《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》戦闘の終わり

スティーヴンが城に戻ると、即座にラルフに呼ばれた。

「おお。勝ったな、スティーヴン。服はどうした?」

「切られました。〈エリクサー〉で治したのでは大丈夫です」

「そうか。稱えたいのはやまやまなんだが、けが人が続出している。中には大けがをしているものも」

「わかりました。急ぎましょう」

橋の近くに橫たわる冒険者や騎士たちを手當てしていく。

治療が終わりどっと座り込むと、ドロシーが隣に座った。

「お疲れ様」

「うん。疲れた」

「服が裂けてるね。切られたの?」

「エヴァの近くに飛び込んで行ったからね。あいつが剣もってるのに」

「話が通じると思ったの?」

「話が通じないと思ったんだ」

ドロシーは笑った。

はスティーヴンの腰にぶら下がった剣を見て言った。

「その剣もってきたの?」

それはエヴァがもっていたドラゴンの素材でできた剣だった。

「うん。そう言えばどうしてもってこれたんだろう。ドラゴンの刃で魔法は消去されるはずなのに。〈テレポート〉でもってくることができた。赤髪の男もエヴァも初めから當たり前のように〈テレポート〉を使っていた」

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ドロシーは首を傾げた。

「さあ。わからない。私研究者じゃないし」

「魔法學校出てるんだろ?」

「あれ、話したっけ?」

「違う過去に」

「何それ?」

ドロシーは笑ったが、スティーヴンは真剣な顔をした。

「ぼくは未來から來たんだよドロシー。死ぬことで過去の記録した場所に戻ることができるんだ」

「そんな魔法は存在しないわ」

「ユニークスキルなんだ。〈セーブアンドロード〉。記録した時間を読み取ることでその場所に戻ることができる。僕は何度も失敗した。街を何度も破壊して、何度も死んだ。ドロシー、君が不幸になる未來も何度も見てきた」

ドロシーは真剣な目でスティーヴンの目を見返した。

「救いに來たよ、ドロシー」

は一瞬驚いて、そのあと俯いた。

「ありがとう」

ドロシーはそう言って、しだけ赤らめた顔をあげると、ほほ笑んだ。

「スティーヴン!」

リンダたちパーティが近づいてきて、スティーヴンは立ち上がった。マーガレットの姿はなかった。

「魔師を倒したのかにゃ!」

「倒しましたよ。これでこの街は大丈夫です。いくつかダンジョンを攻略しなければなりませんが」

「それは冒険者の私たちの仕事だにゃ!」

リンダはスティーヴンに抱き著いた。

「街を守ってくれてありがとうにゃ、スティーヴン」

スティーヴンも抱擁を返した。

「いいえ。こちらこそ、協力していただいてありがとうございます」

「あたりまえにゃ!」

スティーヴンはヒュー達とも抱擁をわし互いを稱えあった。

そこにラルフがやってきた。

「スティーヴン、君の援護と治療のおかげで冒険者の死者はほとんどいなかったぞ」

「本當ですか。それはよかった」

「街を守ってくれてありがとう。ギルドを代表して禮を言うよ」

「いいえ。ぼくはただ、みんなに恩返しをしたかっただけなんです」

「恩返し?」

「ぼくを見つけてくれた。今までダメな人間だと言われていたぼくを見つけて居場所をくれた。ぼくはこの街が大好きなんですよ。謝しています。みんなに」

ラルフは微笑んだ。

「そうか」

彼はスティーヴンの肩を叩いた。

「ところでマーガレットさんはどこですか?」

「ああ、城の近くにいたのを見たよ」

「話してきます」

スティーヴンは城へと急いだ。

城の近くは芝生が人の足で荒らされていた。庭師が怒るだろうと思った。スティーヴンはマーガレットの姿を見つけた。り口へと続く階段に座り込んでいる。表は暗く、何か考え事をしているように見えた。

「マーガレットさん」

「ああ、スティーヴンか。街を守ったな。立派な冒険者だよ」

「ぼくはマップ係ですよ」

は小さく笑った。

「そうだったな」

「どうかしましたか?」

スティーヴンが尋ねると、マーガレットは一瞬首を振ったが意を決したように言った。

「あの赤髪の男について何か知っているか?」

「マーガレットさんが戦っていた男ですか?」

「そうだ」

「ぼくも詳しいことは知りません。傭兵で、金さえあれば味方にもなる存在です。ドラゴンの刃をもっています。知っているのはこのくらいですね」

「そうか……」

マーガレットは黙ってしまった。

「あの男がどうかしたのですか?」

マーガレットは逡巡したが、ため息をついて、

「いや、なんでもない」

そう言って立ち上がった。

「城の中をだいぶ荒らしてしまったよ」

「荒らしたのはエヴァですよ」

ははは、と彼は笑った。

「違いない。魔族連中が荒らしたのがほとんどだな」

そう言ってマーガレットは城の中にっていった。スティーヴンがそのあとに続く。

城のエントランスホールは確かにあれていた。地面にが開き、壁がひび割れて、天井から砂が落ちてきた。

そこに領主と本當の妻だった、それにエレノアが立っていた。

スティーヴンは言った。

「初めまして、奧様」

「ええ、初めまして。私の名前はカレンです。エヴァではありません」

そこで彼はくつくつと笑った。

「私たちを救ってくださりありがとうございます」

「ギルドのおかげですよ」

カレンは微笑んだ。

「私を暗闇から救ってくれたのはあなたですよ。記憶を取り戻してくださりありがとう。こうして家族と過ごせるのは幸福です。ああ、そうでした。婚姻をもう一度結ばねばなりませんね」

「私たちはエヴァに一度婚姻関係を解消させられてしまったんだ。また結婚式を開かないとな」

領主がそう言ってカレンの肩を抱いた。

カレンの後ろにエレノアが隠れている。

「エレノアさんどうしたんですか?」

「あの……あの……」

「ゆっくりでいいんだよ」

領主がエレノアにそう言った。本當にエヴァの言うとおりだった。彼は靜かな子だ。あんな大膽な子ではない。

「あの……お母さんを取り戻してくれてありがとう」

「ええ」

は顔を真っ赤にして、それ以上何も言わなかった。自分のしてきた行を恥じているのか、耳まで赤くなっていた。

「城の中を壊してすまないな」

マーガレットが言った。いきなりだったのでスティーヴンは噴き出した。

「いや、いいんだ。エヴァに壊されたようなものだから。街が壊されないだけましだよ」

「そうか」

マーガレットはそう言うと、一禮して城を出て行った。スティーヴンも禮をして後に続いた。

「マーガレットさんはこの後どうするんですか?」

「ん? 何を言ってるんだ? 私の目的は初めから一つだ」

は振り返ると言った。

「君を探していたんだよ、スティーヴン。私のマップ係になってくれ」

マーガレットはにこりと笑ったが、何かに気づいたように思案顔に変えた。

「いや、その前に長したダンジョンをどうにかしないといけないな」

「ええ。その通りです」

「じゃあ、しばらくはこの街で過ごそう。あとのことはあとになってから考えればいい」

スティーヴンは苦笑した。

「そうですね」

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