彼らは駆け出す。パトリシアはごと回転させて斧を振り、火のを散らす。ローレンスは腕をばして槍を突き出した。斧は突き出された槍の穂先に近い柄を捕らえた。本當の槍であればそこは金屬ではない場所。力に負けて槍は斧で二つに折られてしまっただろう。

しかし、これは魔法の武、それに片や炎で、片や水。

水の槍を通り抜けた斧はまるで、ナイフで切られた布のように、刃先に切れ目がった。槍が振られると水しぶきが舞い、斧は完全に二分されてしまった。

パトリシアは一歩下がって、斧を振り直す。炎が燃え上がって、削り取られた刃先が元に戻る。

ローレンスは笑みを浮かべる。

「武を変えたほうがいいんじゃないか？」

パトリシアは首を橫にふる。

「いい。師匠が言ってた。戦うときは正々堂々。これで平(・)等(・)な(・)戦(・)い(・)だから」

ローレンスは鼻で笑うと、また、穂先をパトリシアに向けた。

「ならば、容赦はしない」

ローレンスは槍を突き出す。今度は穂先がまっすぐパトリシアのを向いている。パトリシアはを捻って槍を避けると、斧を振り、ローレンスのを薙ごうとした。と、ローレンスは槍を縦に持って、を守るように橫に降った。大きな水のがローレンスのの前にできて、炎の斧は通り抜けられず、消えてしまった。

パトリシアの斧は柄の部分しか殘っていない。彼は斧を振って、刃を取り戻そうとしていた。

だが、ローレンスはそれを待たず、細い棒を持ち替えて、パトリシアにつき出した。彼は避けるが、追いつかない。ローレンスが手首だけで向きを変え突き出すことのできる槍は、騎士たちが使うものよりずっと速くく。

パトリシアは斧を元に戻す暇もない。必死で穂先を避け続ける。と、穂先が彼の腳を貫いた。パトリシアはぎょっとして、地面に倒れ込んだ。

僕は駆け寄ろうとしたが、彼は制止した。

「來ないで、お兄ちゃん」彼はなおも無表だった。腳を刺されて、大きく傷が開き、を吹き出しているのに……。

彼はもっと表かだったはずだ。父さんが家を出ていこうとしたとき、大泣きしていたじゃないか。僕が村を出ようとしたときも、怒って、泣いて、笑って送り出してくれたじゃないか。

僕は立ち止まってパトリシアを見ていた。

彼は腳を抑えながら立ち上がって、ふらついた。

「まだやるのか？」ローレンスは首をかしげた。

「あたりまえ」パトリシアは斧を振って、完全に直した。

ローレンスはため息をついて、槍を突き出した。パトリシアは斧を盾のように使った。刃を橫に向けて、広い側面を相手に向けて、突きを止めようとした。

だが、それは無駄だった。

水の槍は炎の斧を突き破って、パトリシアのまで屆いた。

「パトリシア！！」僕はんだ。

彼のには大きなが空いた。水のせいでは噴出するそばから流れていく。

ローレンスは槍を持ち上げた。パトリシアのは槍の先でぶら下がる。彼はしの間彼を観察すると、木の建に向けて振った。

「やめろ！！」僕はんだが、槍のきは止まらない。パトリシアのは高く飛ばされ、木の幹に大きな音を立ててぶつかった。が飛び散って、彼のは木の幹を離れ、すぐに落下し始めた。僕は何もできず呆然とそれをながめていた。彼のは地面に落ちて、かなくなった。

そんな……、噓だろ？

何が平等だよ。何が正々堂々だよ。馬鹿野郎。

僕は頭を抱えた。

「アール様を探さなければ……。私の大切な……」ローレンスはあたりを見回してぶつぶつとそういった。

僕はパトリシアの落ちたあたりを見て固まっていた。

どうして逃げなかったんだ……。

死ぬなんてあんまりだ。まだ話していないことがたくさん……。

僕はうなだれた。

ローレンスはため息をついて「《失せろ》」と言って槍をしまい、僕の方へと歩いてきた。

と、その時だった。

ローレンスが突然、なにかに気づいて後ろに飛んだ。彼のいたあたりに、一本の矢が突き刺さった。

「ああ、反応しやがったっす。外したっす」上の方で聲がした。見上げると、木の枝の上に軽裝の鎧を著たが立っていた。彼は弓を構えていて、ローレンスに狙いをつけていた。

「外したあとに口を開くな。お前が口を開いている間にもう一矢くらいられるだろ」

木のから剣を持った男が現れて、そういった。

「あーい。気をつけますー。ダンチョー」弓を構えているは間延びした聲でそういった。

ローレンスは舌打ちをすると、ぶつぶつと詠唱を始めた。

団長と呼ばれた男は剣を構えマントを翻して走り出した。

ローレンスは〔白の書〕を抱えたまま立っている。

「《掠めるの姉、伝令、神託、虹の橋を渡れ。闇と夜の息子、口に含んだ銀貨、苦悩の川を運べ》」

彼は早口で詠唱を終える。団長の剣がローレンスにびる。

「《空間転移》」ふっとローレンスのが消えて、団長の剣は空を切る。彼は舌打ちをした。

「畜生」

「ダンチョーが口を開いている間に、もう一太刀くらいれられると思うっすよ」木の枝からふわりと浮いて降りてきた軽裝の鎧のはそういった。彼も団長と同じようにマントを著ていて、それが揺れる。

「口ばかり達者だね、ルイーズ。いない相手をどうやって斬るんだ？」

ルイーズは「さあ？」と両肩を上げた。

「なんか変なじだった。何だあいつは」団長はぶつぶつと言ってから、僕を見下ろした。

「やあ、君が〈混沌〉だね。王が待っている。ついてきてくれ」

団長は僕を立ち上がらせてそう言った。僕はパトリシアが落ちたあたりを振り返った。

「パトリシアが……僕の妹が……」

「大丈夫っすよ。あたしたちが責任持って回収するんで」ルイーズはそう言った。

団長は詠唱を始めた。

「《同士達よ、私と謳え》」まだ聞き慣れない、パトリシアたちと同じ《テレポート》の詠唱が続く。「《空間転移》」

僕たちはその場から消え去った。