《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》リンダのパーティ

変な疲れ方をして宿に戻ると宿主が怪訝な顔をして、スティーヴンを見た。

「おう、どうした。ずいぶん疲れてるみたいだな」

「いや、実は」

スティーヴンは宿主に領主の娘から言い寄られた話をした。もちろん直截(ちょくせつ)的な言い方はしなかったが。

宿主は大きく笑って店臺を叩いた。

「あの子にとっちゃ英雄なんだろうさ。救ったんだろ。無詠唱魔法で」

「ぼくは無詠唱魔法なんて使えませんよ」

スティーヴンはため息をついて否定した。

「ははは。噂に尾ひれがつくことなんてよくある話だ。だから俺のところまで泳いできちまう。聞きたくもない噂もちらほら聞くしなあ」

「聞きたくもない噂ですか」

「危険な魔がうろついてるって話だよ」

「ああ」

ブラッドタイガーのことか。確かにどうして、安全だと言われていた場所にダンジョンの奧深くにいる魔がいるのかわからなかった。

「まあ、宿主としては新しい冒険者がやってくるかもしれねえってことで商売繁盛だがな」

にやにやと宿主は笑った。

スティーヴンは想笑いをして、部屋に戻った。

あくる日。

「今日はマップの更新をする」

ギルドに出勤すると付の前でグレッグはそう言った。

「マップの更新はしたことがあるか?」

「ええ、いつもやってましたよ」

そう言うとグレッグは、おお、と聲をらした。

「マップを書けるだけじゃなく更新までできるのか」

「ええ、道さえあれば、ですが」

「それはもちろん用意しよう。それからマップの原本も持っていくといい。なくすなよ」

「いりません」

「は?」

グレッグは口をあけた。

スティーヴンは「へ?」と首を傾げた。『グーニー』ではマップの更新時に原本など持たされなかった。なくされたらたまったものではないというのが豚鼻上司フレデリックの主張だった。仕方がないので、自分で書いたマップを持っていっていたのだが。

「ぼくが書き寫したもので更新しますよ」

「あ、ああそうか。君のマップなら問題ないな」

そう言ってグレッグは更新用の道(魔導方位磁石やコンパスなど)と昨日書いてまだ売れ殘っていたマップを一つスティーヴンに渡した。

「このダンジョンだ。更新されたのは一年前。新しく掘りすすめられたり魔に壊されたりしているから、だいぶ狀況は変わっていると思う。冒険者をつけよう。おい! リンダ」

「なんですかにゃ!」

貓の獣人、アーチャーのリンダはクエストのり出してある巨大な掲示板のそばでそうぶと走ってこちらまでやってきた。

「彼の護衛を頼みたい」

「いくらにゃ!」

「銀貨80枚だ。パーティでな」

「銀貨80枚!!! やるにゃ!」

リンダは「おーい」と言いながら掲示板のそばに行くとすぐに3人の冒険者を連れてきた。

一人は巨大な盾を持っていた。屈強な男で顔には深い傷跡があり鼻がひん曲がっていた。

一人は不吉といわれる真っ黒な長髪ので腰に細い剣を攜えていた。

一人は狐の獣人で大きなカバンを背負っていた。

「見かけはあれだけどちゃんと仕事をするメンバーにゃ」

「見かけの話はどうでもいいだろう」盾を持った男が低い聲で言った。

「ごめんにゃ」

「俺はヒュー。そっちの黒い長髪がマリオン。で狐の獣人がテリーだ」

ヒューがそう紹介した。

「よろしくお願いします」スティーヴンは頭を下げた。

「名前は覚えなくていい。もしかしたらすぐ散るかもしれない命だ。クエストが終わったら、名前を憶えてほしい。次の依頼につながるからな」

そう言ってヒューはにやりと笑った。ジョークのつもりなのだろうか。

「あたしも含めてみんなAランク冒険者にゃ。信用していいにゃ」

「Aランク!」

前のギルドでマップの更新についてくるのはいつもCランク冒険者ばかりだった。だからろくに更新ができずに、ボス周辺のマップは過去のものを流用するしかなかった。

「ボス部屋まで行くんですか?」

「當たり前だにゃ! 任せろにゃ、部屋測るだけだから簡単にゃ」

本當に簡単なんだろうか。不安だった。

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