《【書籍化】宮廷魔導師、追放される ~無能だと追い出された最巧の魔導師は、部下を引き連れて冒険者クランを始めるようです~【コミカライズ】》到著
【side サクラ】
馬車に乗り話し合いを細部まで詰めたら、近くの村へと乗り捨て走ることにした。
走ること一つ取っても、彼たちと私ではまるでレベルが違う。
村から村へと走るので、今の私は一杯。
けれどエンヴィーたちは、替替でシュウを背負いながらも平気な顔をして走り続けている。
息も切れる様子がないし、いったいどれだけ普段から走っているのだろう。
使っているのは同じ気力であり、その総量も私の方が多いはずだというのに……走ること一つとっても、差を見せつけられた気分だった。
途中で限界を迎えてからは、シュウに強化魔法を掛けてもらい走ることにした。
當たり前だが、私が気力を使って走っていたときよりもずっと速度が出た。
くっ……だが負けないぞ!
彼たち『辺境サンゴ』は、激闘を繰り返すうちに今のような強さを手にれたのだという。
であれば私にそれができない道理もない!
「うおおおおおおおっ!」
汗が溜まり、目にる。
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息は切れ、足は鉄のように重くなっている。
けれど止まることだけはしなかった。
幸い周囲の魔は、エンヴィーたちが見つけ次第間引いてくれている。
おかげで私は、ただ走ることに集中できる。
「サクラって案外……熱系なんだね」
「私も……もっと頑張らなくちゃいけませんね。このまま彼に並ばれては、アルノード様の私への評価が……」
前の方で何かを話しているが、まったく聞いている余裕などなかった。
私はここまでしたことはないと自信を持って言えるほどに、前に向かって進み続けた。
「……というわけで、本日付でこちらに滯在させてもらう『聖騎士』のサクラ・フォン・アルスノヴァ=シグナリエだ。こちらは侯爵家子飼いの冒険者クランの『辺境サンゴ』、私は彼たちと共同で周辺の魔の掃討に當たらせてもらう」
「アルスノヴァ侯爵から直々の援軍とは……王黨派貴族の一員として、これに勝る名譽はありませぬ」
「ありがとうキグナス子爵。派遣されたことが騎士団でないことが不安かもしれぬが、安心してしい。貴殿の期待には間違いなく応えられるはずだ」
「はぁ……?」
不思議そうな顔をするキグナス子爵に笑みを返し、彼の屋敷を後にする。
街の外へと出れば、そこには準備運を終え臨戦態勢を整えた『辺境サンゴ』の面々の姿があった。
「街同士の距離が比較的離れているので、ここでは好きなだけ暴れてもらって構わない。そして事前の話し合いの通りに、討伐した魔の素材の権利は『辺境サンゴ』に帰屬する。ただし適宜、そのうちの一部を稅の形で徴集させてもらう。そして集めた稅額は全額街の復興に充てるものとする」
事前の取り決めなので、誰からも不満は上がらない。
というかそもそも、エンヴィーたちには魔の素材をどうこうする気すらないようだった。 彼たちからすると、魔素材は戦う武を作るためのものという認識なのだろう。
聞けば彼たちは、デザントでは戦働きに見合わずに搾取されていたらしい。
アルノードも下手に目をつけられたくなかったからこそ、素材を市場に流したりはしなかったようだ。
実は彼からは、裏にバルクス由來の素材を卸させてほしいという話も來ている。
無論父上は、この話に乗るつもりだ。
強力な魔の素材は、それこそ信じられぬほど高値で売れる。
それを使ってアルノードが手製で魔道を作ろうものなら、貴族家の家寶になるくらいのお寶に早変わりだ。
彼たちがにつけている防の一つでも売れば、それだけで一生遊んで暮らせるくらいの金になるだろう。
無論、彼たちにそのつもりはないのだろうが。
今後アルノードの運営するクラン資金や人材は潤沢になる。
なのでなくともお金の問題は、あまり考える必要はない。
彼たちもほとんどアルノード任せにしているようだし、好きなようにやらせるのが一番だろう。
「じゃあね、シュウ。サクラを襲って既事実作っちゃってもいいんだから」
「生を使った快楽は、人間を墮落させる。端的に言って研究の邪魔にしかならないよ。君たちこそ、僕が作業している間に魔を近寄らせないようにしてくれよ」
「うるさい……シュウ、お母さんみたい」
「あっはっは、確かにそう! うるさい継母ってじかも!」
エンヴィーたちは軽くじゃれ合ってから、めいめいに散っていった。
ちなみに今回はシュウ殿と私が居殘りだ。
しばかりやることがあるのでな。
エンヴィーたちの手には索敵の魔道が握られている。
なんでもシュウがガードナーに來る道中に作った、アルノードの『サーチ&デストロイ君』の機能を簡略化させ、量産化に功させた魔道らしい。
機能も単純で、魔の數と居る方角を教えてくれることのみ。
彼たちは気力察知で大の強さがわかるため、それだけでも十分らしい。
私も気力察知なら、そこそこ自信がある。
頼んだらあとで一つ、売ってもらえたりしないだろうか……?
ちなみに魔道の名は『索敵球』……正直、しばかり安直すぎると思う。
私は個人的にはアルノードの、ヘンテコな名付けの方が好きだ。
「それじゃあやりましょう。土木ギルドとは話ついてるんですよね?」
「ああ、『辺境サンゴ』のやり方というのを見せてもらおうじゃないか」
「やり方もクソもないですよ、ただもったいない手抜き仕事をするだけなんで。これ終わったら自由にしてていいってことなんで、ちゃっちゃと済ませます」
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