《【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】》#29. カオスとコスモス

僕たちは行を開始する。ブラムウェルは數人の使用人とともに城にむかった。ドロシーと殘りの使用人、メイドたちはギルドに向かって彼らの記憶を取り戻してくれる。

そして、僕とパトリシア、ブリジット達戦士はまっすぐ教會に向かった。

もうすでに封印は解かれてしまっただろうか?

「いや、まだだ」ブリジットは教會の様子を遠くから見ていった。

「妖たちが引き寄せられていない。封印解除には妖式が必要なはずだが、ドラゴンが妖式を使うと、妖たちは無理やり引き寄せられて、妖力を搾り取られるんだ。今は近くを妖が普通に通過している」

パトリシアは頷いた。

「お兄ちゃんと私はまっすぐ教會に向かってあのドラゴンを止める。ドラゴンが攻撃してきても私がなんとかする。いい?」

「わかった」

僕たちはうなずきあって、作戦を開始した。

僕が通りに出るとすぐに街の人たちがやってきた。彼らはマリオンと同じように僕を捕らえようとしている。戦士たちが彼らを押しのけながら走る。僕はにまとわりついて來るたびに額に手をあてて記憶を戻し、逃げるように走った。

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教會の前にはのっぺりとした仮面をつけた魔師たちがいる。彼らは僕たちの姿に気がつくとスクロールを取り出した。

「アクティベイト」

スクロールが消えて、が僕たちの足元にできる。が、ブリジットがドラゴンのナイフでそれを消していく。戦士たちが弓をる。

「いけ! ここはなんとかする!」

パトリシアが呪文を唱え始めた。

「《妖よ、私と遊ぼう。鬼ごっこ、かくれんぼ、赤い糸を辿れ。異端者、地獄の六、墓より出ずる火焔を纏え。火焔戦斧(かえんせんぷ)》」

また、あの巨大な炎の斧が現れる。斧を振り回して、教會に突撃し、扉を破壊した。

師たちは地面に倒れ込んでいた。僕はそのすきに、斧を消したパトリシアの後ろから教會にった。

禮拝堂は長椅子が避けられていて、中心に一人のが立っていた。彼のそばにはアールが立っていて、壁際にマーガレットがぼうっと立っている。エレノアは座り込んでいる。

僕らの後ろからブラムウェルがってきた。

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「お、間に合ったな」彼の手にはドラゴンの刃が握られていた。

教會の中心に立つが顔を上げた。彼の右目には深いキズがついていた。

「ドラゴンだ。別の人に化けてる」僕は言った。

ドラゴンは顔を上げた。「ああ。來ましたね。準備は整いました。封印ももうしで解けるでしょう」

レンドールが以前設置した封印強化の機械はすでに取り払われていた。〔魔王の右腕〕が封印されているであろう場所に〔妖の樹〕が直立して浮かんでいて、そこからはの帯が天井に向かってびている。ドラゴンはそこに、〔白の書〕をかざした。彼は手を離す。〔白の書〕は中に浮かんでパタパタとページがめくられる。白紙のページが開いて、そのまま浮いている。

「封印を解くためには三つのが必要です。一つ、この領地の守護者の。一つ、〔魔王〕の。一つ、王家のです」

そう言いながら、ドラゴンは壁際にいたマーガレットとエレノアを連れてきた。バルバラは持っていた金屬のナイフを慎重にエレノアに渡した。

たちは自分で手に傷をつけ、し顔を歪めた後、ドラゴンに促されるまま、浮かぶ〔白の書〕にを付けた。

「さあ、アール様。最後に王家のを」

アールはドラゴンを見上げた。「さっき言ったことは本當だよね、バルバラ?」

バルバラと呼ばれた彼は頷いた。「ええ。もちろん」

アールはドラゴンからナイフをけ取って、手に當てようとした。

パトリシアが、言った。「あなた達には渡さない」

はナイフを掲げた。バルバラは目を細めるとアールに言った。

「封印を解いてください、アール様。ここは私が守ります」バルバラは右手を上げた。

パトリシアとバルバラが同時に呪文を唱える。「《妖よ、私に従え。満たされた大釜、浸された赤子、不死を疑え。トネリコ、死の踵、使われなかった武を持て。海ノ槍》」

二人の頭の上に、水の槍が出現する。

「炎の斧はやめたのですか?」バルバラは言った。

「うん。これで本當に、平等な戦いだから。正々堂々」パトリシアはナイフを振った。水の槍が同じように振られる。

「良いでしょう」バルバラも構えた。

たちが衝突する。一振りで、教會の壁が壊れ、二人は外に飛び出した。

と、突然、マーガレットが僕に襲いかかってきた。僕はほとんど反応できなかったが、ブラムウェルが、彼を制止した。

「さて、俺は俺の仕事をするよ」ブラムウェルはそう言って、ドラゴンの刃を振り、マーガレットを見た。

マーガレットが剣をぬく。剣が重なる音が響いて、ふっと姿が上空に飛び去った。

禮拝堂には僕とアール、そして、壁際に戻って座り込んだエレノアが殘った。

アールはまだ、〔白の書〕に手をつけていない。封印は解かれていなかった。

「アール様……」僕が言うと彼は顔を上げた。

「スティーヴン。この封印を解けば〔魔王の右腕〕が手にる。もうしで、僕は目的を達できる」彼はナイフを握りしめていた。

彼は続けた。

「バルバラは言ったんだ。ドラゴンが支配していてもいなくても軋轢は生じる。戦爭は起きる。そのとおりだと思った。僕は王子として、國を治めなければならない。バルバラは僕に力を貸してくれると言った。しの支配と引き換えに、未來を教えてくれるって」

僕は扉の外を指差した。

「外ではブリジットたちが魔師と戦っています。彼らはどうなるんですか? 一度ドラゴンと戦って助けたんでしょう?」

アールは外をみて、目を強くつぶった。

「必要な犠牲はある。戦爭が起きれば、誰かが確実に死ぬ。正しい選択だと思っても、どうしたって誰かは犠牲になる。魔師たちはもう表に出てしまった。もし、僕が君を選んだとしたら、彼らとの戦爭が始まるかもしれない」

アールは僕を見て続けた。

「大義について話したね。君の大義と僕の大義は違う。でも僕は、君の大義をし理解したつもりだよ。ブリジットやクララたちと一緒に過ごして、わかったんだ。君が何を守りたいのかわかったんだよ」

「それなら……」僕の言葉をアールは遮った。

「僕にだってそれはある。でも同時に、王子としてゆくゆくは王として、國を守る義務もある。僕にとって守るべきものは大きくなっていくと思う。その全てを守りきれるとは思えない。それに、君と僕の道が完全に重なるとも思えない」

アールはナイフで手に傷をつけた。

「バルバラの……ドラゴンの力を借りれば、全てでなくとも多くを救うことができる。未來が見えるということはそういうことだと思う」

その時、教會に誰かが突っ込んできた。それはパトリシアで、彼はボロボロだった。すでに妖式は消えていて、右腕がなかった。

僕ははっとして、パトリシアに近づいた。

「お兄ちゃん、ごめん。失敗しちゃった……。右腕、置いてきちゃった」パトリシアは無表でそういった。痛みはないのだろうが、ひどくが流れている。

バルバラが瓦礫を踏んで現れた。

「すこし手こずりましたね。アール様、怪我はありませんか?」バルバラは額の汗を拭いてそう言った。

教會にマーガレットが戻ってきた。彼は傷一つなく、剣を振った。剣にはがついていた。記憶は戻っていないようだった。

アールは僕を見て言った。

「スティーヴン。僕はもう君の力を借りなくても良いんだ」

彼は〔白の書〕に手を置いた。三つのがついた〔白の書〕は輝きだして、パタンと閉じた。〔妖の樹〕もりだす。

地面に真っ黒ながあいて、封印が解ける。

〔白の書〕と〔妖の樹〕が落ちて、〔魔王の右腕〕が浮かび上がった。

アールはそれを手にとった。

彼の手は震えていた。

全て終わってしまったのだと僕は思った。

「アール様。ありがとうございます。それをマーガレットにつけてもらいましょう。〈混沌〉を破壊して秩序を得るのです」

バルバラはマーガレットを一瞬だけ見た。バルバラは微笑んで、アールに手をばした。

アールは〔魔王の右腕〕を見て言った。

「バルバラ。僕はバルバラを信じてる。きっと力を貸してくれるって信じてるよ」

「ええ。いつまでもそばにいますよ」バルバラは頬を染めてそう言った。

アールは僕をみた。

「僕はスティーヴンの力を借りなくてもいい」

「ええ、そうです。私が……」バルバラの言葉をアールは遮った。

「同じように、バルバラの力を借りなくても良い」

「アール様?」バルバラは眉間にシワを寄せた。

アールは震えていた。〔魔王の右腕〕を見て、震えていた。

「どんな選択をしても、きっと誰かが犠牲になる。正しい選択なんてきっとないんだ。どれだけ未來を見たって、どれだけやり直したって、きっと、何度も何度も迷い続けるだけだ。誰かの大義は誰かの不義だ。僕は僕の信じる道を行くしかない」

彼は〔魔王の右腕〕を左手に持ち替えて、意を決するように、んだ。

「僕は僕の選択をする! だって、僕は僕だ! 第二王子、アール・ペナースだ! 王の息子で、〔勇者〕の族だ!」

彼は、〔魔王の右腕〕を、裝著した。

「ダメです!!」バルバラは悲鳴に近い聲を上げた。

〔魔王の右腕〕はロッドのときと同じように、アールのを蝕んでいく。アールは痛みにいたが、涙を浮かべた目で、僕を見ていた。

彼は言った。

「スティーヴン!」

彼は右腕を僕に向けた。〔魔王の右腕〕がほのかに緑る。

「ユニークスキルを直す!!」

アールがんだ瞬間、あたりがに包まれた。

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