張っているのかもしれない。最初の知覚部分でここまで躓くのは何か理由があるはずだ。

「…………先生に診せてみるか」

「私はもう先生じゃないんだけどねえ…………」

翌日、エスメラルダ先生の店を訪ねリリィの現狀について説明すると、先生は大きくため息をつきながらも立ち上がった。そのままゆっくりとリリィの前まで歩いてくる。

「よっ、よろしくおねがいします!」

「ヒッヒッ、親に似ず素直な子じゃないか。私は素直な子は好きだよ」

深い皺の刻まれた先生の手が、ゆっくりとリリィの頭をでていく。リリィは珍しく張しているのかこまらせて先生にされるがままになっていた。

「先生、何か分かるか?」

「焦るんじゃないよ。まだ何もしてないさね」

先生の手がリリィの頭からおりて、の橫でピシッとびている手を捕まえる。先生はリリィの手を摑んだままじっと目を閉じて黙っている。きっとリリィの魔力を探っているんだろう。

「────ヴァイス。アンタ、この子に魔力流す時どういう風にやったんだい?」

「どうって…………別に普通に流しただけだ」

「はあ…………やっぱりねえ。それじゃあいつまで経ってもこの子の魔力を引き出せやしないよ」

「…………どういう事だ?」

リリィが苦戦していたのは、俺のせいだって言うのか?

…………もしそうなら、俺はリリィを悲しませてしまったという事になる。

「────この子はね、普通の子より魔力の流れが速いんだ。覚的にはまだ知覚出來ていなくても、の方はそれを分かってる。つまり速い流れの魔力を扱うのに慣れてるのさ。そこにアンタのトロくさい魔力を流してみな、が混しちまうよ」

「そうだったのか…………」

先生の言葉は、俺の心に多大なダメージを與えた。昨日のリリィの涙を忘れた訳ではない。リリィを泣かせてしまったのは、他でもない俺だったんだ。

「ぱぱどうしたの? どっかいたい?」

ショックを隠せない俺を、リリィが心配そうに見上げてくる。

…………ダメだ、これ以上心配をかける訳にはいかない。俺が悲しむのは勝手だが、それで子供を不安にさせるような事があってはならない。

「…………いや、なんでもないぞ。ありがとうリリィ。それで先生、俺はどうすればいいんだ?」

笑顔を作ってリリィに微笑みかけると、リリィはほっとした表を浮かべた。

「簡単さ、流す魔力の速度をあげてやればいいんだ。魔力の速度を調節するのはそれはそれで難しい事だけど、アンタにゃ朝飯前だろう?」

「當然。リリィ、むずむずいけるか?」

「うん!」

量を抑えつつ、しかし流れは速く。俺はリリィの手を握り緻なコントロールで魔力を流していく。

「むずむず、なんかいつもとちがう」

「どんなじだ?」

「うーん…………わかんないけど、いつもよりきもちいいかも」

気持ちが良い、というのはよく分からないが多分悪い事ではないだろう。リリィの魔力に寄り添えているという事かもしれない。

リリィが目を瞑り、小さく唸る。多分集中しているんだろう。流れを途切れさせないように意識しながらそれを見守っていると────リリィが目を開き、んだ。

「────たぁーっ!」

「うおっ!?」

────瞬間。俺の魔力は思い切りリリィの手のひらから放出され、続いてリリィの魔力の奔流が店の壁に激突する。俺は咄嗟に魔法障壁を張りそれを防いだ。

「ぱぱ! むずむずでたよ!」

目をキラキラさせて俺を見上げるリリィ。

リリィの笑顔を見ていると、俺の心には喜びと、苦戦させてしまった後悔と、言葉に出來ない達が溢れてぐちゃぐちゃになった。リリィの頬に一粒の涙が落ちる。気付けば俺は涙を流していた。

「リリィ、ごめんな…………いや、おめでとう。今日からリリィは魔法使いだ」

こうして、リリィは魔法使いになった。

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