《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》44 こうしゃくけのりょうりにんはおしろのひとなのでおいしくできるのかとおもいました

「おかえりなさいませ旦那様!おがおおきくなりました!」

「ただい――っぐっげほげほげほっ」

エントランスで駆け寄ってきたアビゲイルを抱きとめて、その一聲にむせた。

「大丈夫ですか旦那様」

「っこほっ、お、おう。今日は試著だったか」

「はい!マダムロリポリにおが育ちましたねって言われました!」

「あ、うん、アビゲイル、アビー、そこ持つのやめなさい。な」

「はい!」

自分のを持つ両手をおろさせてから、いつも通りに抱き上げて片腕に乗せると、紳士の表を保って視線を逸らす父と、その父に寄り添い扇で顔を隠して震えてる母がいた。

「いらしてたんですね。ただいま戻りました」

「ああ、邪魔をしている。おかえり――相変わらず流れるように抱き上げるなお前」

し話もありましたからね、アビゲイルを送るついでに……ぷ、裝も滯りなくてよ。まあ、まず著替えてらっしゃい。アビゲイル、絵が途中でしたでしょう」

「はい!」

するりと俺の腕から降りて、アビゲイルはサロンのほうへ向かう父と母についていってしまった。というかなんだあの二人、夫婦喧嘩してたんじゃないのか。妙に近くないか。何いそいそとアビゲイルを連れていってるんだ。

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「ほらっ主(あるじ)!むっとしてないで早く著替えて行きましょうっ」

「してないっ」

「茶會ですか」

夕食の席で母がきりだしたのは、茶會にアビゲイルを連れ出すというものだった。

「ええ、心配はいらないわ。もう掃(・)除(・)はすみましたから」

「義母上もお掃除得意ですか。私も得意です。あれ、でも妻のお仕事じゃないってタバサは言ったのに」

「アビゲイル、ほら、こっちが冷めたら食べなさい」

アビゲイルの悪評を楽しんでいた輩を排除したか、とりこんだか、まあ、それは済んだということなのだろう。うっそりとした微笑は一瞬だけで、母は「掃除の場所が違うのよ」とすまし顔でさらりと流した。

焼き石を底に収めた小鍋でぐつぐつと気泡を上げ続けているアヒージョから、ブロッコリーとベーコンをとって小皿にうつしてやる。見つめててもな、なかなか冷めないんだこれは。

「ごく親しい方たちだけ招くわ。式に招待した夫人たちくらいには顔見せしておかないとね」

「いつですか」

「あなた來なくていいわよ」

「旦那様、お茶會はいろんなお菓子があるそうです」

「お、おう、そうだな。いやしかし母上」

「あなた來なくていいわよ。アビゲイルだっておすましは得意ですし。そうよね?」

「――はい!」

いや、それわかってない溜めだろう……。きのことカリフラワーを小皿に追加してやる。一度は顔見せが必要だとは思うんだが……。

「そんなに心配かしら……前の夜會のときだっていい子にしてたわよねぇ。あなたが甘やかしすぎてただけで、言っておけばちゃんと黙っていられるじゃない」

それはそうなんだが!確かに屋敷外では天恵(ギフト)や魔王のことは口走らないように言い聞かせてるんだが!黙って飾りの花食ってたりするんだよなぁああああ。

「あ、旦那様!今日は義母上のお屋敷で廚房を見せてもらいました!」

「お?お、おう」

「卵の箱にカガミニセドリの卵はいってました。ドリューウェットではあれ食べますか。あれ味しくないと思うんですけど」

「……カガ、ミ?なんだ?」

「アビゲイル……そのカガミ、ニセドリってなんです?」

「卵をそっとよその巣にいれる魔です。孵ったら巣にいるもの全部食べちゃいます。あ、この緑のと白いの、違いと思ったら味も違いました。味しいです」

する両親の顔を直視できなくて天井をあおいだ。そうだなー。うん。向こうでは黙ってたんだろうが、ここは屋敷(うち)だからなー。

「アビゲイル、それ、あ、いや、カガミニセドリのほうな。いつ孵るかわかるか」

差し出されたカリフラワーを刺したフォークを手で制すると、アビゲイルはぱくんとそれを口にれた。

「……あさってくらい?だから明日の朝ごはんでしょうか」

「じゃあちょっと食後につきあってくれるか。もう一度王都邸(タウンハウス)へ一緒に行こう。その卵は処分するから、どれか教えてくれ」

「はい!……ということは、味しくはならないですか」

「多分な……」

いやもうそんな殘念そうな顔されてもな、俺もちょっと両親に々と説明しなきゃならんみたいだからな……。

「あれがアビゲイルの天恵(ギフト)か……」

無事卵を処分して、今夜はドリューウェットの王都邸(タウンハウス)に泊まることになった。アビゲイルはあてがわれた客室でもう眠っている。

父は蒸留酒のグラスを一気にあおってソファにを沈め、母も珍しくそれにつきあっていた。

詳しく聞くとカガミニセドリという魔は、トリといいながら鳥ではなく、孵った巣の生きを擬態して食らいつくすそうだ。卵だから鳥の巣に仕込まれることが多いというだけで、近くに人間がいれば人を擬態すると。……あまり人間に知られていない理由は、考えたくもない生態だった。

これまでドリューウェットに助言したときは、起きることへの対策を前面に出して、何が起きるのかをはっきりとは伝えていない。天恵(ギフト)は元々本人から明かさない限りは詮索しないものだから、それでしのげていた。

將軍閣下からの忠告もあったし、いずれはもうし明かしたほうがいいのかもしれないとは思ってはいたんだ。けれど、さすがにちょっといきなりなうえ、目の當たりすぎた……。

もちろん魔王云々は伏せたけれど、魔の生態への深い知識や、その発生や向を距離すらものともせずに把握できるというのは、それだけでどこの國もしがるものだ。その恩恵はドリューウェットですでに証明されている。

「……一応、あの手のことは外で言わないようにしてるのね?」

「ええ、だから今回も屋敷に帰るまでは黙ってたんでしょう。ただ、魔のことだから黙っていただけで、自分のできることが普通の人間はできないことだという認識が淺くて……」

「何を言い出すかはわからないってことね……いえ、それはいつもそうなのだけど……ちょっとお茶會は考え直しましょう。あなたが同席できる小規模な夜會なりのほうがいいわね」

「……もっと本腰をれて報がもれないようにすべきだな」

力づけるように母の右手を握る父に、母がそうねとその手に左手を重ねた。

いや本當にどうしたこの二人……まるで仲睦まじい夫婦じゃないか。

アビゲイルがれられたのはいいんだが、なんだ、こう、ちょっと引くぞ……。

明日もおやすみ!次は多分明後日です!

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