《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》34 にんげんにはいろんなにこにこがあるみたいです

朝早くにドリューウェットのお城を出発しました。王都のお屋敷に帰るのです。

タバサとロドニーは別の馬車なので、旦那様と二人です。

「……本當に気にったんだな」

「カトリーナひゃまがいっぱいくれまひたのれ」

侯爵夫、間違えました、カトリーナ様がサーモン・ジャーキーを大きな箱いっぱいに詰めてくださったのです。箱は荷用の馬車に載ってます。あと、「私はカトリーナというのですよ」ってお名前を呼んでもいいですよの合図をしてくれたので、カトリーナ様なのです。

いただいたサーモン・ジャーキーは、お茶會で出たのより味しいです。「ここのサーモン・ジャーキーがこの領で一番ですから」っておっしゃってました。だからきっとカトリーナ様もサーモン・ジャーキーお好きなのだと思います。

馬車の窓には、空と地面の境目が橫切っています。ずっと同じに見えるけど、よくよく見ていたらゆっくりと後ろに流れていってるのがわかりました。刈りれの終わった麥畑には、ここが畝でしたよって示すように薄茶の細いが何列も並んでて。空の近くまでびた列の向こう側で、畑と空を區切る樹々が形を変えていくから、馬車が進んでいくのがわかるのです。

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ごとんごとんとんとんと不規則な揺れにはもう慣れました。ロングハーストから王都へ向かう馬車はもっとごんごんいてておが跳ねたりしたけれど、この馬車はそんなことないのです。それにクッションだっていっぱいあるし、旦那様も腕を私の肩に回して支えてくださるので、王都からドリューウェットに向かう時だって全然平気でした。帰りなんてもっとへっちゃらです。旦那様のお膝の間に座ってるのですから!いい場所です!

私は魔王のの大きさのつもりで魔力をめぐらせているらしいです。だから昨日の練習の時は、旦那様が魔力で包んでくれてここまでだよって教えてくれました。練習の時じゃなくても、抱っこしていたほうがわかりやすいし覚えやすいって、こうしてくださってます。魔力もあったかかったけれど、ぴったりくっついてるのもあたたかいです。

旦那様は私のつむじに顎をのせたり、髪の先をくるくる指に絡めていじったりしながら、もう片方の手で書類や本を読んだりしています。今です。

「――ポケットの中のも出しなさい。一本だけの約束だろ」

二本目はさりげなく出せたはずでした。どうしてわかったのでしょう。旦那様は本読んでたのに!

サーモン・ジャーキーは食べ終わってしばらくしてから腹で膨らむんだぞって旦那様がおっしゃった通り、本當にお腹が膨らんできた気がします。一本でやめておいてよかった。前に食べた時は、途中で旦那様やタバサがおしまいにしちゃったので、お腹にははいってなかったのです。噛みちぎれてませんでしたし。今日は一本全部食べられました。味しかったです。食べてる間に領都の周りに広がる畑を越えて、馬車は森の外縁をなぞるようにのびる街道を走っていました。

ドリューウェットに向かう時には、このあたりで私はもう眠ってしまっていたので、近くで見るのははじめてです。魔王の森とはちょっと空気が違う。お城にいたときにもわかってはいたのですが、ここの森にはそんなに強い魔はいません。でもそれだけではなくて、中心部へいくにしたがって魔は強くなっていき、外周にはほとんど普通のか弱い魔しかいないのです。だから馬車から見える森は木の合間も広くて、お日様のをいっぱいはらんで明るくきらきらしています。

旦那様にそう話すと、一瞬だけきゅっと私を囲う腕に力がはいりました。そしてちょっと不思議なことを言うのです。

「――君は森に住みたいとか思っていたりするか?」

「私はいま人間ですから、森にはすめません。人間と魔は住む場所別々のほうがいいのです」

「そうか」

「それに旦那様もお強いですけど、森に住むのはきっと無理です。ごはんおいしくないですし」

「――っははっ、確かにそうだ。君が住むならそりゃあ俺も住むよなぁ」

旦那様はとってもご機嫌にうんうんと頷いて笑っています。

旦那様が笑うのは好きです。なんで笑うのかはちょっとわかりませんけど、ほかほかします。

タバサがにこにこしてるのも好きだけど、それとはちょっと違うのです。

「そういえば、タバサとステラ様はにこにこしたお顔がそっくりでした」

「お?何の話の続きかわからんが、そうか?」

「はい。サミュエル様をみるときのステラ様はタバサとおなじです」

「――ああ、なるほど」

「カトリーナ様も旦那様をたまに同じお顔で見てました」

「ふぅむ?――それはちょっと意外というか、気づいたことはないな……母はああいう人だから、正直し心配はしてたんだが、君は城でちゃんと楽しく過ごせただろうか」

髪に頬ずりしてから、旦那様は後ろから私をのぞきこみます。最近旦那様はこうしてすりすりするのもお気にりみたいです。

「知らないもの、いっぱいありました。おいしいものもいっぱい。私は森とか山とかのことは行ったことないとこでもわかりますけど、人間の住んでるとこはわかりません。だから楽しかったです」

「あー……、そう、か。そうだなぁ……君、學校とか行ってみたいか?」

「がっこう」

「うん。ほら、魔法はちゃんといい教師をつけるつもりでいたんだが、大抵の貴族は魔法學校に通うからな。君はどうだろうかと」

「がっこう行かなくても覚えました。ほら、"照らせ燈れ"」

ぽっと手のひらにちいちゃなの球が現れます。ちっちゃいからに負擔なんてかかりません。ね、ゆうべできるようになったのです。詠唱もしてます。

「うん、また詠唱する前に発してたからな。それ詠唱関係ないよな」

旦那様はまた唸りながら「でもなぁ、學校はなぁ」って、つむじにすりすりしてます。

サミュエル様がステラ様に抱っこされて頬ずりされてるのも見ましたけど、このすりすりとはきっと違います。サミュエル様はきゃっきゃ笑ってましたけど、くすぐったくないです。とろとろと眠くなってきましたから。

がっこうはよくわかりませんけど、旦那様に教えてもらうほうがいいなぁって思いました。

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