《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》再會と別れ

スティーヴンは赤髪の男とともにエヴァの家から逃げ出した。追いかけてくる者はいなかった。スティーヴンは〔魔王の右腕〕がった箱を抱えていた。

赤髪の男がスクロールを二枚取り出した。

「これで村に戻れる。俺は報酬をけ取ったらお暇させてもらうけどな」

彼はそう言って、スクロールの封を切ると、一枚スティーヴンに渡した。

「アクティベイト」

赤髪の男が唱えると空間がゆがんだ。

徐々に歪みが消えて、懐かしい景が見えてくる。

村だ。教會が見える。家々では村人たちが畑仕事をしている。

戻ってきた。

「スティーヴン!」

聲がして、彼がそちらを向く前に抱きすくめられた。

「ドロシー」

しだけ離すと、涙聲で言った。

「絶対戻ってくるって約束したのに!」

「ごめん。まさか記憶を消されるなんて」

「分かってたでしょ、バカ」

はそう言うと涙を流して、スティーヴンを強く抱きしめた。

「おかえり、スティーヴン」

「ただいま」

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スティーヴンは記録した。

ドロシーが赤髪の男と手を組んだ経緯について話を聞いた。

は彼を雇う方法を探し、ついに出會うことに功した。

赤髪の男はスティーヴンがエヴァのコレクションになっているかもしれないということに言及した。

ドロシーはそれに賭けた。

賭けは、功した。

話を教會で話し終えると赤髪の男は報酬をけ取り、すぐに消えた。

村はもとのままだった。どこにも襲撃の痕跡はなく、いたって平和だった。

子供たちは駆け回り、大人たちは今年の収穫や馬の調子について話し合っていた。

笑い聲が聞こえる。

スティーヴンたちは村からし離れたところで話していた。彼は言った。

「街は消えてしまった」

「ええ。でも村は守られた。それに私の記憶も戻ったわ。多分魔師を、エヴァを殺したから」

「うん」

スティーヴンは心ここにあらずと言った様子で頷いた。

エレノア

リンダ

パーティのみんな

マーガレット

ギルドのみんな

街の人びと

優しくして、認めてくれた人たちはいなくなってしまった。

守ることができなかった。

スティーヴンは手に持った箱を見下ろした。

「こんなもののために」

〔魔王の右腕〕が箱の中でっていた。

スティーヴンは考えていた。

この選択で本當に合っていたのか?

街の人々を犠牲にするのは正しい選択だったのか?

救う方法があったのではないか?

あったはずだ。

師の正はわかった。

あとは記録をロードすればいい。

そのためには死ぬ必要がある。

「ぼくは街を救うよ、ドロシー」

ドロシーはそれを聞くとぎゅっと目をつぶって、それから、息を吐きだした。

「過去に戻るってことでしょ?」

「うん」

スティーヴンが言うとドロシーは泣き出した。

「なんで泣くの?」

「だって死ぬってことでしょ?」

「でも、過去に戻れば街を、君を救える」

は首をふった。

「今のこの世界はどうなるの? あなたは過去に戻れるかもしれない。でも私はこの世界に囚われてしまうんだよ?」

は涙聲で続けた。

「あなたのいない世界に」

スティーヴンは呆然とした。そうだ、今までの世界だってそうだった。死んだ後の世界のことなんて考えたことがなかった。

誰かを未來に置いてきぼりにするなんて考えたことがなかった。

「スティーヴン。もしかしたらこの世界が一番正しい選択なのかもしれないんだよ? 街はどう頑張っても救えないかもしれないんだよ?」

「魔師の正がわかったんだ。止められるかもしれない」

「でも別の要因で街は結局破壊されるかもしれない」

ドロシーはスティーヴンの袖をつかんだ。

「ねえ、お願い。よく考えて」

スティーヴンは目を閉じて、しばらくして、言った。

「ごめん、ドロシー」

スティーヴンは彼の手を袖から離すと〔魔王の右腕〕を地面に置いたまま立ち上がった。

こんなものなければよかった。

彼は森の方へ向かって歩き出した。

しばらく歩くとドロシーが駆けてきて、後ろから抱きしめた。

「お願い! お願い! いかないで! 私を一人にしないで!」

スティーヴンは立ち止まり、彼の腕の中で振り返った。ドロシーはスティーヴンのを強く抱きしめる。

「ドロシー、みんながいる。子供たちも、村のみんなも」

の中で首を大きく振った。

「スティーヴン。私はあなたと一緒にいたい!」

は顔をあげるとスティーヴンに口づけをした。涙の味がした。

口を離すと、ドロシーは懇願のまなざしで彼を見た。

スティーヴンは言った。

「助けてくれてありがとう、ドロシー。謝してる。でもいかなきゃならないんだ。どんな結果になろうとも」

ドロシーは徐々に顔をゆがめた。

は理解した。どうあがいてもスティーヴンは止められない。

ドロシーは泣き崩れた。

スティーヴンは彼を置いて森に向かった。腰にはナイフがぶら下がっている。

彼は森の奧へと消えた。

ドロシーの泣き聲が響いていた。

――――――――――――

――ユニークスキル〈記録と読み取り(セーブアンドロード)〉を発します。

――最後にセーブした場所へ戻ります。

――よろしいですか?

「NO」

――諾しました。

――スロットの選択に移ります。

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