《【書籍発売中】貓と週末とハーブティー》5 常連ズとお久しぶりと

旅行から戻ってきて、繰り返し始まった一週間は、早苗にはひどく長くじた。

早く週末にならないかな。

うそまだ水曜日?

まだ半分もあるじゃん! みたいなじである。

ただ週末が近づいたら近づいたで、もう金曜日!? と焦ることになったが。

またフッたフラレたという事実のある善治とは、これといって気まずくなることもなく、いつも通り……と思いきや。

「早苗先輩、この企畫書、俺がまとめておきました! どうですか? 俺、仕事出來ますよね? 惚れましたか?」

「また飲みにいきましょうよ! たまには二人きりでどうですか?」

「ハーブティーについて、俺にも教えてほしいッス!」

などと、ちょいちょい骨なアピールを、善治はめげずに日常の間に挾むようになった。

早苗は真正面からまだまだ余裕でわし、周囲はそんなわんこを相も変わらず微笑ましく見守っている。これはこれで平和だった。

そして、早苗にとって待ちんだ、週末がやってくる。

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土曜は出勤日だったため、早苗は日曜の午後から用意を整えて外に出た。ただカフェに行くだけなのに、無駄に服に悩んで、結局お気にりの秋ニットに細のタイトパンツを選択した。らしさよりは、落ち著いた大人なコーデだ。

結んだ髪もハネはないし、化粧のノリも悪くない。冬が近づいてきているわりに、青々とした秋晴れの今日は、風も溫度もにちょうどいい。

ただひとつ、難點をあげるとするならば。

「頭いったい……久々に飲み過ぎた……」

昨日の夜、逸る気持ちと張を抑えようと、々、いやだいぶ酒をあおった。しかもアルコール度數の強いものばかり。

酒豪の早苗が二度目の二日酔いになるレベルなので、善治あたりが同じ量を飲んだら、軽くぶっ倒れているだろう。

だけど今日を逃したら、またズルズル行けなくなってしまいそうなので、早苗は頭痛も吐き気もなんとか耐えて『ねこみんと』に向かっている。

「……お土産も持ってきたし、大丈夫、うん」

肩にかけたトートバッグの紐をぎゅっと握る。中には旅行中に、要にあげようと考えて買ってきた、ささやかなお土産がっている。

カップを両の前足で持った、三貓の付けストラップ。

たまたま旅館の売店で見つけただけだが、なんとも要にぴったりだと思った。貓なんかそのままミントだし、カップはハーブティーを連想させる。全的にゆるいデザインなのも似合う。

あとは渡せるかどうかだが、そこは気合いだ。

羽塚宅の前まできて、早苗はふうと呼吸を整えてから、門を開けようとした。貓の顔をかたどった木板の看板は、本日もちゃんと営業中なことを示している。

だが門に手をかけたところで、向こうからふくよかなと、小學生くらいの男の子が、並んで談笑しながら歩いてきた。

見覚えのある二人の姿に、早苗は「ん?」とし意表を突かれる。

「――――志保さんと、マロウブルー年?」

「あ、早苗ちゃん!」

「ツリ目の姉ちゃんだ!」

意外な組み合わせに驚く早苗のもとへ、志保と年は門を開けて駆け寄ってきた。

「よかったわ、早苗ちゃんが來てくれて! 要ちゃん、早苗ちゃんが來なくなってから、とっても寂しそうだったんだもの。ぼーっとして、カップを落として割っちゃったのよ。どうして來なかったの? もうハーブティー飽きちゃった?」

「いえ、そういうわけでは……ちょっとした諸事で」

「まあなんでもいいのよ! これで要ちゃんも元気になるわ!」

久しぶりでも変わらずペラペラお喋りな志保は、ぽっちゃり顔を綻ばせて、傍らの年に「ねー」と同意を求めている。

年も「だな、おばちゃん」とうんうん頷いていて、なにやらとても仲良しな様子だ。

早苗の足が遠退いていた間に、もとより常連な志保と、一人でも『ねこみんと』に遊びに來るようになっていた年は、だいぶ打ち解けていた模様である。

「オレも食べ終わった皿、師匠がガッチャンって割っているとこ見たよ。ポンコツな師匠がもっとポンコツになっちゃうから、姉ちゃんは今度からもちゃんと通ってやってくれよ!」

「師匠っていうのは……」

「カフェのタレ目の兄ちゃんのこと! ゲームのこととか、ハーブのこととか教えてもらっているから、オレの師匠!」

ついでに要は、年の師匠にまで昇格していたらしい。

そういえば、年がはじめて『ねこみんと』に來たとき、弟子りがどうとか言っていた。

ちょっとカフェに行かない間に、いろいろお客様事も変化しているなあと、早苗は妙におかしくなった。

「じゃあ私はこのあと、旦那とアウトレットにお買いにいくから。次の週末は、またカフェで一緒にお茶しましょうね、早苗ちゃん」

「オレはこれから母ちゃんと映畫見に行くんだ! また母ちゃんもカフェに連れてくるから、そんときは姉ちゃんにも紹介するな」

またね、じゃあねと手を振って、志保と年はそれぞれ別の方向に去っていった。お互い、旦那さんやお母さんとの仲も良好らしい。

賑やかな常連ズを見送って、二人が教えてくれた要報を、早苗は立ち止まったまま反芻する。

鞠も言っていたように、早苗が『ねこみんと』に來なくなったことで、要がダメージをけていることは、どうやら噓ではないようだ。

「よし」

なんだか勇気をもらって、今度こそ開いた門を、早苗はくぐり抜けようとした。

そのときだ。

「あの、早苗さん……でしたっけ」

「あ……」

年が去った方向から、背まで流れる長いブラウンの髪を靡かせて、一人のが現れた。ここで早苗と初遭遇したときと同じ、髪型はバレッタで留めたハーフアップ。服裝は白を基調とした長袖ワンピースで、やはりたおやかで可憐な印象をける。

千早さん、と、早苗はそのの名前を、口の中で小さく転がした。

「このカフェに、要さんに會いに來たんですか?」

「は、はい」

「そうですか」

鈴の音のような聲で、探るように尋ねてきたかと思えば、早苗の返事を聞いた途端に黙り込む。そんな千早の思がわからず、早苗はゴクリと息を呑んだ。

千早は、要の元カノさんとかではない。

ではないが、スーツさんにとって、もっとも近い存在であったことは確かだ。

鞠からの報によると、昔はスーツさんに好意を向けていたっぽい面もあるようだし、早苗としては相手の出方をどうしても窺ってしまう。

「……本當は、今日は要さんに話を聞いてもらおうと思ってここに來たんだけど。私、実は要さんの言う『早苗さん』とも、一度お話がしたかったの」

「私と、ですか」

「ええ。このカフェで……だと、要さんもいるしし気まずいから、どこか別の場所で。突然こんな申し出をしてごめんなさい。お時間はあまり取らせないし、どうかしら?」

悩んだのは數秒で、気分的には「けてたとう」という戦士のような覚悟で、早苗は了承の意を込めて頷いた。

頭に流れるのが戦闘用BGMなのは、さきほど年がゲームの話をしていたからだろうか。

「よかった。じゃあ行きましょうか」

「……はい」

要に會いに行く前のラスボス戦だなんて思いながら、早苗はふわりと漂う、花のような千早の香りを追い掛けた。

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