《【書籍発売中】貓と週末とハーブティー》3 姉弟と緒のアルバムと

「このアルバムはね、私が仕事で撮った寫真とは別で、超プライベートな寫真がいっぱいなの。私、昔からカメラが大好きだったから、親からカメラ奪ってカシャカシャしていてね。カナメのチビな頃の寫真もあるよ」

「! それは見たいです!」

け取ったアルバムを早苗はドキドキと開く。

アルバムはミニサイズの臺紙にるタイプで、一ページに一枚ずつ収められており、分厚さはなかなかのものだった。

いそいそと鞠は椅子を移させて、解説役として早苗のすぐ橫につく。

一ページ目からすでに威力抜群で、五~六歳くらいの天使みたいなタレ目の男の子が、貓耳パジャマを著てベッドに転がっている。

「か、かわっ! なんですかこれ、かわいい! え、ハッカさん!? これハッカさん!?」

「ハッカさんってのもカナメのこと? そうそう、かわいいでしょこれ! 私と母さんが著せたのよー!」

「ええ、めっちゃグッジョブですよ! 超かわいいです!」

「でしょでしょ? 顔に出さないけど父さんもメロメロでさー。子育て雑誌の巻頭を飾ったこともあるのよ。あ、こっちの寫真はどう? 小學校の文化祭で、カナメがお姫様役したやつ」

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「王子様役じゃないんだ!? でもこれは……ナンバーワンプリンセスですね!」

「クラスで一番かわいかったんだから仕方ないよねー」

二人はきゃっきゃっと異常に盛り上がり、早苗はもう普通に『ハッカさん呼び』に戻っていた。

要はい頃から綺麗な男の子だったようで、周りから蝶よ花よと溺されて育ったらしい。それもあっての、あのゆるゆるな格が形されたのだろう。

「このあたりになってくると、ハッカさんは中學生ですか……うっわ、年。眩しい……目の保養……。それにしても鞠さん、寫真撮るの本當にお上手ですね。プロの方にこんなこと言うのも変ですが、寫真自がすごく生き生きしているじがします」

い頃の寫真は、被寫は主に要中心で技も拙かったが、寫真の中の要が長するに連れて、カメラマンである鞠の技も目に見えて向上していっている。

この頃になると、要だけでなく、空や花といった自然だけの寫真も増えてきた。

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どれも生(なま)の生命力をそのまま閉じ込めたような、見事な出來だ。

「ありがとう。この頃は本格的にカメラの勉強をはじめたばかりで、自然を撮ることが多かったかな。カナメのことは変わらず激寫し続けていたんだけど」

「どれもすごく素敵な寫真です……あ、學ランのハッカさん! 高校生ですね。に、似合わなくて面白い……!」

「私と母さんはブレザーの方が絶対似合う! って押してたんだけど、カナメの選んだ高校が學ランでさあ。貓背に學ランはダメだよね」

「いやでもこれはこれで……って、あれ? この人って……」

ページを半分超えたところから、要以外のとある人のピン寫真がチラホラ目立ってきた。

大柄なつきで、ガテン系っぽい三十代前後の男だ。顔は厳つく、寫真ではどれも渋面を作って寫っている。

「ああ、ソイツはね、私の旦那。ケンスケ」

「この方が……」

緑だらけのハーブの庭を創り上げた、鞠さんの旦那さん。

そう認識しなおして、早苗はじっと寫真を見つめる。場所はちょうどこの洋館で、ケンスケは庭でハーブの手れをしているところのようだった。

一メートルちょっとある高さの、細長い葉を付けたハーブだ。淡いブルーの小さな花ががある。

そのハーブと寫っていると、ケンスケはギャップでちょっとほのぼのして見えた。

『森のクマさん』みたいなじで。

「出會いは私が會社員時代、仕事繋がりだったかな。見た目通りのザ・不用な男ってとこが、私の好みにドストライクでさ。がんばって口説き落としたのよ。ただ並んで歩いていると……実際にケンスケは私の五歳上なんだけど、ほら、私ってこのお子さま型に顔でしょ? イケナイ関係に思われて、たまに警察に聲かけられてね」

「鞠さんは……下手したら高校生でもいけそうですしね」

今より若い時代だったなら、なおさら二人が並ぶと犯罪臭がしただろう。

「毎回必死に弁明するケンスケが面白かったな。まあ、結婚してすぐ、その寫真を撮った直後くらいに、通事故で死んじゃったんだけど」

「……え」

あまりにもサラリと、鞠が旦那の死について挾んできたので、早苗は一瞬反応が遅れた。

デリケートな話題のため、コメントに悩む早苗に対し、鞠は「結婚早々、いきなり未亡人にするとかマジないわー」と軽い調子で笑い飛ばしている。

……鞠のような強いだと、もう過去のこととして、気持ちの整理をし終わっているのだろうか。

早苗は戸いつつも、この話題には下手にれないでおいた。まだ明るく笑う鞠に曖昧に頷き、アルバムの次のページをめくる。

そこにいたのは、現在の年齢に追い付いた要だった。

「というかこれ……スーツさん?」

スーツは著ておらず、紺のカットシャツにスキニーパンツとカジュアルな格好だが、要は背をばし、髪をで付け、ノンフレームの眼鏡をかけている。

なにより眼鏡越しの瞳が鋭利なを湛えているので、間違いなくスーツを著ていないけどスーツさんモードだ。

その橫には、髪の長いが寫って……。

「あ、ああっと! それはアウト! ダメ! さすがにカナメにマジギレされるやつ! アルバムタイムはこれでおわり!」

「あっ!」

早苗が真剣にその寫真を観察しようとしたところで、取りした鞠がアルバムを暴に奪った。

そのままサッと背中に隠されてしまい、「さっきの寫真って……」と、聞こうにも聞けない。気まずい沈黙が一瞬下りて、鞠は切り替えてあははと空笑いする。

「カ、カナメってば遅いなー。たかが買いくらいで、何分かかっているのやら」

「……なにを買いに行かせたんですか?」

「たいしたことないよ。夜に久しぶりに日本らしいもの……ガッツリ和食が食べたくなったから、いろいろリクエストしただけで」

「そのいろいろが多かったんじゃないですか」

「えーそうでもないのに」

早苗も空気を読んで調子を合わせ、ひとまず寫真のことは頭の隅に追いやった。気まずさを長引かせないのは、営業としても大事なスキルだ。

再びなんでもない會話を弾ませていると、ガサガサと紙袋のすれる音を立てて、誰かが庭にってくる。

噂をすれば――――パシりに行かされていた要だ。

パンパンに詰め込まれたスーパーの袋を両手に抱え、貓背がいつもより貓背っている。気だるさも割増しで、全から疲労が滲み出ていた。

「はあ、疲れた……なんで休日にこんな目に……ってあれ? なんで早苗さんと姉さんが一緒にいるの?」

「お、お邪魔しています」

「門の前で遭遇したから、私が引きれたんだ。買いひとつでそんなに參るなんて、だらしないぞ、弟よ!」

要は早苗の存在にタレ目を丸くしていたが、鞠の叱咤に「姉さんのリクエストが多いし雑なんだよ」とため息をつく。

「醤油の利いたなんかが食べたいとか、茶碗蒸しもアリだけどおでんもいいとか、いや湯豆腐もとか……メニュー考える方のにもなって」

「だってカナメのごはん、なんでも味しいからさー」

「それは嬉しいけど……」

あ、姉弟の會話だと、一人っ子の早苗はちょっと新鮮にじる。要の雰囲気も、橫暴な姉に困らされる末っ子というのが全開で、なんだか微笑ましい。

「本當、姉さんは調子がいいんだから……ん? ねえ、そのアルバム」

「げ」

鞠の背に潛んでいたアルバムを、目敏く要が見つけてしまった。

スッと、要の目がつり上がる。

「まさか、早苗さんに見せていないよね?」

「んー……と」

「…………見せていないよな、姉さん?」

用にも、要は半分だけスーツさんモードのスイッチをれて、冷ややかに鞠を見據えた。背後には絶対零度の風が吹いている。

鞠は降參のポーズをとって、「マズイページは見せてないって!」と言い訳をする。

「マズイページって、どれを見せてもマズイんだけど」

「貓耳パーカーもプリンセスも、別にマズくないし。人に広げるべき輝く寫真だし!」

「あれを見せたのか……?」

「だからそのモードで実の姉を睨むなって! 鍛えたの私だけどビビるから!」

仲のいい姉弟のやり取りに、早苗はすっかりおいていかれてしまった。

やがてハッと気付いた要が、いつものようにへにょんと眉を下げて、「ごめんね、早苗さん」と謝ってくる。

「姉さんが迷かけたみたいで……なにか飲んでいきます?」

「あ、ああ、いや。今日は貸切りのとこれてもらっただけだし、私のことはお気遣いなく……」

「そうだ! 早くいつもの私専用のハーブティー淹れてよ! あれを飲まなきゃ!」

勇んで聲をあげる鞠は、とことん自由だった。

要は再度ため息をついて、袋を持ったままダラダラと、カウンターの方に歩みを進める。

「とりあえず姉さんを黙らせるために、この袋を片付けて、カフェスタイルに著替えてきます……早苗さん、ごゆっくり」

「ハッカさん……なんていうか、お疲れ様です」

哀愁漂う要の背中を、早苗は苦笑気味で見送る。

やはりゆるだるな弟は、今も昔も、パワフルな姉には勝てない模様だった。

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