《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》スキル『記憶改竄』

視界が開ける。窟の中から出てくるところだった。

「ふう。今日はらくちんだったにゃ」リンダはそう言うと、スティーヴンに絡みついた。

「仕事早く終わらすにゃ。酒場で待ってるにゃ」

スティーヴンは立ち止まった。リンダは眉間にしわを寄せた。

「どうしたにゃ?」

振り返るとそこは最後に來たダンジョンだった。初心者用ダンジョン。マップの更新に來た場所だ。

ずいぶん前に。

ここがすべての分岐點のような気がする。この直後にドロシーがやってきて、その翌日にマーガレットがやってくる。重要な人たちはここからそろっていく。

スティーヴンはリンダに言った。

「ちょっといいですか?」

そう言って彼はリンダの頭にれる。

「何にゃ?」

スティーヴンはある可能じていた。

――ユニークスキル『記憶改竄』をセーブしました。

エヴァを殺した時に聞こえたあの聲。その意味するところは何なのか。

スティーヴンはスキルを発しようとした。

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――ユニークスキル『記憶改竄』を発します。

その時、リンダの記憶が流れ込んできた。

スティーヴンに関する直近の記憶が目の前を走っていく。

記憶の海。

様々な記憶の中で、スティーヴンは見つけた。箱が浮かんでいる。厳重に記憶を閉じ込めた箱が。

スティーヴンはその箱に近付いて手をれた。簡単に箱は開いて、記憶が飛んでいき、元あった場所に張り付いた。

スティーヴンはリンダから手を離した。

「どうですか?」

「どうって……何にゃ?」

「何か思い出すことってありませんか?」

「まだわからないにゃ」

「そうですか……」

スティーヴンはヒューや他のパーティにも同じことをしたが、皆わからないといった。おそらくドロシーがやってくればわかるだろう。

ギルドに戻り、マップを更新する。4回目の作業だったが、いつもと変わらない。

マップを書き終わり賃金をもらうと、スティーヴンはリンダたちのもとへ戻らず、ギルドの口近くに陣取った。ここからならギルド全を一できる。ってきた人もすべてわかる。

しばらくたっていると、リンダが近づいてきた。

「なにしてるにゃ、スティーヴン?」

「人を待っているんです」

「誰にゃ?」

「ドロシーです」

「ああ、あのシスターかにゃ」

スティーヴンは目を見開いて、それから安堵のため息をついた。

スキルは発している!

リンダは自分の言葉に怪訝な顔をした。

「あれ、シスターだったかにゃ?」

そう言って彼が首を傾げていると、ギルドの口から一人のってきた。

「ヒューという冒険者はどこお!」

ドロシーだ。

ぼさぼさの髪、よれよれのローブ、そばかすのある顔、すべてがあの日のままだった。エルフ特有のとがった耳は髪に隠れている。

スティーヴンは飛び出し、彼の後頭部に手を當てて、スキルを発した。

『記憶改竄』

の記憶が閉じ込められている箱から、すべての記憶を取り出す。

ドロシーはひざから崩れ落ちた。

「スティーヴン! なにしたのにゃ!」

リンダがドロシーに駆け寄った。

「記憶をもとに戻したんです」

「記憶?」

「じきに意識も戻ります」

ドロシーが目を覚ました。

「うーん……」

スティーヴンはしゃがみ込むと、彼と目を合わせる。

「ドロシー」

「あなた誰?」

「ぼくはスティーヴン。君の記憶をもとに戻した」

スティーヴンがそう言った途端、ドロシーは目をかっと開いて後ずさった。

「あなた、魔師なの!?」

「違う。記憶をたどれば違うと分かるはず」

ドロシーは額に手を當てた。

「わからない……記憶が混濁してて何が正しいのかわからない」

「何をされたのかを思い出せばいい」

「何をされたのか?」

ドロシーは立ち上がったが、ふらついている。

「あなたが魔師じゃないのはわかったわ。でも……」

ドロシーは目を瞑った。

「ちょっと考えさせてほしい」

はふらふらとギルドを出て行こうとした。

「明日このギルドに來てほしい。必ず」

スティーヴンはドロシーの後ろ姿に聲をかけた。

その夜、スティーヴンは皆のいをうけ、酒場に向かった。

酒場は冒険者でにぎわっていた。

スティーヴンはリンダたちと一緒の席につき、水を頼んだ。

「明日はこの街にとって重要な日です。Sランク冒険者も加勢してくれます」

「Sランク? そんなつてがあったのかにゃ?」

リンダが尋ねた。

「前のギルドにいたSランク冒険者が來てくれるんです。どうやら彼はぼくの作ったマップがしいようなのです」

「そいつ本當にSランクなのか? 前のギルドはひどいところだったと聞くぞ?」

マリオンは怪訝な顔をして尋ねた。

「前のギルド『グーニー』はひどいところでしたよ、でも彼がSランクになったのは別のギルドで、ですから」

「なんにせよ、Sランクがいるのは心強いな」

ヒューはそう言って頷いた。

そのとき、エレノアが酒場に現れた。スティーヴンは彼のもとに向かう。

「約束はどうしたの、スティーヴン」

「エレノアさん、聞いてほしいことがあります」

は何か言おうとしたが、スティーヴンの真剣な表を見ると、その言葉を飲み込んだ。

「なに?」

スティーヴンはエレノアにあることを言った。

「え?」

「このことはにしてください。もちろん家族にも。領主様には明日、ぼくから告げます。とにかく、エレノアさんは安全な場所に隠れていてください、明日どうなるか全くわからないので」

は逡巡したが、頷いた。

「分かったわ。にしておく」

そう言うと彼は酒場を出て行った。おそらく明日隠れる準備をするのだろう。

を魔師との戦闘に巻き込みたくない。

いや、それは街の人間も同じだ。

誰も巻き込ませない。

翌日。

「スティーヴンというマップ係を探している!」

マーガレットがやってきた。

スティーヴンはマップ係の仕事をせず、付の近くで彼を待っていた。

「お久しぶりです。マーガレットさん」

スティーヴンはそう言った。本當にそんな気がした。この數日、と言っていいのか定かではないが、過ごしてきた時間は濃で、とても長くじた。

マーガレットは距離を詰めてきた。頭一つ分高い位置から、視線が下りてくる。

はスティーヴンの手を取ると言った。

「私はマーガレット・ワーズワース。ギルド『グーニー』から君を追いかけてきたんだ。他のギルドも回ってようやく君を見つけたよ」

はそう言うとさらに顔を近付けた。空の髪がスティーヴンの頬をくすぐった。

「私専屬のマップ係になってくれ! 君のマップは素晴らしい。ダンジョンの中で〈テレポート〉を使っても道に迷わないくらいに」

スティーヴンは一歩後ずさると言った。

「マーガレットさん。早急に行いたいことがあるんです」

「なんだ? 協力しよう」

その清々しい解答にスティーヴンは小さく微笑んだ。

「ダンジョンが長している問題についてです」

「ああ、君も気づいていたのか。そうなんだ。この近くのダンジョンも長している。なぜかはわからないが……」

「理由はわかっています」

スティーヴンの言葉にマーガレットは驚いた。

「なに?」

「これから領主様のところに行って話をしてきます。一緒についてきてくれませんか?」

「あ……ああ。いいだろう」

そのとき、ドロシーが冒険者の間から現れた。

「ドロシー來たね」

ドロシーはスティーヴンのそばまでくると目をじっと見て言った。

「記憶の整理をした。けど、うん。私はあなたを信じることにする。話は聞いてた。私もついていく」

「お願い」

スティーヴンはリンダたちパーティにも聲をかけて、領主のもとへと向かった。

領主の城につくと、ホールで領主夫妻が出迎えてくれた。周りには騎士たちが控えていたが、微だにしない。

「やあ、スティーヴン。何か用かね?」

領主はそう言って微笑んだ。

スティーヴンは微笑みを返して言った。

「突然すみません、領主様」

そして、スティーヴンは領主の妻を見た。

「それから、エヴァさん、あなたに話したいことがたくさんあります」

領主は怪訝な顔をした。エヴァは不敵な笑みを浮かべた。

ブックマーク、評価ありがとうございます。

そして、レビューありがとうございます!!

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