スティーヴンはドロシーと別れた後、ダンジョンに向かい、り口に魔法壁を張った。

ここで待っていれば魔師がやってくる。このダンジョンは急長している。手を付けたに違いない。

焚火を作って夜を待つ。煙が森の中に放たれる。

真っ黒に染まった木々がざわめいている。どこかから魔の遠吠えが聞こえる。

ドロシー、村の人たちだけは守ってくれ。スティーヴンはそう願った。

街は今どうなっているのだろうか。すでに襲撃が？　わからない。

魔師を倒した後で街も守れるだろうか。

このループは詰んでいやしないだろうか。

思考がグルグルと回る。

彼の心を張と不安が支配する。

森がざわめく。そのたびに、びくっとを震わせる。

その時、ローブをにまとった人が現れた。空から降りてきて、地面にゆっくりと著地した。

「ここにいたのですか。魔でおびき寄せようと思ったのですが」

「ここにいればお前が來ると思っていたんだよ」

「相思相ですね」

彼はそう言った。その聲に聞き覚えがあったが、何処で聞いたか思い出せなかった。

フードを目深にかぶり顔は見えなかった。口元だけがしだけ見えていた。微笑んでいた。腰には剣をぶら下げていて、魔師なのか剣士なのかわからなかった。

スティーヴンは立ち上がり構えたが、ローブのはそれを制した。

「戦うつもりはありませんよ」

「ぼくはあなたを止めに來た」

「いいでしょう。では取引をしませんか？」

スティーヴンは眉間にしわを寄せた。

「あなたが私のものになる。その代わり村を襲うのをやめてあげましょう」

「街は襲うんだろ？　〔魔王の右腕〕のために」

「ええ。それは致し方ありません。私の真の目的はそれですから」

「それではだめだ。街は守る」

「つい最近來たばかりの街でしょう？　どうしてそこまで執著するのですか？」

スティーヴンは魔師をにらみ、言った。

「あの街でぼくは初めて居場所を見つけた。あの街がぼくを救ってくれた。ぼくはあの場所をなくしたくないんだよ」

「では仕方ありませんね。渉は決裂です」

彼は剣を抜いた。真っ黒な刀がになった。それは、赤髪の男が持っていた槍の先端に似ただった。

「奪います」

彼は駆け出した。

スティーヴンは雷撃を撃つ。

彼は剣を振って、魔法をいなす。

雷撃は逸れ、木に當たる。

「無駄ですよ。魔法は効きません」

スティーヴンは〈ファイアストーム〉を撃った。

炎の渦が彼を襲う――

切り裂かれる。

ローブのはにやりと笑みを浮かべた。

「私のスキルを知っていますか？」

「記憶作でしょ？」

スティーヴンは次の魔法を撃ちながら答えた。

「ドロシーに聞いたのですね。そうです。『記憶改竄』それが私のユニークスキルです。人の記憶をり、思いのままにかす」

「それがどうした？」

雙方の手が止まる。

「街の人間があなたをするように記憶を書き換えられたとは考えないのですか？」

スティーヴンはぞっとして固まった。

「そんなの……そんなのありえない！」

「例えばエレノア。どうしてあんなに積極的なのでしょうか？　助けられたくらいで。あの子はあそこまで積極的な子ではなかったはずなのに」

スティーヴンは狼狽した。

「私が記憶を書き換えたのですよ」

ローブのはそう言うと詠唱をした。

「アクティベイト」

その言葉にはっとして、スティーヴンはアンチマジックを構築する。

彼の魔法が消える。

「その魔法厄介ですよね。まあ、それを言ったら私のこの剣だって厄介な代ですが」

彼はくすくすと笑った。

スティーヴンは魔法を撃ち続ける。

まるで疑念を晴らすかのように。

氷屬最強の魔法も切り裂かれた。

あらゆる魔法を使ったが、その剣の前には意味がない。

スティーヴンはあの時の覚を味わっていた。

〈アンチマジック〉を異常な速度で撃てる魔族が現れた時と同じ覚。

――……そのループからは逃れられない。

あの聲を思い出す。

これもダメなのか？

何かを間違ったのか？

赤髪を捕まえられなかったからか？

わからない。

わからない。

ぼくは、本當はされていなかったのか？

誰にも認められていなかったのか？

あのグーニーでの評価は正しかったのか？

そんな考えが浮かんでは消えた。

スティーヴンはうなだれた。

心は折れ、打つ手が消えた。

魔師はスティーヴンのそばによると、頭に手を當てた。

「私のコレクションになりなさい、スティーヴン。幸福な生活を約束してあげましょう」

彼は記憶を失った。

◇

ドロシーは教會に子供たちと村人を避難させ、襲撃に備えていた。

教會全に魔法壁を展開し、村が崩壊しても教會は守られるようにしていた。數枚のスクロールではそれが限界だった。

「こわいよお」

子供たちは不安の聲をあげている。大人たちも口には出さないものの不安そうな顔をしている。

ドロシーは祈っていた。

――スティーヴン、お願い。村と街を救って。

夜になって、その時刻になった。スティーヴンに言われていた時間だ。

しかし、いくら待ってもその時は訪れない。

ドロシーは不審に思ったが夜通し目を覚まし、張していた。

太が昇った。

ドロシーは外にでたが、村は何も変化がない。

魔の襲撃はなかった。

スティーヴンがやってくれた。

「スティーヴン！」

彼は彼の名前を呼んだ。しかし、反応はない。

森へと駆けて行って、ダンジョンのそばに行ったが、そこには焚火の跡しか殘っていなかった。

「スティーヴン！！！！」

ドロシーはんだ。

返事はなかった。

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