《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》セーブ

赤髪の男のことなどスティーヴンは覚えていない。彼が誰なのか全くわからない。スティーヴンは首を傾げた。

「あなたは誰ですか?」

「ああ、覚えていないだろうな。そうだろうと思っていたよ」

彼は腰からナイフを取り出した。月明かりに浮かぶそのナイフは輝いて見えたが、その実、真っ黒な刀をしていた。スティーヴンはおびえた。

「何をするつもりですか?」

赤髪の男はスティーヴンに近付くと額に刃を向けた。

し刺すだけだ」

彼はスティーヴンの眉間にナイフをチクリと刺した。

その瞬間、スティーヴンの脳に大量のイメージが沸き起こった。

イメージ?

いや、これは記憶だ。

エレノアをブラッドタイガーから助けたこと。

街の人たちにれられたこと。

初めてループを経験したこと。

魔族の存在。

ドロシーとの魔師探し。

そのすべてが一気に戻ってきた。

一瞬意識を失う、目を覚ます。

スティーヴンは赤髪の男を見た。彼が今スティーヴンの額に刺したのはドラゴンの素材を使ったナイフ。

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――絶滅したドラゴンのはスキルも魔法も打ち消す効果があったの。

ドロシーの言葉を思い出す。

「それはドラゴンの……」

「そうだ。あいつが使ったスキルの効果を消した。記憶は戻ったか」

「戻った。でもどうしてお前が?」

スティーヴンは警戒して彼を見た。

「ドロシーに雇われたんだよ。白金貨5枚で。俺にしてみれば相當な収だ。どっからそんな金が出てきたんだか」

「白金貨5枚?」

――〈エリクサー〉はものっすごく貴重でどこにも出回ってないのよお。

――一つ白金貨5枚はするわあ。

ドロシーは〈エリクサー〉を売ったんだ。そこまでして助けようとしたのか。

「ドロシー……」

スティーヴンは彼謝した。

「さて、俺の任務はお前を助けることだけじゃない」

「他の任務って?」

「あいつを殺す。あの魔師エヴァを。お前も手伝え」

スティーヴンは一瞬ためらったが、頷いた。

いつもと同じように、エヴァは東屋(ガゼボ)に備え付けられたベンチ座って本を読んでいる。あの〔魔王の右腕〕がった箱は離さず持っている。

スティーヴンはトレイをもって彼に近付く。トレイの下にはナイフを隠し持っている。ドラゴンの素材ではない。あれは赤髪の男が持っていった。このナイフは調理場からくすねてきたものだ。

スティーヴンはテーブルにつくと、カップを置いた。

「ああ、ありがとうございます」

はスティーヴンがテーブルに置いたカップを手に取ると口をつけ……なかった。

「なにかおかしいですね」

はカップを置くと、スティーヴンを見上げた。

スティーヴンはナイフを取り出し、強化魔法を使って剣速をあげた。

「アクティベイト」

はいつの間にかスクロールを開いていた。

単純な魔法壁が展開される。ナイフが止まる。スティーヴンがよく使う最強の魔法壁ではない。完全理反ではない防魔法だった。

「私はいつだって警戒していましたよ、スティーヴン。いつかこうするときが來ると思っていました」

は言った。

その瞬間、

「後ろに気を付けな」

赤髪の男がドラゴンのナイフをエヴァの首に突きつけ、切り裂いた。

「かっは」

を噴き出し、元を抑えて、倒れた。

「ふう、これで終わりか?」

赤髪の男がそんなことを言った。スティーヴンは真正面からをかぶり、顔をしかめた。彼は袖で顔を拭い、目をあけた。

エヴァが、箱から〔魔王の右腕〕を取り出し、裝著した。

その鎧のような真っ黒な右腕に緑のダヴィト文字が走る。彼はそのまま、腕をに當てた。

文字が消える。

エヴァがのどから手を離すと、傷が消えていた。

エヴァは荒く息をする。せき込み、を吐き出している。

「なんだそれ」

赤髪の男は信じられないと言った顔をした。

何度もせき込んだ後、エヴァは言った。

「選ばれし者にしかつけることのできない鎧です」

はそう言うと右手を赤髪の男に向けた。腕が今度は真っ赤にる。ダヴィト文字がらせん狀に腕を這う。

魔法が発現してしまう。

咄嗟(とっさ)にスティーヴンは〈アンチマジック〉発した。

腕の文字が消える。

「スティーヴン!」

エヴァはび、スティーヴンをにらんだ。

その時、彼の腕に異変が起こった。〔魔王の右腕〕が外れた。

「え?」

エヴァは自分の右腕をみた。腕が、塵と化していく。

「どうして! 私は魔法を使えた! 私は選ばれし者のはずです!」

右手の先から塵になって徐々にそれは肘の方へと進んでいく。

「嫌です! スティーヴン! 〈エリクサー〉を使ってください! 助けてください!」

スティーヴンはナイフを握りしめた。

こいつのせいで何人の命が犠牲になった?

街は壊されてしまった。

初めてれてくれたあの街が。

スティーヴンはナイフを振りかざし、魔師の心臓に突き立てた。

エヴァはんだ。右腕が肩まで塵になり、その塵を〔魔王の右腕〕が吸い込んだ。

はがっくりとうなだれて、死を迎えた。

スティーヴンは呼吸を荒くして、彼を見下ろしていた。

その時、聲がした。

――ユニークスキル『記憶改竄』をセーブしました。

――最大魔力量をセーブしました。

スティーヴンは自分の両手を見た。真っ赤に染まっていた。

赤髪の男が言った。

「人を殺すのは初めてではないだろ?」

スティーヴンは彼を見て言った。

「ええ。でも慣れたくありません」

彼は寂し気に微笑んで言った。

「そうだな。……俺は慣れてしまった」

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