《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》6 ぴよちゃんだったことはありません
空になった理由がわからないとばかりに皿を見つめているアビゲイル。そうだな、食べたらなくなるんだぞ……。
ひどく重い話を世間の常識みたいな軽さで答えてたけれど、実際プリンのが重要だったんだろう。
また寢込む羽目にならないようにタバサを一瞥すると頷きが返ってきたので、まだ大丈夫らしいと俺の分のプリンを勧めることにする。タバサの頷きは二度三度と力強かったし、ロドニーは眉をけなく下げてるし、イーサンは崩れ落ちる寸前だし。イーサンお前そんなタイプじゃなくなかったか。
「あー……そっか。そうか……俺の分も食うか?」
「えっ、だめです!旦那様も味わってください!」
「俺はさほど甘いものが好きなわけじゃないからな……ほら」
早。
駄目ですと言った口へと、プリンをのせたスプーンを近づけた瞬間にぱくっときた。
……これは。
本當ならプリンは、皿ごとアビゲイルのほうへ寄せるつもりだった。無意識だった。つい魔がさしたともいえるかもしれない。プリンに釘付けな目をこっちに向けたかった気が、もしかしたらあったかもしれない。
Advertisement
しまったと思ったのか、何事もなかったかのようにそっとスプーンからプリンだけを舐めとって姿勢を正そうとするアビゲイルに、もう一口とスプーンを差し出せば、早っ。
「――ピヨちゃんっ」
「アビゲイルです」
あー主(あるじ)そっちに目覚めちゃうんだー……とロドニーが聞こえよがしに呟いてるけれど、いやお前も一緒に育てただろう!ピヨちゃんだ!あの巣から落ちた雛だ!
「旦那様はお食べに」
もう一口。
「ならないのですか」
もう一口。
「おいしいのになくなっちゃ」
アビゲイルの口にせっせとプリンを運ぶのに沒頭していたらあっという間になくなってしまった。達があるなこれは……。
心なしかうっとりしているように見えるアビゲイルが、はっと我に返った顔で背すじをばす。
「旦那様、私もお仕事のお手伝いできます」
これはごはんをもらったから働かねばならないってやつなんだろうな。何かしてもらったほうがアビゲイルの気もすむだろうか。
ロドニーが淹れてくれたハーブティでを潤しながら考えてみる。アビゲイルはまだ手をつけてない。そうしていれば早く冷めると思っているかのようにティーカップを見つめている。
「手伝いと言ってもなぁ、軍の仕事は持ち帰らんし。事業のほうは……ロドニー、何かあるか」
「普通に主人の仕事を勉強していただくのは駄目なんですか。勿論奧様の調を見ながらゆっくりとではありますが」
「ああ、なるほどな。まあ、俺もさほど社の必要はじていないし、タバサ、アビゲイルのペースで」
母が何をしていたかをうろ覚えながらも思い描く。主人は社だけでなく屋敷の采配も行うわけだし、タバサがよく計らってくれるだろう。
「おんなしゅじんのしごと!それがありました!私できます!」
それはお手伝いしたことないので思いつきませんでしたと言うアビゲイルに、何か不安しかないんだが。
「ちなみにそれはどんなじか教えてもらっていいか」
「商人を呼ぶのです。それでここからここまで全部いただくわと」
「うん、ロングハーストのことは忘れていいぞ。タバサ頼む」
當主のサインを人任せにするのに始まって本當にあの家はろくなことをしていないな!
「タバサが教えてくれるのですか」
最近は顔も良くなってきたアビゲイルは、當初よりもが顔に出てくるようになった。嬉しそうなのは忙しいタバサがついてくれるからだろう。ずいぶん懐いたものだ。
「私お勉強は得意です。領地のお仕事も自分でお勉強したのです」
「自分で?」
部下からあがってきた書類に當主のサインをしてただけではないんだろうか。
ロングハーストはかな領地だし、元々が當主一人で回しきれるものでもない。優秀な部下が揃っているのだろうから不都合もなかったのだと想像していた。
「ロングハーストは先々代の當主が有能だったのです。その手記とか記録が殘ってましたから、それでやり方を覚えました。川の氾濫とか山崩れとか災害が起きる前にしておくこととか、不作の時はどのくらい備蓄しておくかとか、魔の異常繁(スタンピード)対策とか」
「んんんん?……まさかその指示を出してたのか?さすがにそれは當主が直接やるべきことだろう」
「……確か四年前の記録的な大雨が続いた年に、ロングハーストは異常に被害のない地域だった記憶がありますね」
普段寡黙なイーサンが、思わずといったように呟いた。それこそ四年前などアビゲイルは十二歳かそこらじゃないか。
「お天気とか魔とか、私わかります。魔王だったので」
念りにひと吹きしてからハーブティを口にしたアビゲイルは、ほぉ、とその味を堪能している。
「魔王だったからか」
「はい。だから前もって準備できました。同じようなことがあった時にどうしてたか記録に殘ってたので」
魔王の生まれ変わりだとかはロングハースト家での辛かったであろう扱いに、い心が産み出した防壁なのだと思う。だからこそイーサンまでもが沈痛な面持ちをしていたのだ。おそらくあの瞬間、俺たちは完全に思考を同じくしていた。
前もってしていた災害対策が偶然かみ合ったのか、それとも何らかの特殊な能力もちなのか。
特殊能力持ちは稀に出現する天恵(ギフト)と言われている。その能力は千差萬別ではあれど、いや、さすがに天候や魔の異常繁(スタンピード)の予測をたてられる能力など聞いたことがないが。
ハーブティに視線を落とす長いまつの下にある金の瞳を思い出す。瞳のの種類や濃淡は魔力の質や量を推測する目安にはなる。金というのはあまり見ないだが、輝きの強さを考えれば魔力量はそれなりにあるのではないだろうか。
「アビゲイル?」
「はい」
「君が魔法に通じているとか天恵(ギフト)を持っているとかは聞いていないんだが、実はロングハースト家では隠していたりしたか?」
ロングハースト家がアビゲイルの能力を把握していたとしたら、もっと高く売(・)っ(・)た(・)はずだ。俺との婚姻程度ではそれこそ元(・)が(・)取(・)れ(・)な(・)い(・)。
「魔力量を測る洗禮式には出ていないので、ロングハースト家は知らないです。聞かれませんでしたし」
「洗禮式に出ていないって、あれは貴族の義務だぞ……」
「この目のが不吉だから出なくていいって言われました。恥ずかしいって」
「本當にあの家潰さなくていいか?というか潰してもいいか」
アビゲイルに當主のサイン任せるくらいだ。叩けば埃も出るだろう。
「でも旦那様、私魔法は使えないのです。このでは魔力の放出に耐えられないので」
ですがちょっとくらいならなんとかなると思うのでいざというときはお任せくださいと、淡々と続けるアビゲイルに、いざというときは俺に任せろ前に出るなとしか言えなかった。
【電子書籍化】婚約破棄のため冷酷騎士に決闘を挑んでみましたが、溺愛されるとか誰か予想できました?
ミーティアノベルス様より9月15日電子書籍配信。読みやすく加筆修正して、電子書籍限定番外編も3本書きました。 年頃になり、私、リアスティアにも婚約者が決まった。親が決めた婚約者、お相手は貧乏伯爵家の私には不釣り合いな、侯爵家次男の若き騎士。親には決して逃すなと厳命されている優良物件だ。 しかし、現在私は友人たちに憐れみの目を向けられている。婚約者は、冷酷騎士として名を馳せるお方なのだ。 もう、何回かお會いしたけれど、婚約者のお茶會ですら、私のことを冷たく見據えるばかりで一向に距離が縮まる様子なし。 「あっ、あの。ゼフィー様?」 「……なんだ」 わぁ。やっぱり無理ぃ……。鋼メンタルとか言われる私ですら、會話が続かない。 こうなったら、嫌われて婚約破棄してもらおう! 私は、そんな安易な考えで冷酷騎士に決闘を挑むのだった。 ◇ 電子書籍配信記念SS投稿しました
8 57ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―
第七五六系、恒星シタールタを中心に公転している《惑星メカニカ》。 この星で生まれ育った青年キラはあるとき、《翡翠の渦》という発生原因不明の事故に巻き込まれて知らない星に飛ばされてしまう。 キラは飛ばされてしまった星で、虹をつくりながらある目的のために宇宙を巡る旅しているという記憶喪失のニジノタビビトに出會う。 ニジノタビビトは人が住む星々を巡って、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちの協力のもと感情の具現化を行い、七つのカケラを生成して虹をつくっていた。 しかし、感情の具現化という技術は過去の出來事から禁術のような扱いを受けているものだった。 ニジノタビビトは自分が誰であるのかを知らない。 ニジノタビビトは自分がどうしてカケラを集めて虹をつくっているのかを知らない。 ニジノタビビトは虹をつくる方法と、虹をつくることでしか自分を知れないことだけを知っている。 記憶喪失であるニジノタビビトは名前すら思い出せずに「虹つくること」に関するだけを覚えている。ニジノタビビトはつくった虹を見るたびに何かが分かりそうで、何かの景色が見えそうで、それでも思い出せないもどかしさを抱えたままずっと旅を続けている。 これは一人ぼっちのニジノタビビトが、キラという青年と出會い、共に旅をするお話。 ※カクヨム様でも投稿しております。
8 177転生したら龍...ではなく世界最強神獣になってた(何故?!)
普通に日本で暮らしている同じ高校の三人組 青城疾風 黒鉄耀 白崎脩翔はゲームショップに入ったはずが全く知らない所に來てた(´・ω・`) 小説でお馴染みの異世界に行くことになったので神様にチート(かもしれない...)を貰ってみんなで暴れるお話です!それでは3人の異世界ライフご鑑賞ください!(作品は橫書きで読んでください(〃・д・) -д-))ペコリン)
8 120異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?
「全ての條件は揃いました」 平凡な高校生活を送っていた佐野 祐。 だが神の都合で、異世界に強制転移させられてしまう。 そして、祐が神からもらった力、それはもしかしたら神にも匹敵する力だった。 ※投稿頻度は不定期ですが約1週間周期を目標にしてます。
8 135史上最強の魔法剣士、Fランク冒険者に転生する ~剣聖と魔帝、2つの前世を持った男の英雄譚~
一度目の転生では《魔帝》、二度目の転生では《剣聖》と呼ばれ、世界を救った勇者ユーリ。しかし、いつしか《化物》と人々に疎まれる存在になっていた。 ついに嫌気が差したユーリは、次こそ100%自分のために生きると決意する。 最強の力を秘めたユーリは前世で培った《魔帝》と《剣聖》の記憶を活かして、Fランクの駆け出し冒険者として生活を始めることにするのだった――。
8 170高欄に佇む、千載を距てた愛染で
山奧にある橋。愛染橋。 古くからその橋は、多くの人を見てきた。 かつては街と街を結ぶ橋だったが、今は忘れられた橋。 ある日、何故かその橋に惹かれ… その夜から夢を見る。 愛染橋に纏わる色んな人々の人生が、夢になって蘇る。
8 118