《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》#4. 決裂

本日、2巻の発売日になります。よろしければぜひ書店などでお手にとってみてください。

彼の言わんとすることがわからなかった。従者としてというのは、側近としてという意味なのか、騎士としてということなのか、あるいは奴隷としてということなのか意味を測りかねた。

「それは……、一緒に王都についていくってことですか?」

何にせよ、それは確かなことだろうと思って僕は尋ねた。

アールはうなずいた。

「なぜ、僕なんですか? 優秀な騎士たちがいるでしょう? 僕の力は遠く及びませんよ」

アールは首を橫にふると、両手をソワソワとかして、言った。

「僕は……王家の人間だ。王になるかもしれない……わからないけど。でもきっとこの先、重要な判斷をしなければならない時が來る。それは民の半分を殺すか、そうでなければもう半分を殺すか、なんていう重大な判斷かもしれない」

アールは両手で頭を抑えた。

「僕にはそんな判斷はできない。僕は……僕は失敗しちゃいけないから!」アールはそう言って機を叩いた。彼は「あっ」と自分の手をみて、そして、両手をると上目遣いで僕を見た。

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「重大な判斷を下すときに〈記録〉してほしい。そして、僕が間違えたら……、もとに戻してほしい。それだけなんだ」

僕は混した。

領主を見ると、彼は首を小さく橫に振ってため息を吐いていた。何か言いたげで、何度も口を開きかけたが、最後にはエレノアを見てやめた。

リンダとマーガレットはアールよりも僕を見ていた。彼たちは驚いた顔をしていて、ただ、なんと言っていいかわからないようだった。僕の言葉を待っているようにも見えた。

僕は混した。

アールがこう言うのを咎めずにいる臣下たちが奇妙にも見えた。その反面自分が今までしてきたことを思えば、アールの言うこともわからないわけではない。

僕はソムニウムを取り戻した。そこにはいくつもの選択があって、何度も失敗した。僕は失敗のたびに戻り、自分の選択をなかったことにした。

都合のいいように捻じ曲げた。

アールは、

一方では、その力を大義のために使ってほしいと言っている。そう解釈することができる。

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他方では、その力を自分のために使ってほしいと言っている。そう解釈することができる。

そして共通するのは「僕が間違うたびに、君に死んでほしい」ということだ。

アールがやり直しをむことが必ずしも僕にとっていい結果になるわけではない。もしかしたら、アールのやり直しによって國が救われるかもしれないが、代わりに、ソムニウムが襲われ、またリンダたちを失うかもしれない。

ただ、アールには大義がある。

僕は混した。

それでも口を開いた。

「それは……王子としてのお言葉ですか? それとも……」

僕が紡ごうとしている言葉を解くように、ローレンスは言った。

「王子としてのお言葉に決まっている。アール様は正しい政治をんでおられる。大義のために力を貸してほしいそうおっしゃっているんだ」

ローレンスの言葉にアールは立ち上がり言った。

「そうだ、そうだよ。僕が正しい選択をすれば、みんなが助かる! それにこれは君のためでもあるんだ! そうしないと……」

ローレンスが咳払いをして、アールをみて小さく首を橫に振った。

僕のため?

どこが僕のためなんだ。やり直しの選択で世界が救われるからか?

僕は頭をかきむしってから言った。

「あなたは言いました。民の半分を殺すか、そうでなければもう半分を殺すか、そういう重大な選択をするときが來るかもしれないと」

アールはうなずいた。

「だからそのために、君が……」

「民の半分が死んでも、『みんなが助かる』んですか?」

アールは怯んだ。

「それは……」

「民の半分が死んで幸福な未來を手にれられるのと、民の半分が死んでなおも不幸な未來しかめないのとは違う。幸福な未來のためならば民の半分は尊い犠牲だ。そう思わないか?」ローレンスは王子の言葉を待たずにそういった。

「では王子が失敗するたびに僕が死ぬのも犠牲の一つだというのですね?」

僕の言葉に、ローレンスは片眼鏡にれて、嘲笑した。

「君の死は本當の意味での死ではないだろう? 何度もやり直し、永遠に生きることができる。失っても取り戻すことができる。……そういう意味では、君に失うという概念はないだろう? 犠牲でもなんでもないじゃないか。もし世界の終わりが來たとしても、君はその直前まで生きて、死の瞬間に遠く過去に戻ればいい。何度でも人生を繰り返せる」

僕は歯を食いしばった。崩壊するソムニウムを思い出していた。

――……そのループからは逃れられない。

あのときは更に過去にもどって全てをやり直した。それはローレンスの言うとおりだが、あのときは、過去に戻ればその終わりを乗り越える方法があった。

僕はもし過去に戻っても逃れるすべがなく、絶対的な終末があって、あのループに縛り付けられていたらと考え、ゾッとした。

――……そのループからは逃れられない。

耳から離れないあの聲を何度も聞かされる、何をしても逃れることのできない終わりに恐怖した。

きっと、死をむだろう。スロットの選択を初めて発見したあのときと同じように。

僕はローレンスを睨んだ。

「あなたは全部を失う絶を知らない! 逃れられない苦しみを知らない!」

アールはビクッとを震わせて怯んで、椅子に深く座り込んだ。ローレンスは深くため息をついて言った。

「いつまでも駄々をこねるなよ。過去に戻れるというのは有益で巨大な力だ。社會のために有益な力を持っている者は、それを社會のために使う義務がある。鍛冶職人が剣を作らず、騎士が街を守らず、王が國を治めなければ、批判をけるのは當然だ。お前には義務がある、スティーヴン。なのに、それから逃れて生きている。贅沢な生活のためだけに稅を上げる悪徳貴族と同じように、自分のためだけに力を使い続けるのか?」

「自分のためなんかじゃ……」僕の言葉をローレンスは遮った。

「では、ティンバーグをどうして救わなかった? ソムニウムを救ったあと、多くの真実を知ったはずだ。それを使って過去に戻りティンバーグを救えば、もしかしたらソムニウムだってもっとうまく救えたかもしれない。それに今回の王都での事件はそ(・)も(・)そ(・)も(・)起(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)だろ? それをしないのはどうしてだ? ティンバーグを救わなくとも、現狀に満足していたからじゃないのか? 自分の生活を守るために力を行使するくせに、他の街が壊されることには何の行も起こさない。違うか?」

僕は何も言えなかった。

レンドールが僕をじっと見ていた。

僕は……何も言えなかった。

ローレンスはまたため息をついた。

「すまない、責めるつもりはなかった。多くの人が自分のために力を使ってしまう。それは事実だ。だが、君のスキルは自分のためだけに使うにはあまりにも大きすぎる力だ。……王子が権力を正しく使おうとしているように、お前もその力を大義のために使ってほしいと言っている。ただそれだけのことだ」

詭弁だ。これは詭弁なんだ。そう思いたい自分がいた。ティンバーグを救っても、ソムニウムが同じように救えるとは限らない。王都での第二ループみたいに、勘違いをしたり、何かが決定的に変わってしまったりして、ソムニウムの崩壊が避けられないかもしれない。

ただこれもまた、自分を正當化したいだけの詭弁じゃないのか?

僕が黙ってうつむいていると、リンダが機を叩いて立ち上がり、椅子が勢いよく倒れた。彼を逆立てて、ローレンスを睨んだ。

「スティーヴンは必死でこの街を救ってくれたにゃ!! 自分のためだけにつかう? ふざけるんじゃないにゃ!! 全部の失敗を取り消すってことは、全部の功を取り消すってことにゃ!! スティーヴンはもしかしたら築けた関係を、手にれた幸福を、全部捨てているかもしれないにゃ!!」

リンダは涙を流しながらそういった。ローレンスは片眼鏡をいじって言った。

「それが自分のためだと言っている。彼にとって、生活の拠點であるこの街を守るのは當然のことだ。そのためなら他の犠牲は仕方がない。それはものを買うときに金を払うのと一緒だ。何かを得るために、何かを対価とするのは當然だ」

マーガレットが靜かに口を開いた。

「わからないな。それと王子が國を守ることの違いは何だ? スティーヴンがソムニウムを守るのは大義ではないのか?」

ローレンスは口角を下げて言った。

「この街を守るというのは、大義と言うには小さすぎる」

「大きければいいのか? 魔師たちが〔魔王〕を復活させようとするのも彼らにとっては立派な大義だろう。それに大きい。この國を、もしかしたら世界を巻き込む」

僕はハッとした。エヴァやロッドの選択は間違っていて、僕の選択は正しかった、なんてことを誰もが認めるわけじゃない。そしてそれは僕自でさえ、今を以て、どちらが正しいかなんてわからない。

「話にならないな。お前は何を言いたいんだ?」ローレンスは首を橫に振った。

「王子の大義が、王子自のためじゃないという拠はどこにあるんだ? スティーヴンがソムニウムを救うのが彼自のためだと言うなら、王子が國を救うのは自分のためじゃないのか?」

ローレンスはマーガレットをにらんだ。

マーガレットは睨み返して続けた。

「お前が言っているのは、詭弁だ。もしも自分を犠牲にして何かを守ることが大義でないなら、この世界に大義なんて存在しない。全ては自己満足だ。そうだろ?」

ローレンスが機を毆った。彼は歯を食いしばって顔を赤くしている。アールは更にませた。

歯の隙間からローレンスの低い聲がれ出す。

「お前にはわからないだろうよ、〔魔王〕の娘。のうのうと暮らすお前ら庶民のために私達はを削っている。全ての國民のためになすべきことをする。それが私達の大義だ」ローレンスは息を荒くしてしばらく僕たちを睨んでいたが、目をそらして、大きく深呼吸をすると呟いた。

「そうだ、理解できない……」

彼は〔白の書〕と〔黒の書〕を箱にれ、鍵をかけると立ち上がった。

渉は決裂した。スティーヴン、君のユニークスキルは直すに値しない。國の利益にならないからな」

今までこまっていたアールをみて、ローレンスは言った。

「もう一つの方法を使いましょう。それしかありません」

アールはローレンスをみて、それから、僕をみた。その目あるのは怯えではなく、懇願に近いに見えた。それが僕には奇妙に思えた。

ローレンスはアールを立たせて連れて行った。メイドや使用人たち、それにアールお抱えの騎士たちも出ていったがレンドールは座ったままだった。

僕はリンダたちに言った。

「あの……助けてくれてありがとうございました。僕は何も言えなかった……」リンダは頬をかいた。

に任せて言いたいことを言ってしまったにゃ……」

マーガレットも言った。

「私もだ。スティーヴン、スキルを取り戻す手段を失ってしまった。私が余計なことを言ってしまったからだ」

僕は首を橫に振った。

「いえ、二人のせいじゃありませんよ。それに、ああ言ってくれて嬉しかったです」

僕が何も言えず、しかし納得もいかないまま、話が進みアールの従者になる方が問題だと思った。僕は折れてしまいそうだった。それは僕の心が「大義」や「義務」という言葉の重圧に耐えきれなかったからだ。ローレンスの言うことはある意味では正しい。それがわかるから辛かった。

二人はそれを跳ね返してくれた。彼たちは僕の今までを見ていてくれた。

リンダとマーガレットはしっかりと護衛の役目を果たしたのだと、僕は思った。

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