《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》#21. 決心(アール)

アールは《マジックボックス》のスクロールを取り出した。すでにパスワードは書いてある。

ドラゴンはアールをじっと睨んでいる。援護のために後ろからついてくる戦士たちが弓を構える。ドラゴンはそれに反応して、羽ばたいた。強い風が吹き付けてきて、アールは顔をそむけた。

倒すことはおそらくできないだろう。アールはそう考えていた。あいつを追い払う策を練るしかない。あいつが自分たちを襲う気がなくなるような、そんな方法を考えるしかない。

アールはバリスタを設置した。矢をつがえてあったので、ドラゴンの方へ向ける。気がついたドラゴンは地面に降り立つとまた口を開いて魔法陣を作り出した。

「走るぞ」戦士の一人がアールを抱えた。

あのバリスタは囮だ。破壊されても構わない。戦士はアールを抱えたまま、堀のような坂の向こうへと走り、隠れた。頭上を炎が通り抜ける。

今だ。次のバリスタを設置する。坂は高く小さな崖のようになっていて、ドラゴンのところからこちらは見えない。

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アールは空高く狙いを定めた。矢はまっすぐ飛ばない。この距離だと放線を描くはずだ。仰角を計算して、狙いを定める。隠れていた戦士たちも手伝ってくれた。

「合図したら、レバーを引いて」

隠れていた戦士に言うと、アールはまた駆け出した。

ドラゴンの炎は止んでいた。アールは坂のある場所からだいぶ距離を取ると、そこにまたもう一臺、攻城兵を設置した。それは大量の魔石が必要な《ケラウノス》で、バリスタ同様すでに発一回分は裝填してあった。チャンスは一度きりだ。だったらこれを使うべきだ。

《ケラウノス》は大量の魔石が必要で、一度発するとまた大量の魔石を裝填するのに時間がかかる欠點はあるが、攻(・)撃(・)範(・)囲(・)が(・)広(・)く(・)、敵の方向に向けていればほとんど狙いを定める必要がないという利點があった。

つまり、《マジックボックス》から出してすぐ、発する事ができる。

アールはほとんど斜めになっていて、一見すると明後日の方向を向いている《ケラウノス》に登って、レバーに手をかけた。

「いまだ!」アールは合図を出した。

レバーを思い切り引く。《ケラウノス》はを放って、筒狀の部分が回転し始めた。

バリスタから矢が発する。僕は正確に狙いを定めたはずだった。しの差はあるがドラゴンに當たるはずだ。

だが、それは間違いだった。

ドラゴンは発される直前にかし始めた。まるで見えていないはずのその場所から矢が出されるとわかっているかのように。

「ドラゴンは未來を予知できる」今はまだ完全ではないはずだ。だが、しは未來が見えるのだろう。ドラゴンは完全に飛び上がって、矢の程範囲から逃れた。

わかっていた。そんなことはわかっていた。

バリスタから発された矢は、ドラゴンのにかすりもせず、地面に突き刺さる。ドラゴンはこちらを見ている。

バリスタからわずかに遅れて、《ケラウノス》がの玉をいくつも発する。

攻撃範囲は広い。未來を予知したドラゴンはなんとか逃れようと飛んだが、の玉は一部が翼に到達した。

が開く。

ドラゴンは驚きの鳴き聲を上げて、バランスを崩し、落下し始めた。

「やあ。待ってたよ」ブリジットが鉄の弓を構えている。

ドラゴンはおそらく未來予知している。だが、コントロールを失った今、予知していたところでわずかに避けるので一杯のはずだ。

ブリジットは矢を放った。鉄の矢がドラゴンの頭目掛けて飛んでいく。

ドラゴンは必死で首を振った。コントロールをうしなったはがくんと落ちてしまう。

鉄の矢はドラゴンの右目をえぐった。

突き刺さりはしなかった。矢はそのままドラゴンの後方へ飛んでいき。地面に刺さる。

ドラゴンの目の周りに矢が通り過ぎた真っ直ぐな傷がっている。

ドラゴンは悲鳴に似た鳴き聲を上げて、大きく羽ばたいて、ふらふらと飛んで逃げていった。

「……や、やったぞ」ブリジットが言った。「おい! ドラゴンを追い払った!!」

ブリジットが走ってきた。アールはホッとして、《ケラウノス》から降りた。

戦士がすぐにやってきてアールを擔ぎ上げた。彼らはアールの頭をグシャグシャとなでた。

「やったぞ、おい! 生きてる!! 信じらんねえ!!」戦士たちが言って、アールを讃えた。

クララが走ってきた。彼は泣いていた。

「よかったあ。よかったよお。うえーー」彼はブリジットに頭をでられていた。

アールはドラゴンを追い払った。彼はドラゴンが飛んでいった方角をじっと見上げていた。

全ての戦士が無事というわけではなかった。ドラゴンの炎に巻き込まれ死んでいった戦士が何人かいた。アールたちは彼らのを埋葬した。

「土に還り、めぐり、妖としてまた會えるのを待っている」ブリジットはそう言って土にれた。アールには妖たちの死生観はわからなかった。ただ、死を悼む気持ちは十分すぎるほどわかった。

ここにっていたのは自分かもしれないとアールは思った。たまたま偶然、自分が死ななかっただけだ。

そして、たまたまクララやブリジットが死ななかっただけだとも思った。

選択してもうまくいくとは限らない。正しい選択だと思っていても、そこには失敗がありうる。賭けの要素がある以上それは仕方のないことだ。スティーヴンはこんな戦いをくぐり抜けてきたんじゃないか? アールはそう思った。

問題なのは行しないことだ。アールはそう思って、最初に隠れた建の壁を見た。あそこに隠れたままだったら、きっと今頃全員死んでいただろう。

――僕は戦った。だから今がある。

アールはそう思った。

ローレンスを待っているわけにはいかない。彼がいつ見つかるか、わからない。そんなことをしていたら、ドラゴンがまた現れたとき、殺されてしまう。バリスタは一つ失ってしまった。それに同じ手が使えるとは思えない。

そして、ドラゴンとの戦闘で気づいた。今回は完全な未來予知ではなかったものの、しの予知は使えていた。奴らに完全な未來予知が戻ってしまったら、クララたちになすすべはない。

スティーヴンのスキルを取り戻せば、ドラゴンの未來予知は消える。そのためには……

――僕が〔妖の樹〕を見つけないと……。

アールは決心した。

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