《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》新しい街

そうだ、あのは?

スティーヴンは彼のもとに駆け寄った。腕が切り裂かれて大量のがあふれていた。もしかしたら回復系のスクロールが使えるかもしれない。一番高価なスクロールを思い出し『空間転寫』する。オレンジのスクロールが目の前に現れ、今度は緑の〈対象の選択〉が現れる。スティーヴンはの腕を選択した。

「アクティベイト」

オレンジのスクロールの影が消える。と同時に、の腕はきれいに治っていった。

これは自分の力なのだろうか、スティーヴンは一瞬そう思ったが、すぐに思い直した。おそらく騎士の誰かがスクロールを持っていたに違いない。そうでなければおかしい。どうして転寫もしていないスクロールが効果を発揮する?

そんなわけはない。

騎士たちは予想通りすでに死んでしまっていた。は小さく息をしていたが意識は戻っていなかった。スティーヴンはを背負うと森を抜け、一番近い街へと向かった。

幸い、森の中でほかの魔に遭遇することはなく、スティーヴンは一安心して歩みを進めた。

街に著くなり門番がの顔を見て慌て始めた。

「この方は、領主様の……。森へ魔を狩りに行っていたはずですが他の騎士たちは?」

スティーヴンは首を橫に振って言った。

「ブラッドタイガーに襲われて……それで、彼だけが」

「ブラッドタイガー? と、とにかく領主様に知らせなければ」

スティーヴンは門番の一人に連れられて街の中にった。通行料はいいのだろうか? と思ったが急事態だ、関係ないだろう。領主の城とみられる場所に通されてを預けた。領主はひどく取りしていたが、醫師が異常はないと判斷するとほっと安堵の息をらした。

「君が助けてくれたんだね。ありがとう」領主はそう言った。

「いいえ、偶然近くにスクロールがあっただけです」きっと、そのはずだ。

「そうか、いや、それにしても命の恩人であることに変わりはない。どうかお禮をさせてほしい」

「いえ、そんな……」斷ろうとすると領主の妻とみられるが言った。

「私からもお願いします。娘を助けてくれてありがとうございます。どうかお禮をさせてください」

スティーヴンは結局折れて、肯いた。

すぐに騎士が派遣され、ブラッドタイガーが死んでいるのが確認された。近くに騎士たちの死もあった。ただ、ブラッドタイガーを倒せるスクロールを持っていたという報はなく、どうやってファイアストームが発されたのか、どうやって回復魔法が発されたのか、理由はわからなかった。

「君がやったのでは?」

「いいえ。ぼくは何も……。ダヴィト文字は読めませんし書けません」できるのは書き寫すことだけだ。

「ふうむ」領主はうなった。

「まあいいじゃないの。料理を食べましょう」領主の妻がそう言った。

料理はとてもおいしかった。5年ぶりにまともな食事にありつけたような気がして、なんとなくほっとした。

「ところでどこかに行く途中でしたの?」

領主の妻は口を拭くと尋ねた。

「ええ。生まれ故郷の村に戻ろうかと思いまして」

「それは何か理由があって?」

「ええ」

スティーヴンは自分のの上を話した。領主と彼の妻はいたく同してくれた。

「それはひどい。よし。この街のギルドに紹介狀を出そう。何、大したことはない。働き口を用意してあげよう」

「本當ですか!」

スティーヴンは立ち上がってしまった。

「あ、すみません」

「いやいやいいんだよ。娘を助けてくれた恩人だ。このくらいのことでは足りない。他に何かしてほしいことがあったらいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます!」スティーヴンは頭を下げた。

その日は宿を用意してもらった。カビ臭く無いベッドで眠るのも5年ぶりのことだった。

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