《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》

何を間違ったのか。

――……そのループからは逃れられない。

どこで間違ったのか。

――……そのループからは逃れられない。

スティーヴンは何度も、あの最後に記録した、喝采を浴びるシーンに戻った。戻るたびに思考した。

毒の樽を事前に処理しておけばいいのか?

エレノアを人質に取られなければいいのか?

何かあの魔族を倒す方法はないのか?

どの思考も行も無意味だ。

結局第2波は訪れる。

それは避けられない事実だった。

戻るたびにスティーヴンは死んだ。

――……そのループからは逃れられない。

彼は街の人間をどうにかして助けたかった。

エレノアを救いたかった。

この街は、スティーヴンを初めて認めてくれた場所だ。

守りたかった。

何度も街全に魔法壁を張り巡らせた。

しかし、必ず〈アンチマジック〉を使う魔族が現れて魔法壁は破壊された。

の波は黙示録のように、人々を死に至らしめた。

スティーヴンは真に絶した。

――――――――――――――――――――――――

――ユニークスキル〈記録と読み取り(セーブアンドロード)〉を発します。

――最後にセーブした場所へ戻ります。

――よろしいですか?

スティーヴンは黙っていた。もう何もできない。いくら戻ったところで死んでしまうだけだ。ならいっそ、このまま終わらせてしまいたい。ここで「NO」を選択すればいい。きっとそれは本當の死を意味する。

「NO」

彼はそう言った。

――諾しました。

ああ、これで死ぬことができる。

――スロットの選択に移ります。

「え?」

スロット1 ************

スロット2 ************

スロット3 ************

…………

スロット1571 *************

「なんだ、これ?」

目の前にオレンジの文字でいくつもの「スロット」が表示されている。

スティーヴンは試しに一つのスロットを選択してみた。

映像が頭の中に流れる。

スティーヴンはギルド『グーニー』にいる。夜だ。棚の上をから取り出したスクロールを見ている。〈アンチマジック〉だ。全てを見終わったところで、映像は終わった。

――――このスロットをロードしますか?

スティーヴンは息をらした。そのまま、大聲で笑った。

記録した記憶はいつでも思い出すことができた。そのおかげでマップを書くことができたし、スクロールを『空間転寫』できた。

記憶はいつだっていくつもあった。

どうしてその場所に戻ることができないと決めつけていた?

どうして最後の記録にしか戻れないと決めつけていた?

いつだって読み取り(ロード)ができたのに。思い出すことができたのに。

それに聲は言っていた。

――……そのループからは逃れられない。

……そ(・)の(・)ループからは逃れられない。

なぜ聲は死の宣告をしなかった?

他にもループがあるような言い方だ。

そうだ。その通りだ。

他にもループがある。

そしてそれを選択できる!

スティーヴンは笑い終えると、スロットを見て回った。

あの日、あの時を探していた。

そして彼は見つけた。

ドロシーに出會う直前。ダンジョンでマップの記録をつけ終えた直後。一度戻ったことのあるあの場所だ。あの時間だ。

――――このスロットをロードしますか?

「YES」

――諾しました。

――……生きたければドロシーについてもっとよく知りなさい。

「ええ、そうしますよ」

が見えた。

視界が開ける。窟の中から出てくるところだった。

「ふう。今日はらくちんだったにゃ」リンダはそう言うと、スティーヴンに絡みついた。

「仕事早く終わらすにゃ。酒場で待ってるにゃ」

スティーヴンは立ち止まった。リンダは眉間にしわを寄せた。

「どうしたにゃ?」

振り返るとそこは最後に來たダンジョンだった。初心者用ダンジョン。マップの更新に來た場所だ。

ずいぶん前に。

戻ってきた。功した。

ドロシー。

君のことを知っていたつもりになっていたがどうやらまだ知らないことがたくさんあるらしい。

君に聞きたいことが山ほどある。

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