《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》12.深刻な狀況

セシリアは早速、翌日にローズブレイド公爵家を訪問する旨を手紙にしたため、屆けさせた。

都合を尋ねるわけでもなく、通達である。

れも無しに突然訪れる非禮を避けただけの、十分に勝手なやり方だ。

しかし、今は時間が無い。翌日は學園が休みなので、この日を逃すわけにはいかないのだ。

そして翌日、支度を調えてローズブレイド公爵家に向かったセシリアだが、當主は不在だと言われてしまった。

「それなら、お帰りまで待たせていただくわ」

これくらいのことは、予想していた。

ローズブレイドの當主ならば、王に対しても、勝手にやって來た相手に合わせる必要などないと言い切れるだけの力はある。

ましてセシリアは王家の腫れにして、ローズブレイド公爵家にとって因縁ある二人の娘なのだ。すんなり會ってくれるとは、始めから思っていない。

一日中、門の前に立ってでも待つつもりである。

だが、執事はセシリアを邸宅の中に案してくれた。

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邸宅はところどころ様変わりしていたが、造りは前世の記憶にあるものと同じままだ。

廊下に飾られた花瓶から、この時期に庭で咲く花の芳しい香りが漂ってくる。かつて、気にって自分でもよく摘んでいた花だ。

懐かしさがわき上がってきて、が詰まりそうになってしまう。

もっとも、途中すれ違う使用人たちは、知らない顔ばかりだった。やはり人はれ替わっているのだろう。

「こちらでお待ちくださいませ」

応接室に案され、執事が一禮して去っていこうとする。

目の前の執事はまだ若く、前世の記憶にある執事はもっと年を重ねていたはずだ。

やはりいろいろ変わっているのだと思ったところで、執事の顔に見覚えがあるような気がした。

「あなた……もしかして、スタン?」

思わずセシリアが口にすると、それまで取り澄ましていた執事が、ぽかんとした顔つきになった。

唖然としたままセシリアを見つめ、口がわずかに開いている。

「……何故ご存知で」

ぼそりとした余裕のない呟きを聞き、セシリアはしまったと焦る。

どうやら彼はセシリアの思った通りの人だったようだが、それをセシリアが知っているのはおかしい。

スタンは前世の記憶にある執事の息子で、アデラインよりもし年下だった。當時は見習いだったはずだが、昇格したようだ。

「ええと……その……ローズブレイド家に代々仕える執事のことを聞いたことがあって……」

苦しい言い訳だったが、スタンはそれ以上何も追及してこなかった。

不躾な呟きをらしてしまったと詫びながら、スタンは去って行く。

「……気を付けないと」

一人になった応接室で、セシリアは深呼吸をして呟く。

ついうっかり口に出してしまったが、本來は知っているはずがないことなのだ。

しかし、セシリアがアデラインの生まれ変わりであることを明かすのならば、むしろ有効だったのかもしれない。

この期に及んで、未だにセシリアは迷っていた。

もしアデラインの生まれ変わりであることを明かし、それを信じてもらえたのならば、それだけで功したようなものだ。

ただ、前世の記憶があるという神の忘れものは、語上だけの作り話とも言われているくらいなので、信じてもらえるとは限らない。

むしろ、頭がおかしいと思われておしまいだろう。

それよりも、セシリアが両親から冷遇されているのは、調べればすぐにわかる話だ。

アデラインのことは明かさず、復讐のために手を組むことを持ちかけたほうがよいのだろうか。

「ええと……いえ……ちょっと待って……もし恨みがなかったとしたら……」

どうすべきか考えているところで、とても嫌な可能に気付いてしまった。

エルヴィスがローガンとヘレナに対する恨みを抱いておらず、アデラインの復讐など夢にも思わなかった場合、全ての前提が崩れてしまう。

前世の記憶では、エルヴィスはアデラインのことをとても慕っていたはずだが、これだけ年月が過ぎていれば、もはや思いが風化していてもおかしくない。

當たり前のように、ローズブレイド家にとってアデラインは大切な存在で、仇討ちの機會があれば実行するだろうと思っていた。

アデラインの父が生きていれば、それはおそらく間違いではなかったのだろう。

だが、今の當主はエルヴィスだ。

あえて波風を立てようとせず、傍観する可能だってある。その場合、罪を暴くための協力者になることはもちろん、わざわざローガンの後ろ盾になることだってないだろう。

それどころか、実はエルヴィスがアデラインのことを嫌っているということだって、あり得るのだ。

たとえい頃は慕っていたとしても、その後の騒やら爵位爭いを経て、気持ちが変化することだってあるだろう。

「ど……どうしよう……」

今さらその可能に思い至り、セシリアはあたふたとしてしまう。

そうしているところに、扉を叩く音が響いた。

まさかと思ったら、扉を開けて中にってきたのは、エルヴィスだった。

「お待たせいたしました。私にどのようなご用件でしょうか?」

冷靜なエルヴィスの聲が、さらにセシリアの焦りを高める。

思ったよりも早く會えたことは喜ばしい。だが、よりにもよって嫌な可能に気付き、まだ落ち著いていないところに現れなくてもと、セシリアはし恨みがましい気持ちになってしまう。

「そ……その……突然訪ねてきた無禮をお許しください」

気持ちを落ち著かせようと、セシリアはとりあえず謝罪の言葉を口にする。

エルヴィスの様子をうかがってみれば、儀禮的な微笑みを口元に浮かべているが、目は歓迎しているようには見えない。

訪ねてきて嬉しいと思われることがないのは知っていたので、想定通りともいえる。

「構いませんよ。ご用件をおっしゃってください」

穏やかに述べるエルヴィスだが、用件を急かすあたり、セシリアを歓迎していないことがありありとしている。

先ほどまで、セシリアはアデラインの生まれ変わりであることを告白するか、それとも復讐のために手を組むことをもちかけるかで、迷っていた。

しかし、今はそれ以前の問題が頭を占めてしまっている。

「あ……あの……お伺いしたいことが……姉君のことをどう思っておいでですか?」

したセシリアの口から出たのは、自分でも何故そうなるのだと頭を抱えたくなるような容だった。

だが、エルヴィスは虛を衝かれたようだ。口元の微笑みが消え、表が抜け落ちてしまっている。

かといって、今さら出た言葉を引っ込めることもできず、セシリアは全に変な汗が流れていくのをじながら、エルヴィスの様子をうかがう。

「……それを、あなたが私に尋ねますか」

ややあって、エルヴィスはぼそりと呟いた。

大貴族にふさわしい穏やかな微笑みの表は消え失せ、どこか拗ねたような、一人の若者らしい顔になっている。

「よいでしょう。こちらにいらしてください」

エルヴィスはそう言って、セシリアを伴って応接室を出て歩き出す。

セシリアは何も言うことができず、ただついて行くことしかできない。

行き先は、どうやら前世でアデラインの父が執務室として使っていた部屋のようだ。

今はどのように使われているかわからないが、そもそもエルヴィスが何をしようとしているのかも、想像すらできない。

「さあ、どうぞ」

促され、セシリアは部屋の中にる。

真っ先に目にってきたのは、かつてアデラインの父が使っていたものと同じ機だ。

やはりここは執務室なのか、いったいここに何があるのかと考えたところで、続いて目にってきたものがある。

壁に飾られた、アデラインの肖像畫だ。

「え……?」

しかも、ひとつだけではない。

機の後ろにある壁、両橫にある壁、前にある壁と、合計四つの異なる肖像畫が、存在を大きく主張していた。

「姉は、今でも私の太です。しく、賢く、慈に満ちた姉のことを、心より慕っております。こうして見守っていていただき、日々心を引き締めているのです」

エルヴィスはうっとりと呟く。

あまりにも予想外の狀況に、セシリアはただ立ち盡くすことしかできない。

アデラインに対するエルヴィスの思いは、ある意味、セシリアの想像よりもはるかに深刻な狀況のようだった。

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