《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》# 19. 孤獨

デイジーに連れられて、マーガレットは王都を歩く。デイジーは手を握りしめて放さない。瑠璃の髪を揺らして、リボンを揺らして歩いている。

マーガレットはアムレンのことを考えていた。

王立騎士団、元団長。

そして守護者という肩書を持っていたという。

デイジーはアムレンとどういう関係なんだろう。マーガレットは気になって尋ねた。

「ご主人様なの」デイジーはそう言った。

「ご主人様? 君はメイドか何かなのか?」そう言ってからマーガレットは口をつぐんだ。もしかしたらデイジーには辛い過去があるのではないか。ご主人様というからには奴隷なのではないかと思った。

デイジーは笑顔で言った。

「メイドじゃないよ。私は代わりなの」

「代わり?」

「そう」彼はそれ以上何も言わなかった。

マーガレットはそれ以上何も聞かなかった。

そこは城からし離れた場所だった。デイジーを見つけたあの場所ほど荒んではいなかったが寂れていた。デイジーはとある建の前で立ち止まった。

「ここだよ!」

マーガレットは張した。覚悟はできていた。

デイジーが扉を開けた。

そこには一人の男と、ハーフエルフのの子がいた。の子は気を失って倒れていた。男はローブ姿で、椅子に深く座り込んでぐったりとしていた。

「ご主人様ー。その人だれー?」デイジーは男に近づいて、ハーフエルフのの子を指さした。男は地面を見たまま言った。

「【墓荒らし】だよ。見つけたんだ」彼は顔を上げた。

マーガレットはその顔をじっと見た。間違いない。あの頃より歳を取っているが、彼だ。

アムレンだ。

「誰か連れてきたのか? デイジー?」

「うん。お客さんだよ」

彼は初め、興味がなさそうにこちらを見ていた。徐々にその目がひらかれる。

彼は言った。

「マーガレットか?」

マーガレットは剣に手をかけた。彼は母親を殺した男だ。おじいさまを殺した男だ。それは確かだった。だが、まだ、殺すわけにはいかなかった。

彼に聞きたいことが山ほどあった。

マーガレットは言った。

「そうだ、アムレン。捜しに來たぞ。あの日言われたように」

アムレンは、笑った。

「大きくなったな、マーガレット」

マーガレットは剣を抜いた。デイジーが構える。

アムレンは座ったままため息をついて言った。

「時間は殘酷だ」

「アムレン。お前に聞きたいことがある。私は私について知らなければならない」

マーガレットはそこで言いよどんだ。これを尋ねれば答えが返ってくる。知りたくない真実がわかる。

は悩んでいた。王都にたどり著く寸前に見たあの夢が彼の心に深く突き刺さっていた。

スティーヴンに合わせる顔がないと思った。

――母と祖父がいた。彼らはマーガレットを見下ろしていた。

――いつのことか思い出せない。

――母がマーガレットの肩をつかんだ。

――「いい、マーガレット。あなたは――

マーガレットはアムレンに尋ねた。

「ワーズワース家は魔師の家系なのか? 私は、魔師なのか? だから、守護者であるお前は、私の家族を殺したのか!?」

――「いい、マーガレット。あなたは立派な魔師なのだからしっかり訓練なさい」

マーガレットは涙を流した。を割くような心の痛み。

答えないでくれ。

答えてくれ。

マーガレットはボロボロと堰を切ったように泣いた。

デイジーは構えるのをやめて、不思議そうにマーガレットを見た。彼はアムレンの服を引っ張って、どうしてマーガレットが泣いているのか尋ねた。

アムレンは、デイジーの頭をなでた。

彼は靜かに、マーガレットに言った。

「ワーズワース家は、〔魔王〕の族だ。魔師よりもっとずっと、面倒な存在だよ」

マーガレットはひゅっと息を吸い込んだ。〔魔王〕だろうが、魔師だろうが、同じだった。想像していたことが、今はっきりと事実になって、マーガレットを襲った。

は崩れ落ちるように膝をついた。

――私はスティーヴンの敵だ。

彼が憎み、倒した魔師が信仰している存在のを引いている。

二度とスティーヴンに會うことはできないだろうと、マーガレットは思った。

そしてそれは、同時に、街に戻れないことを意味していた。

はうなだれた。

また孤獨に戻るのか?

あの頃のように、スティーヴンのマップに出會う前、『グーニー』よりもっと前に戻るのか?

突然、マーガレットは不安になった。それは今までしたことのないだった。

の奧底にある大事な部分を無理やりくりぬかれたような痛みにいた。

「私は、獨りだ……」

マーガレットは呟いて、両手で顔を覆った。

は放心狀態でそのすべてを見ていた。

何が起きたのか、理解するには、あまりにも多くのことが起きた。

マーガレットはその波に飲み込まれ、

死に至った。

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