數日後、僕たちはとある場所にたどり著いた。

そこはとても高い壁に覆われていた。ソムニウムとは比にならない大きさで、壁の途中にはいくつかの塔があり、兵が常駐しているようだった。守護者たちは車を壁の外にある馬車置き場においた。僕はすでに猿ぐつわを外されていた。ぶ様子もなかったからだろう。

レンドールが僕の腕を縛る縄をほどいた。

「ここはどこですか？」僕が尋ねるとアンジェラが答えた。

「王都ですよ」

レンドールに睨まれてアンジェラはしゅんとした。彼らは僕を連れて王都にった。

僕はこの數日間ずっとうなだれていたが、王都にるとその喧騒に圧倒された。道は人であふれていた。店には見たことのない商品が並び、建は高かった。

僕が立ち止まって呆けていると、レンドールが僕の背中を押した。

「ほら、歩いてください」僕は慌てて歩き出した。

人の間を潛り抜けて僕たちは進んでいく。多くの人にぶつかり、僕はよろけた。

しばらく歩いていると広場に出た。そこでようやく人の集地帯を抜けられて僕はほっとした。

守護者たちは慣れた様子で歩いていく。

僕たちは、瑠璃の髪のとすれ違った。

そのは大きな目をさらに大きく開いて、僕たちを見ていた。ローブで全を包んでいて、裾から僅かに細い腳が見えた。

僕はそのが気になった。あまりにも僕たちを凝視しすぎている。

いや、彼が凝視していたのは、アンジェラの頭の上だ。

瑠璃のは振り返り、アンジェラの服をつかんだ。

アンジェラは驚いて立ち止まった。

「うわ！　何ですかいきなり！」

アンジェラはを見た。は言った。

「見つけた」

その瞬間、アンジェラはかッと目を見開いて、の手を払い、距離をとった。

「あなた、魔師ですか？」

レンドールは僕を見た。

「いつ仲間を呼んだのですか？」僕は首をふった。

「僕は魔師じゃありません」

レンドールは舌打ちをすると、ナイフを取り出して、僕の髪をつかみ僕の首にナイフを當てた。

彼は僕をに向けて、言う。

「仲間を助けにきたのでしょう！　しでもけばこいつの命はありませんよ」

そんなことをしても意味がないと僕は分かっていたが、レンドールは僕を魔師と完全に決め込んだらしかった。

瑠璃のは僕を見て、言った。

「誰それ。知らない。興味ない」

「は？」レンドールはあっけに取られたような聲を出した。

は僕のことなど全く気にせず、アンジェラの方へと歩き出した。アンジェラは「ひっ」と言って一歩下がった。

はアンジェラに手を差し出して言った。

「私のリボン、返して」

「え？　あ、リボン？　これのことですか？」

アンジェラはポニーテールを結んでいる赤と白のリボンを指さした。は頷いた。

アンジェラはすぐにリボンを外して、に手渡した。瑠璃のはリボンをけ取ると、安堵のため息をついて微笑んだ。

「よかったあ」はリボンを頭につけて、生地を引っ張り形を整えた。

レンドールは僕の首からナイフを外し、僕の髪から手を離した。

僕はを見た。彼は本當に魔師なんだろうか。ただのにしか見えなかった。瑠璃のは大事そうにリボンにれて、それから、尋ねた。

「それで、〔魔王の左腳〕はどこ？」

僕と同様にがただのだと油斷していたのだろう。アンジェラはその意味を理解するまで數秒固まっていた。

「え？」

「このリボンと一緒に盜んだでしょ？　〔魔王の左腳〕はどこ？」

瑠璃のは大きな目でアンジェラをじっと見つめた。

「わ……私は……知りません」アンジェラはなんとか言葉を紡ぐ。「あれはティンバーグから魔師たちが奪ったじゃないですか？」

「そうよ。私が持ってたのに盜んだでしょ？　返して」

は冷たくアンジェラを見ていた。

レンドールが呟いた。

「あの魔師が……ティンバーグを……つぶした？」

レンドールの顔が紅していく。彼の目はに釘付けになる。歯ぎしりをして呼吸が荒くなる。

彼はつぶやいた。

「こんなに早く見つけることができるとは思ってもみませんでした」

レンドールは僕から手を離して言った。

「逃げようとしても無駄ですからね。ドラゴンので魔法は使えませんし、もしつかえたとしても王都でテレポートは使えません」

僕は言われなくてもその場にいるつもりだった。鍵がなければ首は外せない。魔法なしでソムニウムまでどう帰ればいいのかわからない。

レンドールはアンジェラを責めるに近づいた。その手にはもう一つのドラゴンのがあった。

彼はにれようとした。が、一瞬早くはレンドールに気が付いた。

「らないで！」

はび、レンドールを突き飛ばした。

彼のは浮き、地面に投げ飛ばされて転がった。僕の近くまで飛ばされた彼は苦しそうにうめいた。

アンジェラはそのすきにから距離をとった。

レンドールはなんとか立ち上がると、持っていたいくつかのドラゴンのと鍵の束を地面に投げ捨てた。彼の顔は真っ赤に染まり、目は充していた。呼吸は荒く、冷靜であるとは言えなかった。

明らかに様子がおかしかった。

レンドールはスクロールを取り出した。彼の開いたそのスクロールには見覚えがあった。

《ファイアストーム》。

「ちょっと！　それはやりすぎじゃないですか！？」僕はんだがレンドールの耳には聞こえていない。

「アクティベイト」

彼はスクロールを発した。

のまわりにのが現れる。

「逃げてください」僕はアンジェラに向かってんだ。

のが拡大する。広場の真ん中で巨大な魔法が発してしまう。

そのとき、が腕を振った。

何かを振り払うようなそんな仕草だった。

その瞬間、が、消える。

魔法が、消滅する。

その魔法の消え方はまるで《アンチマジック》を使った瞬間のようだった。