《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》28 うみのくりはうごいてましたし、もりにいたまものによくにてるのもいるみたいです
「旦那様、栗を水に漬けたら味しくなるのですか」
「海栗(ウニ)だな。それ」
よく見てみなさいと言われて、盥(たらい)にはられた水面の下をじっくりのぞきました。あ。
「――うごいた!旦那様!この栗きます!」
「海栗な。これは海の生きで、栗は……果?いや、どうだ?野菜、じゃないから、果か……?」
朝早くに起きて市場にきました。こんなに早い時間なのに、お祭りのときと同じくらい人間がいます。
朝ごはんはまだ食べてません。これから屋臺で選ぶのです!お魚やおの焼ける香ばしい空気が漂っていて、どれもこれも味しそう。旦那様は手をつないでゆっくり歩いてくださるので、お店もゆっくり覗けます。そして見つけた店先の地べたに並んだ盥(たらい)の中の栗、いえ、海栗でした。
じっと見つめてると、もぞりもぞりととげとげがいていました。これ水の流れにおされてるフリしてるけど自分でいてます。とげとげが足。いっぱいの足……ちょっと魔王ぽいと思ったらなんだかそわそわしてきた気がします。
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「……旦那様、海栗も栗みたいにとげとげは食べませんか。中食べますか」
「そうだな、見た目はあまり良くないが俺は好きだぞ。食べてみるか?」
お店の人に頼もうとする旦那様の手をとめました。
「私、かない海栗のほう食べます。く栗はやめときます」
「う、うん?そうか?栗?ん?」
中同じならかない方でいいですし。モンブランケーキは味しかったですし。――あら?隣の盥には違うのがあります。私の手のひらより大きくて、旦那様の手のひらくらい?ごろんと丸っこい筒みたいだけど、ところどころに突起があって。
森の魔にこういうのいましたけど、これは水の中に棲んでるものみたいです。うぞうぞいてる。まだら模様はちょっと楽しいかもしれません。盥(たらい)には三つ四つくらいしかいませんけどみんな合いが違います。
「お嬢ちゃん、それ平気なのかい?」
お店の人が珍しそうに聲をかけてきました。平気とは。あ、突起がむにっていた。
「いやぁ、若い娘さんでなまこを真剣に見つめる子って珍しいね……割と嫌がられるんだが」
「ああ、婦子に生きた狀態のこれは好まれはしないだろうな」
「それでも容にいいって食うんだから大したもんだよ」
やっぱりこれ食べるものでいいんですね。お魚も人間は生で食べますし、これもきっとそうなんでしょう。
「気になるなら食べてみるか?買って帰っ――!?」
じゃぷんとなまこを摑んだ私の手を、旦那様の手が包むようにつかまえました。
「……君ほんと予備作ないな。すまん、店主、この盥(たらい)の中のものを全部もらおう。城に屆けておいてくれ」
「あ、ああ、領主さまんとこかい……思い切りのいいお嬢ちゃんにサービスしとくわ」
これは生は生でもマリネにするから城でな、と旦那様に教えてもらいました。ここでは食べられなかったみたいです。マリネ知ってます。酸っぱいけど味しいのです。
炭火で焼いたお魚はほくほくほろほろしてたし、カニの足は旦那様がずるっと殻から出してくれました。噛んだら、じゅって水分がでてきてそれが甘じょっぱくて味しかったです。前に食べた串も串から一切れはずしてくれたので食べました。巻貝の中を引っ張り出すのは難しかったけど、旦那様がやるとちゅるんって出てくるのはしずるいと思います。
お出かけしたのが朝早かったので、お城に帰ってきてもまだいつもの朝ごはんの時間よりちょっと遅いくらいの時間でした。
髪に煙の臭いがついてますからねってタバサに言われて湯あみもしました。旦那様は湯あみの前にをかしてくると訓練場に行ったそうです。お出かけの間、私を抱っこしてくれてる時間も長かったのに旦那様はお元気です。
今日はとってもいいお天気で、市場に行ったときはまだ風が涼しかったですけど、今はしがほかほかしています。お庭に小さなテーブルと椅子を出してきてくれたので、そこでお茶をいただいています。
大きな日傘が立てかけてあるので、お日様のはあたりませんが、ぬるくてしずかな風が気持ちいいです。
お屋敷のお庭も広いですが、お城の中庭はもっと広くて、特にここはんな樹がまるで森の中みたいに周りを囲んでいます。
ぽかんとあいたこの辺りだけにがあたって、しゃらしゃらと葉れの音だけ聞こえてくるのです。
魔王の時もこうやってひなたぼっこをしながら、うとうとしてたことを思い出しました。
魔王は強かったので、別にうとうと油斷していたってやっつけられちゃうことなんてありません。
襲ってこられたって平気です。でも襲ってくる魔はいるのです。
ここには私を襲うものはいません。うとうとしてても油斷してても誰も邪魔しないです。
にんげんになれてよかったって、アビゲイルになってからずっと思ってますけれど。
旦那様のところにきてからは、もしかしてにんげんになれたことだけよりも、ずっともっとよいことになってるのかもしれないって思うようになりました。
私はまだ強いけど、旦那様のほうがずっと強くて、私が襲われたらきっと助けに來てくれます。別に襲われたことないですけど、多分そう。
だから今の私は魔王の時より弱いけど、こうしてうとうとしてたって平気なので――?
がさがさっと、背中のほうから、繁みが風じゃないもので揺れる音がしました。
「こんにちあ!」
……なんかちっちゃいにんげんがいます。
繫みからごそごそってちっちゃいのが出てきました。え、ちっちゃい。え、なんかこっちきます。よちよちしてます。
ちっちゃいにんげんがこんな近くにきたのはじめてです。――どうしよう。
タバサ、タバサ、どこですかどうしようタバサ!
いつもごひいきありがとうございます!
別作ですが、「給食のおばちゃん異世界を行く」も書籍化決定のお知らせです。
わたしもう今年で壽命盡きるかもしれない気がとまりません。
こちらは完結してますので、アビーのほうに影響はありません!だいじょうぶです!
明日もちゃんと更新できますので!明後日の分はまだですが!
よろしくおつきあいください!
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、美味しいご飯と戀のお話~【書籍化・コミカライズ】
Kラノベブックスf様より書籍化します*° コミカライズが『どこでもヤングチャンピオン11月號』で連載開始しました*° 7/20 コミックス1巻が発売します! (作畫もりのもみじ先生) 王家御用達の商品も取り扱い、近隣諸國とも取引を行う『ブルーム商會』、その末娘であるアリシアは、子爵家令息と婚約を結んでいた。 婚姻まであと半年と迫ったところで、婚約者はとある男爵家令嬢との間に真実の愛を見つけたとして、アリシアに対して婚約破棄を突きつける。 身分差はあれどこの婚約は様々な條件の元に、対等に結ばれた契約だった。それを反故にされ、平民であると蔑まれたアリシア。しかしそれを予感していたアリシアは怒りを隠した笑顔で婚約解消を受け入れる。 傷心(?)のアリシアが向かったのは行きつけの食事処。 ここで美味しいものを沢山食べて、お酒を飲んで、飲み友達に愚癡ったらすっきりする……はずなのに。 婚約解消をしてからというもの、飲み友達や騎士様との距離は近くなるし、更には元婚約者まで復縁を要請してくる事態に。 そんな中でもアリシアを癒してくれるのは、美味しい食事に甘いお菓子、たっぷりのお酒。 この美味しい時間を靜かに過ごせたら幸せなアリシアだったが、ひとつの戀心を自覚して── 異世界戀愛ランキング日間1位、総合ランキング日間1位になる事が出來ました。皆様のお陰です! 本當にありがとうございます*° *カクヨムにも掲載しています。 *2022/7/3 第二部完結しました!
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