《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》#8. 竊盜

翌日。

アール達はソムニウムで一番の宿を全て貸し切り、宿の主人や従業員たちまで追い出していた。宿の周りには常に王子の騎士が巡回していて、窓からは慌ただしくホコリが舞うのが見えた。宿の主人たちは住む場所を失い、仕方なく別の宿を利用しているみたいだ。主人はそれ相応のお金はもらったようだ。ただ、酒場で愚癡っているのを見かけたのは何も一人ではない。

「料理も掃除も全部連れてきたメイドにやらせるから出て行けときた。あの宿は俺の城だぞ!」

酔っていたのか、興していたのか(多分両方だろう)顔を真っ赤にして宿の主人は怒鳴っていた。

アールの計畫では今日のこの慌ただしいときに盜み出すのがいいだろうと言うことだった。メイドや使用人がれ代わり立ち代わり宿に出りしている。るのは楽そうだ。

使用人たちに変裝すれば。

昨日とは違うメイドが変裝用に僕に使用人の服を、ドロシーにメイド服を持ってきた。ドロシーは目を細めた。

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「なんで私がメイド服なんか……」

アンジェラが変裝した僕たちを見て大笑いしている。ドロシーは後で叩くと言って、アンジェラを睨んだ。

ドロシーはひらひらしたスカートになれないようで、顔を赤くして唸っていた。

「どうしてこんな服を……。落ち著かないわ……」

僕も服に著られていた。使用人の服とはいえ、相當高価なものだ。以前領主の結婚式に出席したときに著た服よりずっといいものだ、絶対。堅苦しくて思うようにけない。これじゃあ逆効果だと思った。

「何その歩き方!」ドロシーは僕に言った。

「そっちだって!」僕はドロシーに言った。

ドロシーはスカートの裾を踏んづけそうになっていた。

お互いに変なところを言い合ってから、ドロシーは呟いた。

「絶対この服を著ないほうがいいわ」

「僕は失敗できないからこの服を著るよ。メイド服しかないならメイド服だって著るさ。だって失敗したら死ぬんだから!!」

もう半分ヤケだった。

「もう! ちゃんと著るわよ!!」ドロシーがんで、アンジェラは転がった。

僕たちは鏡の前で相當練習してから、宿の裏手に《テレポート》した。アールがうまくここの警備を薄くしてくれているはずだ。

メイド服の中には宿の間取りを書いた紙がっていて、〔白の書〕がある場所に印がついていた。

それは三階の、階段から右に曲がった廊下の突き當りに位置している。

から、宿の裏手を見る。今は騎士が立っているが、しばらくすると休憩のためか、扉を離れていった。

「行くわよ」ドロシーは僕の前をあるき出した。

扉からるとあちこちでガタゴトと音がした、んな人がものを運んでいて、ホコリが舞っている。なるべく顔を見られないように、僕たちは近くにあった皿や、壁にかけられていた額縁を持ってそれを運ぶふりをして階段へ向かった。使用人もメイドも忙しそうに半ば走り回っているようなじで、僕たちを気にもとめない。

それも、階段を上がるまでだった。階段の上にはメイド長と思わしきが立っていて、走り回るメイドたちに的確に指示を出していた。何本もの剣を運ぶメイドが彼のそばを通り過ぎた。

「それはアール様の私です。騎士たちの部屋ではなく、アール様の部屋へ」

報酬にも武があったな。あの臆病な王子様がどうしてあんなに武に固執するのだろうか。自分で使うわけでもないのに。中にはどうやって使うのかわからない、不思議な形の剣も混じっていた。

メイド長は背筋がまっすぐにびていて、周囲を見回す姿も、きも、歯車みたいに迷いがなかった。目はギョロギョロといて、かかとを軸にしてくるりと回り、作業の邪魔にならないようにステップを踏んで、華麗にしゃがみ込みゴミを拾った。

ドロシーは一階の調子で階段を登り続けた。彼は皿を顔に押し當てるようにして歩いていたために、メイド長の姿が見えていなかった。

「ちょっと、そこの皿を持った子。こちらに來なさい」

ドロシーはビクッとを震わせて、その後停止した。皿で顔を隠したまま、僕の方をみた。

「まずいわ」

「行って時間を稼いでよ。その間に僕は三階で目的のものをとってくるから」

「この薄者!」ドロシーは僕を睨んだ。

そんなことをしているうちに、メイド長は足音なくドロシーの間近まで迫っていて、突然皿を取り上げた。ドロシーは悲鳴をなんとか両手で抑え込んだ。

メイド長は片方だけ眉を上げて無表の顔のまま言った。

「見たことのないメイドですね。それにそちらの男も。額縁で顔を隠しても無駄ですよ、もうバレていますから」

僕は額縁をおろした。ドロシーは口から手をおろして言った。

「ああ、あはは、覚えられていませんでした? 新しくったばかりで……」

「それはありえません。ここにいるのは一年以上顔を合わせて來た者たちばかりです。私は皆の顔と名前を知っています」

ズバッと言われて、ドロシーはまた固まった。

「ついてきなさい。変な行を起こさないように」僕たちは襟首を摑まれて、子犬みたいに連れて行かれた。

「どうするのよ」ドロシーは連行されながら口をかさずに僕に尋ねた。僕も小聲で返す。

「簡単だよ、僕が殺されて終わり」

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