《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》29 ちっちゃいにんげんはちっちゃくてもちゃんとにんげんみたいです
「ぼくは!サミュエル・ドルーエットです!」
よちよち寄ってきたちっちゃいにんげんは、聞いてもいないのに名乗りはじめました。
言えてないですけど、ドリューウェットって言ってます。多分。
そうすると、旦那様のお兄さまであるスチュアート様のお子様でしょうか。小さい子どもがいるってそういえば旦那様が言っていたと思います。小さいからと、この間の晩餐や朝食にはご一緒してません。
「しゃんしゃいです!」
え、しゃん、しゃい……?
なんですか、バッて広げた手を前に突き出して言ってますけど、それ関係ありますか……?
ロングハーストの屋敷にちっちゃいのはいませんでした。魔王のときにもちっちゃいのは寄ってきてないというか、そもそも森の近くになんてちっちゃいのはきませんし。
でも知ってます。にんげんはちっちゃいのがちっちゃいほど、やっつけられたらすごく怒るのです。森の魔はあんまり森の外には出ませんでしたが、時々外に出て人間を襲うのがいました。もしその襲われた中にちっちゃいのがいたら、にんげんは仕返しにたくさんやってきて、魔はやっつけられちゃうのです。
だから魔王もちっちゃいのを遠目でも見かけたら、森の奧へ逃げてたようでした。見つかったら泣かれるし、うっかり近くまできたら踏んでしまうかもしれないからだと思います。あっ、また寄ってくる!タバサ!タバサどこ!よちよち寄ってこられた分、後ろに下がって離れました。
「あびーちゃんですか!」
「えっ、え?た、多分そうです」
あびー、アビー……旦那様がこの間私をそう呼びました。だからきっと私はアビーなんじゃないかと思いますけど。辺りを見回すと、ちょっと離れたところにいた護衛とメイドが変な顔してました。ぴくぴくしてます。
「おかあさまが、あびーちゃんはおじうえのおよめさんよっていいました」
おじうえ?おじうえ……旦那様のこと……?
「はい、旦那様の妻です!」
ぷふって吹き出す聲が、また繁みの向こうから聞こえました。その繁みを回り込むようにいらっしゃったステラ様はにこにこしてます。いつものおすましじゃないお顔で、ちっちゃいにんげん……サミュエル様と手を繋ぎました。
「急にごめんなさいね。サミュエルがどうしてもアビゲイル様とご挨拶がしたいっていうものだから……でも子どもは苦手だったかしら」
「にがて……よくわかりません。こんなに近くで見たのははじめてです」
サミュエル様はステラ様と手をつないだので、もう寄ってきません。私、息をつめてたみたいです。はあって吐き出してから気づきました。
寄ってこなくなったサミュエル様をよく見てみると、こんなに小さいのに手も足もちゃんと人間の形をしています。いえ、私もいときは小さかったはずですけど、自分のですから気にしたことはありませんでした。
胡桃の髪と瞳はステラ様と同じです。とってもにこにこして私をみています。
……泣かないし怖がられない。ロングハーストの屋敷に小さい子はいませんでしたが、本當に時々屋敷の庭にある柵の向こうを、領民の子どもが通ることがありました。私に気がつくと、きゃーって逃げていったのに。
「……サミュエル様は私がこわくないですか?」
「こわくなーい!」
きゃあってサミュエル様はいいましたけど、嬉しそうなきゃあです。ステラ様を思わず見てしまうと、ちょっと戸ったようなお顔をしてました。
「アビゲイル様が怖いなんて……そんなことあるわけないではないですか。ねえ、サミュエル。アビーちゃんかわいいわよねぇ」
「うふふっ、かーわい!」
また、きゃあってサミュエル様はステラ様のスカートに顔を埋めてしまいました。
タバサ、なんでサミュエル様はご機嫌なんでしょう……?
◆◆◆
「あれは何を……?」
「サミュエルがアビゲイル様に、アビゲイル様の髪のお花を見せるんだと言いまして」
鍛錬と湯あみを終えて戻ってみれば、花壇のそばでちょこんとしゃがむ二人の後姿が並んでいた。なんだあれ可すぎるんじゃないか。
「なんですかあれ、可すぎませんか」
つい聲にも出てしまった言葉に、ステラ義姉上が小さく吹き出した。年下でもある義姉上が、実は笑い上戸なのは知っている。普段は淑の見本のような彼だが、昨日の朝食も多分あれは笑うのを堪えてたせいで食が進んでいなかった。
「ジェラルド様、本當にアビゲイル様が可くて仕方がないのですね。以前とは別人みたいだわ」
「……まあ、多自覚はありますが」
サミュエルが楽し気でけたたましい笑い聲をあげた。アビゲイルが何か花壇に咲く花の間を指さしている。いやあれなんか嫌な予がするぞ。
「アビゲイル、戻ったぞ」
俺がかけた聲に二人同時に振り返って、駆け出したのはサミュエルのほうが早かった。
駆け出したサミュエルに驚いたらしいアビゲイルは、俺に抱きついたサミュエルをみて、さらに目を丸くさせてしゃがみこんだまま固まった。なんだ、どうした。
「おじうえ!おじうえ!だっこをおねがいします!だっこを!」
「お、おう」
アビゲイルの様子に気をとられたまま、強請られた通りにだきあげ――なんで花の飴を沒収された時のような顔をする……?
高校生男子による怪異探訪
學校內でも生粋のモテ男である三人と行動を共にする『俺』。接點など同じクラスに所屬しているくらいしかない四人が連む訳は、地元に流れる不可思議な『噂』、その共同探訪であった--。 微ホラーです。ホラーを目指しましたがあんまり怖くないです。戀愛要素の方が強いかもしれません。章毎に獨立した形式で話を投稿していこうと思っていますので、どうかよろしくお願いします。 〇各章のざっとしたあらすじ 《序章.桜》高校生四人組は咲かない桜の噂を耳にしてその検証に乗り出した 《一章.縁切り》美少女から告白を受けた主人公。そんな彼に剃刀レターが屆く 《二章.凍雨》過去話。異常に長い雨が街に降り続く 《三章.河童》美樹本からの頼みで彼の手伝いをすることに。市內で目撃された河童の調査を行う 《四章.七不思議》オカ研からの要請により自校の七不思議を調査することになる。大所帯で夜の校舎を彷徨く 《五章.夏祭り》夏休みの合間の登校日。久しぶりにクラスメートとも顔を合わせる中、檜山がどうにも元気がない。折しも、地元では毎年恒例の夏祭りが開催されようとしていた 《六章.鬼》長い夏休みも終わり新學期が始まった。殘暑も厳しい最中にまた不可思議な噂が流れる 《七章.黃昏時》季節も秋を迎え、月末には文化祭が開催される。例年にない活気に満ちる文化祭で主人公も忙しくクラスの出し物を手伝うが…… 《八章.コックリさん》怒濤の忙しさに見舞われた文化祭も無事に終わりを迎えた。校內には祭りの終わりの寂しさを紛らわせるように新たな流れが生まれていた 《九章.流言飛語》気まずさを抱えながらも楽しく終わった修學旅行。數日振りに戻ってきた校內ではまた新たな騒ぎが起きており、永野は自分の意思に関係なくその騒動に巻き込まれていく 《最終章.古戸萩》校內を席巻した騒動も鎮まり、またいつものような平和な日常が帰ってきたのだと思われたが……。一人沈黙を貫く友人のために奔走する ※一話4000~6000字くらいで投稿していますが、話を切りよくさせたいので短かったり長かったりすることがあります。 ※章の進みによりキーワードが追加されることがあります。R15と殘酷な描寫は保険で入れています。
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