《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》改竄

翌日、スティーヴンはドロシーに連れられて外に出た。

階段を上り、扉をくぐりぬけて地下室から地上に出る。

崩れ落ちていない教會部は初めて見る。大きな像などはない。石造りの建で、窓からが注いでいる。椅子ではなくベッドが何臺もある。いくつかは使われていて、けが人や病人が臥せっている。

ドロシーが言った。

「彼らを〈エリクサー〉で治して」

スティーヴンは言われた通り、一人ひとり〈エリクサー〉をかけていった。病人もけが人もみるみる調がよくなり、起き上がれるようになった。目を失ったものもを取り戻した。

「神の奇跡だ」

「ありがとう! ありがとう!」

病人たちは口々にそう言ってドロシーとスティーヴンに禮を言った。スティーヴンは騎士たちを思い出した。ちょうどこの教會で怪我をした騎士を助けたのだった。その元兇は今隣にいるドロシーだ。スティーヴンは彼を見た。

「これでいい?」

ドロシーは首を振った。

「まだよ」

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ドロシーは教會の外に出た。いくつかの家と畑が広がっている。働いている人は皆貧相で、食事をろくにとっていないように見えた。遠くに森が見える。緑がかすかにざわめいている。

「作農がうまくいっていないの。食事が十分にとれないのよ」

「作を生やせっていうの?」

「ちがう。魔を取ってきてほしい。あなたならできるでしょ? 無詠唱魔法使えるんだから」

スティーヴンは、これはただの使い走りではないかとじていたが、ドロシーについて知るためだと腹をくくって、森へと向かった。

森にってしばらく歩くと、オークの群れに出遭った。豚の頭にでっぷりとしたがついている。斧を持っていた。どこかの村から盜んだのだろうか。

スティーヴンはスクロールを『空間転寫』した。

スティーヴンは村の中心に向かった。そこにはドロシーが立っていた。

「早かったね。それで、魔は?」

「マジックボックスにってる」

スティーヴンは、マジックボックスから三のオークの死を取り出した。

「さすがね。それに、逃げずに戻ってきてくれてありがとう」

「もし逃げてたらどうするつもりだったの?」

「逃げても行く先なんてあの街以外にないでしょ?」

その通りだったので、スティーヴンは苦笑した。

その夜、村はお祭り騒ぎになった。オークのなんてそうそう食べる機會がなかったのだろう。倒せる人間もいなかったように見える。

村の真ん中で大きな火を焚いて、を焼いている。香ばしいにおいがあたりに漂う。

村人たちは皆、のしたたるオークのにかじりついていた。子供たちも幸せそうな顔をしている。

スティーヴンはその様子を記録するとドロシーの隣に座った。

「これで信用してくれた?」

「そうね。逃げなかったのが決め手」

ドロシーは微笑んで、村人たちを見ている。

「そう言えばあの口調は【コレクター】の時だけやってるの?」

「ああ。こういうやつねえ。語尾をばしてバカを演じてたの。だまされた哀れな【コレクター】をね」

「だまされたって?」

ドロシーはスティーヴンに視線を向けた。

「あの街には魔師がいる。しかも、その魔師は人の記憶をることができる」

「え?」

「信じられないかもしれないけど、そういうユニークスキルを持った魔師がいるのよ。ただ、誰が魔師なのかも、どうして人の記憶をっているのかもわからない。悪意があるのは確かよ」

ドロシーはふっと息を吐いて続けた。

「私は、だから、あの街では數人を除いてだれも信じられなかった。もちろんあなたもね。だって魔師かもしれないし、記憶を改ざんされているかもしれない。あなたは最近この街に來たことになっているけれど、実はそれも記憶の改ざんかもしれないしね。考えれば考えるほどわけがわからなくなる。だから、とりあえず全員疑うことに決めたの」

「どうしてぼくのことは信用することにしたの?」

「だって、未來から來たってのが本當だと思ったから。私が何をしようとしているか當てたでしょ? それに街が襲われるって話もダンジョンの長の話も筋が通っているようにじた」

は息をついだ。

「ユニークスキルは一人一つしか持てない。未來のことを知っているあなたは何らかのユニークスキルを持っていると思った。『記憶改竄』以外の何かをね。それに、あなたが悪意をもった魔師なら街が襲われるとか教會が襲われるなんてこと私に言わない。わざわざ拐されてまでね」

確かにその通りだと思った。

拐されてまで何かを伝えるなんてよっぽどの阿呆か、相當切羽詰まっているかだ。スティーヴンの場合は言わずもがな後者だった。

「だから信じることにしたの」

ドロシーはそう言ってまた火を眺めた。

さらに翌日。來客があって、スティーヴンは隠れるように言われた。地下室の扉に張り付くようにして、教會に響く會話を聞いていた。

しばらくすると足音が聞こえて、扉が開いた。

ドロシーが立っていた。

「來て。話したいことがある」

スティーヴンはドロシーについていった。

來客は領主夫妻だった。

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