《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》13.契約婚約

セシリアは、言葉が何も出てこなかった。

どうやらエルヴィスがアデラインを嫌っているかもしれないという心配は、杞憂に過ぎなかったようだ。

だが、未だにアデラインのことを慕ってくれていることは喜ばしいものの、々常軌を逸しているような気がする。

アデラインの記憶を有するセシリアとしては、とても気恥ずかしい。

そして、自分がアデラインの生まれ変わりであることは、黙っておこうと決意する。

もし、信じてもらえても、信じてもらえなくても、どちらでもとんでもないことになりそうだ。

「姉は、世間で言われているような悪ではありませんでした。ある方々の都合によって、歪められてしまったのです。それが誰のせいか、ご存知ですか?」

エルヴィスの聲には、隠しきれない憎悪がにじんでいた。

やはりセシリアのことは、仇の娘として認識しているのだろう。

「王太子ローガンと、元男爵令嬢ヘレナのせいですわね」

しかし、セシリアが即答すると、エルヴィスが訝しげな顔になる。

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元兇のことを知っていたことだけではなく、それが自分の両親でありながら、とても他人行儀な呼び方をしたためだろう。

「婚約破棄などという醜態を談に変えるため、悪役が必要だったということですわね。彼らの言う真実のとやらが、いかに軽く、表面だけを取り繕った中のない言葉であることか」

セシリアの聲にも苛立ちが混ざった。

ますます、エルヴィスの顔があっけにとられたものになっていく。

「……あなたは、その二人のご息ですよね?」

「あいにく、親らしいことをしてもらった記憶はございませんわ。このに流れるは忌々しくも、その二人からけ継いだものにはなりますが」

確認してくるエルヴィスに対し、セシリアは不快もあらわに答える。

すると、エルヴィスは何かを考え込むような素振りを見せた。

「あなたが私を訪ねてきたご用件は、その二人に関わることですか?」

ややあって、エルヴィスは探るように尋ねてきた。

「はい、そのとおりです。私はあの二人の罪を暴き、償わせたいのです」

セシリアはエルヴィスを正面から見つめながら、はっきりと答える。

婉曲な言いを避けた、率直な言葉だ。

エルヴィスは興味深そうな顔をして、セシリアを見つめ返した。

「親への反抗に協力してほしいということですか? あなたのことを顧みない両親に、自分を見てしいという意思表示をしたいのですか?」

「いいえ、正しい裁きをけさせたいのです。公爵令嬢を殺害した疑いについて、はっきりさせたいのです」

きっぱりとセシリアが言い切ると、余裕を浮かべていたエルヴィスの表が変わる。

公爵令嬢とは、アデラインのことだ。敬する姉の話を持ち出されたエルヴィスは、真剣な眼差しをセシリアに向けてきた。

「……その件については、自ら命を絶ったとされています」

エルヴィスは言葉を吐き出すと、苦しそうにセシリアからわずかに視線をそらす。

「本當にそう思っておいでですか? 何の疑いも、恨みもないと?」

だが、セシリアはそこに畳みかける。

すると、エルヴィスはを引き結んで思案しているようだった。

「……事実がどうであろうと、すでに過去のことだと割り切っています」

「この部屋を見て、そのお言葉を信じられるとお思いですか? 姉君に向かって、そうおっしゃることができますか?」

壁を指しながらのセシリアの問いに、エルヴィスは答えなかった。

を寄せて、沈黙するだけだ。

「私は公爵令嬢のけた仕打ちを思うと、怒りと悲しみに包まれます。あの王太子をい慕い、嫉妬のあまり道を踏み外したなど、ありえないでしょう。王太子に、そこまで殿方としての魅力がありますか。それほど見る目がない、愚か者と言っているようなもの。こんな侮辱、公爵令嬢も浮かばれませんわ」

セシリアが思いの丈をまくし立てると、エルヴィスは一瞬ぽかんとした顔をしたが、徐々に苦い笑みが浮かび上がってきた。

「……面白いですね」

やがて、エルヴィスはぼそりと呟いた。

「何故そこまで知っているのか不思議ですが……スタンの名すら知っていたくらいです。よほど調べたのでしょう。噂とは違う方のようだ」

獨りごちるエルヴィスに、セシリアはし気まずい思いがわきあがってくる。

何やら勘違いしているようだが、あえて訂正することもないと、黙っておく。

「あなたは、私の王家への忠誠心を試しているわけではなく、むしろあなた自が牙を剝くということですか。その共犯者になれと?」

「はい、そうです。必要なら、判狀でも作いたしましょう」

「……正直に申し上げましょう。私にとって、その申し出は魅力的といえます。ですが、王であるあなたが、王太子に対する反逆ともいえる、そのような危険を冒す理由は何故ですか?」

「それは……時間がないのです。王太子が後ろ盾を得るため、私は隣國の好王に十三番目の側妃として送り込まれそうになっていて、學園も辭めさせられそうなのです。本當はもうし時間をかけたかったのですけれど……」

セシリアは、自分の現狀を説明する。

後ろ盾を得ることができれば、この狀況を回避できるのだ、と。

「なるほど……よりにもよって隣國の好王……あなたはあなたで人生がかかっているということですか。それで、私に後ろ盾になれと……よいでしょう。互いに同じ相手に恨みを持つ者同士、協力することにしましょう」

エルヴィスが頷いてくれたことに、セシリアはで下ろす。

これで、好王の十三番目の側妃にはならずにすみそうだ。

「では、王太子にあなたへの婚約を申し出ましょう。好王の話を進めないためにも、すぐ婚約誓約書に署名してしまったほうがよい」

ところが、続くエルヴィスの言葉で、セシリアは不意打ちをくらったような衝撃をける。

後ろ盾になってもらうことは考えていたが、かつての義弟ということもあって、結婚に関することなど頭から除外していたのだ。

「こ……婚約……?」

「當然、そのおつもりだと思いましたが……違いましたか? しかし、それ以外で私が後ろ盾になると言っても、不自然ですよ」

「確かに、それは……」

エルヴィスの言い分は、もっともだ。

むしろ、婚約のことに思い至らなかったセシリアのほうが、考え無しといえるだろう。

前世の記憶に、かなり引きずられていたようだ。

「私ではお気に召しませんか?」

これまで見せていた儀禮的な微笑みではなく、からかうような笑みをに乗せて、エルヴィスは囁いてくる。

それが余裕ある大人の男に見えて、セシリアの頭は混してしまう。

どうしてもかつての義弟のことが頭にあり、い男の子の姿を重ねてしまうのだが、今はもう違うと突きつけられているようだ。

「い……いえ……よろしくお願いいたします」

顔に熱が集まるのをじながら、セシリアはぼそぼそと答える。

背徳的な気分がわきあがってきたが、前世でも義弟と言いつつ、縁的にはいとこだったのだし、今は赤の他人なのだから問題はない。

それに、これは契約婚約だ。目的を果たせば、円満に婚約を解消すればよい。

セシリアはそう己に言い聞かせ、心を落ち著かせようとした。

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