《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》# 40. 終わり

「どうしてお前は、〔魔王の左腳〕なんか裝著するんだ? どうして俺と敵対しようとしているんだ? どうして俺を裏切ろうとしているんだ?」アムレンの突き出す剣の切っ先は震えていた。それはアムレン自の震えだった。

ロッドは首にある剣をものともせずに言った。

「父さんがどう言って僕を育てたか知ってる?」

アムレンは眉間にしわを寄せた。ロッドはそれで十分だというように続けた。

「兄さんは知らないだろうね。そりゃそうだ。父さんはこう言ったんだよ。『お前はアムレンと同じ顔をしているのにどうしてそんなに無能なんだ』って」

アムレンははっとした。

「そんな……」

「あれはひどい親だった。僕の顔を焼いたのだって事故じゃない。わざとなんだよ。でも僕は父さんをしていた。父さんに好かれたかった。その為には力がしかった」

ロッドは目に巻いた布を外した。火傷後の殘る目元が現れた。

「兄さん。僕は兄さんみたいに〔魔王〕の力をけ継ぎたかった。それが父さんに好かれる方法だと思った。羨みは嫉妬に変わった。僕は兄さんを妬んでいたんだよ」

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ロッドはドロシーの手にある〔魔王の左腳〕を見た。

「僕が〔魔王〕の力を手にれる方法はひとつしかない。それは〔魔王〕のの一部を裝著することだ。僕はついに手にれた。後は兄さんの手からけ取って裝著するだけだった」

彼は笑った。

「僕にとって裝著は同時に明確な裏切りなんだよ。僕は兄さんを超えるために〔魔王の左腳〕を裝著するんだから」

「ロッド……」アムレンはつぶやいた。そこには同と罪悪が浮かんでいた。

「すまない。気付いてやれなくて……」

ロッドは首を橫に振った。

「いいんだ兄さん。もう全部終わってしまったことだ。兄さんの信頼も失ってしまった。僕には〔魔王〕の力が手にらない」

ロッドはアムレンに微笑んだ。

「じゃあね。兄さん」

ロッドはアムレンの突き出していた剣に、自らの首を突き刺した。

「やめろお!!」

アムレンはんだが、すでに剣はを深く切り裂いていた。ロッドは倒れた。アムレンはを浴びて放心していた。

僕にはロッドを救う手立てがあった。《エリクサー》を使えばいい。しかし、どこまで過去に戻っても、ロッドを改心させる方法はないように思えた。彼のその嫉妬や、考え方の底にはいころからの教育が沁み込んでいた。この數年で、どうこうなる問題ではない。

ロッドはアムレンに手をばしたが、その手は屆くことなく、地面に落ちた。

ロッドは絶命した。

アムレンはしばらくロッドの頭に手を置いていた。彼は靜かに涙を流して、ロッドを見ている。

デイジーが心配そうにアムレンのそばでそれを見ていた。マーガレットが彼に近づいた。デイジーが彼を見上げた。マーガレットはデイジーの頭をなでてから言った。

「父さん」

アムレンははっとして顔を上げた。

「そうか。そのことも知っているんだな。……家族がお前だけになってしまったよ。いや。マーガレットとデイジーの二人だな」

デイジーがにっこり笑って言った。

「わたしも家族!」デイジーは笑顔のままマーガレットを見上げた。

「話したいことがたくさんあるんだ」マーガレットはそう言った。アムレンは頷いた。

「ああ、そうだな。なんでも聞こう。そしてなんでも話すよ。ロッドと同じ不幸を繰り返さないために」

アムレンは言って立ち上がると、ロッドの死を《マジックボックス》にれるようにデイジーに言った。

「ふさわしい場所に埋めるよ」アムレンはマーガレットに言った。

オリビアが壊れたオートマタの部品を片っ端から集めて《マジックボックス》に収納している。

「うひょー、寶の山だ」とか言っている。

「ロッドの《マジックボックス》から移したオートマタですけど、外に出さないでくださいよ」

僕がそう言うとオリビアは怪訝な顔をした。

「なんでよ」

「暴れるからです」オリビアは納得して、鼻にしわを寄せた。

「売れないじゃん」

僕はドロシーを連れて歩いていきアムレンに近づいた。

「アムレンさん」

「ああ、スティーヴン。……すまなかったな、俺の弟のせいで何度か死んだだろ」

アムレンはそう言った。

「ええ。まあ。あの、これなんですけど」僕はドロシーの持つ〔魔王の左腳〕を指さした。

「なんだ?」

「難解なパスワードをかけた《マジックボックス》にれれば封印と同じように誰の手にも渡らずに済むのじゃないかしら」ドロシーがそう言った。

アムレンは首を橫に振った。

「それが、ダメなんだ。もし、他の〔魔王〕の一部が奪われたとき、それを裝著したものは――〔魔王〕の子孫だが――《マジックボックス》の中だろうと、どこからでも封印されていない他の〔魔王〕の一部を呼び出すことができる。発見されてしまうんだよ」

「じゃあ、全部《マジックボックス》に封印すれば……」僕がそう言うとアムレンはまた首を振った。

「〔魔王〕の一部は規格外で、力が強力だ。二つ以上《マジックボックス》にっていると《マジックボックス》というシステムが崩れる」

「じゃあ、どうしようかしら」ドロシーはつぶやいた。

「俺が封印しなおす。元々そのつもりだったからな。といってもロッドがいなくなった以上、何か別の方法を考える必要があるが……。それまでは厳重に保管しよう」

ドロシーは僕とマーガレットを順にみて、それから彼に〔魔王の左腳〕を手渡した。

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