《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》【おまけ③】侯爵様は夫人がしいので。
「アレリラ」
「はい、イースティリア」
ある日のこと。
結婚式をつつがなく終えた後。
朝の寢室にて、アレリラはイースティリアと向き合っていた。
初めて結ばれて重だるく違和のあるを、優しく抱きしめてくれる旦那様の呼びかけに、アレリラも淡々と言葉を返す。
恥ずかしいと思う気持ちは、耳の先がほんのり熱いくらいしか表に出ないけれど、同じようにこちらを見つめるイースティリアには悟られているようで、耳を軽く指先でもてあそばれて、しくすぐったい。
対する彼も、とても整った顔立ちはいつもながらの無表だけれど、アレリラには彼の瞳のやわずかな表のきだけで、そのを理解出來る為、不便はないし不安もない。
アレリラをしいと思ってくれているらしい、その優しい視線をけて恥ずかしいけれど、目は逸らせない。
ちなみにお互いに、ことを終えた後に夜著はきちんと著込んでいる。
「一昨日、ペフェルティ伯爵からある打診の手紙があった」
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「存じておりません」
突然出てきた元婚約者の名前に、アレリラはほんのわずかに目を見開いた。
そもそも一昨日は仕事納めの翌日、式の準備に奔走していたのに、この有能な旦那様は雑務の処理まで行っていたようだ。
「屋敷に私信として來た。用件は、『領で見つかった金鉱脈を譲りたい』というものだ」
「……それは國を通すべきことでは。それと、銀山の間違いでは?」
「いや、金山だ」
アレリラは戸った。
ペフェルティ領は、ウェグムンド侯爵領と、ダエラール子爵領に隣接している。
山が多く木の輸出などをしているペフェルティ領は、開拓はほぼされていないものの広大な敷地を持っていて、その山の一つからし前に銀の鉱脈が発見されたのだ。
銀山は見つかったら申請が必要で、価格崩壊などを起こさないよう、國が採掘補助予算をつけて一括で買い取り、利益の二割を手數料兼稅として國に納めることになっている。
その話かと思ったのだが。
「……まさか、新たに金鉱脈まで見つけたということなのですか?」
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「そういうことだ。管理しきれないからと、こちらに回したいようだ。丁度、我が領、君の実家、ペフェルティ領の境あたりにあるらしい」
「それはまた、面倒なことですね」
誰の所領なのかをはっきりと書式にした上で対応しないと、口を挾みたい者を巻き込んでいさかいになる。
銀よりも価値がある分、扱いも慎重にならざるを得ない。
國や他の高位貴族との兼ね合いも多く、確かにウェグムンド侯爵家に渡すのが正しいだろうけれど。
『いやオレ、銀山だけでもいっぱいいっぱいなのに金山とか、他の貴族や賊の対応とか、バカなんでマジ無理なんで〜! よろしくお願いしゃ〜す!』と、あの能天気な笑顔が口にしそうな言葉と共に脳を流れて、思わず微かに眉を寄せる。
「君の不快そうな表も珍しい」
「あの方の格は、知させていただいておりますので」
なんでもかんでも『お前の喋ってること、ぜんっぜん意味分かんねー!』と投げ出して逃げ出すこと數知れず、その拭いをしてきたである。
補佐が上手いと言われるのは、その影響だろうと思っている。
―――分からないのなら、なぜ分からないことを質問して分かろうとしないのか。
アレリラには昔から、そこが一番不思議だった。
「彼が言うには、その金山を君への結婚祝いに出來ないかと」
「……………は?」
「私は賛同し、譲渡の書類を取りまとめ、け取れるよう手続きを行おうと思っている」
「お待ち下さい、閣下」
「イースティリアだ。今は職務中ではない」
「……イースティリア。申し上げますが、それはかなり重大な案件です。領主同士の一存で決めて良いことではなく、まして所有者が一夫人などもっての他かと」
「宰相として重々承知している。その上で、明日、陛下の祝福を賜った後に面談の時間を設けていただき、その後、披宴にて重役達への回しを行う予定だ。
そしてその所有者が新婚の侯爵夫人である點については問題なきよう、昨夜早馬にて手を打ってある。
現在審議中の婚姻契約書には既に待ったを掛けた。話が通れば、婚姻解消の際の條件として『夫人有責であれば國に返還、侯爵有責もしくは円満解消の際、譲與財産として金山を譲渡する』の一文を加える。
それまでは侯爵家の財産として管理し、利益を夫人の個人口座にて管理する。何か質問は?」
「質問はございません。手際の良さには服するばかりですが、異議があります」
「聞こう」
「手を打つ前にご相談下さい。莫大すぎる財産は心臓に悪いです。出來れば辭退したく」
「今後善処しよう。その金鉱脈の管理についてだが、管理の下請けとしてダエラール子爵に任せることにする。初期資金と管理が整うまでの人員等については、侯爵家主導にて行う。個人資産となる利益の分配率は君に任せる」
「畏まりました」
実家の利益になるように計らうというイースティリアに、アレリラは手のひらを返した。
「……ですが、何故ぺフェルティ伯爵がそのような提案を?」
アレリラがボンボリーノの顔を思い返しながら問いかけると、イースティリアはアレリラの髪をでながら、淡々と答えた。
「侯爵夫人となった君には弁えておいてしいのだが」
「はい」
「世の中には、様々な人間がいる。愚者もいれば賢者もいて、愚者ではない者と賢者ではない者が、その間に數多くいる」
「存じております」
「ペフェルティ伯爵は、愚かな賢者、もしくは賢い愚者だ」
「……その評価は、分かりかねます」
「ボンボリーノ・ペフェルティという人は、面會したことや夜會で見かけたことが幾度かあるが、賢者ではなくとも人はある。その點についてはどう思う?」
「事実かと」
「真なる愚者に、人は募らん。ただ集(たか)って奪い取るだけだ。しかし彼は與えられる側だ」
「……そうかもしれません」
イースティリアの言葉の著地點が珍しく読めず、アレリラが戸っていると。
「彼が、君がけたような仕打ちを何故したのかを調べ上げた。彼は君に何と言って婚約を破棄した?」
「『アレリラ嬢、俺はお前と話すのがつまらん。お前もそうだろ? それに背も俺と釣り合わないし、オレは黒髪より金髪が好きだし、なんかお前は俺には勿ない気がする。だからアーハを嫁にするから、ごめんな!』です」
一字一句違わず答えると、イースティリアは何故か苦笑した雰囲気を見せた。
「それを聞いて君はどう解釈した?」
「背が高く気臭く、つまらないだと言われたと」
「深読みのし過ぎだな。彼は言葉に裏を持たせることがないタイプの人間だ。ゆえに、口にした言葉はその通りの意味でしかない。『話が合わず、外見も中も釣り合いが取れないから、君は自分にはもったいない』だ。どうやら、正攻法での婚約解消は前伯爵に止められていたようだしな」
アレリラは、今度こそポカンとした。
「では、いつもわたくしに『分からない』と口にしていたのは、逃げていたのではなく?」
「本當に分からなかったんだろう。そして『何が分からないのかも分かっていなかった』のでは? 分からないことに対して、質問は出來ないからな」
「……はぁ」
言葉に含みを持たせない、という視點は、アレリラにはないものだった。
「それに、君を王宮に召し上げるように働きかけたのも、私が君の存在を知ったのもペフェルティ伯爵からだ」
調べると有能だから、書としたと。
「……申し訳ありません。珍しく、事実に対して思考が追いついていません」
「良い。彼はそれなりに君を気にかけていた、ということを前提として考えてしい。だから、金山だ。彼は事を深く考えないが、結果としてペフェルティ伯爵は君を自分という人間から解放し、能力を発揮する場所を世話し、そして今また、もし離縁となっても君が困らぬような財産を贈ったのだ」
そう聞くと、とんでもなく大事にされている気がするが、相手はボンボリーノ。
多分そこまで考えていない。
考えてないが、事実としてはそうなる。
「ではわたくしは、彼に謝せねばなりません。結果として貴方という方の妻になれたのは、この上なく嬉しいことです」
「同様に、私も謝している。君という、心からせると出會わせてくれたことに」
イースティリアは微かに微笑み、そっとアレリラの頬に口付けた。
そのに昨日の夜を思い出して、顔に熱がこもる。
「ぺフェルティ伯爵が誤解されたままでは、フェアではないと思った。そして、あの自覚なき賢者の君への最後の善意が杞憂に終わることを誓おう」
耳元で囁かれる言葉に、アレリラは幸せをじる。
「―――生涯、共に在ることを約束しよう。しいアレリラ」
「はい、イースティリア。わたくしも貴方を幸せに出來るよう、生涯をかけて努力いたします」
アレリラたちのイチャイチャが見たい! ってことだったのですが、この二人はいちゃついていてもこんなじでした。
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