《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》21.演技ではない

セシリアとエルヴィスの婚約披パーティーが開かれることとなった。

場所はローズブレイド公爵邸で、準備も全てローズブレイド公爵家が行う。

セシリアには王都で人気の仕立屋による、淡い薔薇のドレスが用意された。幾重にもフリルを重ねた、豪華で華やかなドレスだ。

通常ならば半年以上の順番待ちだそうだが、採寸から出來上がりまで、あっという間だった。ローズブレイド公爵家の力によるものだろう。

さらに、鮮やかな紅玉の首飾りがエルヴィスから贈られた。

小さな國くらい買えそうな高価な首飾りは、かつてアデラインの母がに著けていたである。そのことを、セシリアはアデラインの記憶により知っていた。

それは、ローズブレイド公爵夫人に代々伝わる首飾りだ。

いわば前世の母の形見でもあり、セシリアは慨深さに包まれる。

「なんてしい……」

パーティー當日、準備を終えたセシリアを迎えに來たエルヴィスは、目を細めてそう呟いた。

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「咲き誇る薔薇の妖が舞い降りたかのようです。ローズブレイド公爵夫人の首飾りがよく似合っておいでだ。このような優雅で可憐な姫の隣に、婚約者として並び立つことができる私は、幸せ者です」

エルヴィスはセシリアの前に跪くと、手をすくいあげてそっとを落とす。

これまで、こういった扱いをけたことのないセシリアは、戸う。

前世のアデラインも、敬を示す行為として手の甲に口づけをけたことはあったが、を囁かれたことなどなかった。王太子の婚約者であるアデラインにを囁く者などいなかったし、婚約者はそのようなことをする相手ではなかったのだ。

この場にはローズブレイド家の侍もいるので、一目惚れした男にふさわしい演技をしているのだとわかっていても、セシリアはの鼓が早くなるのをじてしまう。

「そ……その……あなたも、よくお似合いで素敵ですわ」

目を見返すことができず、わずかに視線をそらしながら、セシリアはぼそぼそと呟く。

白い禮服を纏ったエルヴィスは、微笑んで立ち上がると、侍たちに退出を促した。

たちが去っていき、部屋にエルヴィスと二人きりになると、セシリアはしだけ息をつく。

周囲に誰もいなくなれば、演技の必要はなくなるはずだ。

毎日花を贈ると言ったエルヴィスはその言葉を忠実に守り、今も毎朝花が屆く。

周囲へのアピールだと理解しているが、本當に人としてされているような気分になってしまうのだ。

自分の立場は協力者であり、この扱いは目的を果たすための演技なのだと、セシリアは己に言い聞かせていた。

「最近は準備で忙しく、二人きりで會う機會などなかなかありませんでしたからね。パーティーが始まるまでのわずかの間ですが、こうしてお會いできて嬉しいですよ、セシリア」

しかし、エルヴィスはセシリアの心をかきすように、優しく語りかけてくる。

流されてはいけないと、セシリアは気を引き締める。

「……私も、お會いできて嬉しいです。でも、今は誰もいないのですから、人のような演技はしなくても問題ありませんわ」

「おや、演技だなどと。全て、私の本心ですよ。これから、この薔薇の妖のようなしい姫が私の婚約者だと見せびらかすのが、楽しみでなりません。皆があなたに見とれ、私のことを羨むでしょう」

失禮にならない程度に突き放したつもりのセシリアだったが、エルヴィスはまったく聞きれようとはしない。

しかも、エルヴィスのことを羨むと言っているが、むしろそれは逆だろうとセシリアは思う。

セシリアなど、確かに多見栄えはするかもしれないが、それだけだ。他には何も持たず、貌から地位に財産まで全てを兼ね備えたエルヴィスとは違う。

「會場の者たちは、あなたをまるで人形のようにしい姫と思うでしょう。ですが、私はあなたが人形ではないことを知っています。聡明なだけではなく、立ち向かう勇敢さと行力を持ち合わせていることなど、會場の者たちは想像もできないでしょう。私だけが知っている、あなたの姿だ」

ところが、セシリアの憂いを見抜いたかのように、エルヴィスは続ける。

外面だけではなく、面のことにまでれられ、セシリアは顔に熱が集まるのをじながら、どうしてよいかわからずに顔を伏せた。

どこまでが本心で、どこまでからかっているのかが、わからない。

「あ……あの……それよりも、何か進展はあったでしょうか……?」

セシリアは、無理やり話を変えようとする。

すると、エルヴィスが軽やかな笑い聲を立てた。

「私の妖は、ずいぶんと恥ずかしがり屋のようだ。でも、あまり時間もないことですし、お話ししましょう。大きな進展はありません。ただ、ハワード家について気になることが々」

「ハワード家についてですか」

第二王子妃マリエッタと、今は亡き王太后の出であるハワード家について、何かがあったのかと、セシリアは続きを待つ。

「はい。ハワード家も、我がローズブレイド家と同じく、建國當初からの名家です。しかし、爵位こそローズブレイドのほうが上ですが、もともと國の中樞に関わっていたのは、ハワード家だったようです」

「そうなのですか? 確か、ローズブレイド家は建國王の弟が興した家でしたわね。ハワード家は建國王の家臣だったと記憶しておりますが……」

「そう、筋でいえば王に連なるのがローズブレイドです。ですが、建國王に最も側近く寄り添い、信頼が厚かったのがハワード家の初代當主だったそうです。それで、王家に伝わる法の一部も伝わっているという話がありました」

「王家の法が……」

この國は神の加護によって守られており、それが王家に法として伝わっている。

前世のアデラインが懺悔の塔に押し込められたのも、この法をらしたと疑われたからだ。

もっとも、王家の法は王族の人男子にのみ伝えられるもので、妃にも一部が伝えられるというが、アデラインは條件に當てはまっていなかった。

なので、アデラインが法をらしたというのは、まったくのでたらめである。

「実は、ローズブレイド家にも法の一部が伝わっています。ただ、法そのものではなく、法についての知識です。おそらく、ハワード家に伝わるのも、法についての知識ではないかと思いますが、これは想像でしかありません」

「ローズブレイド家にも……」

前世のアデラインも、ローズブレイド家に伝わる知識のことは知らなかった。

一般の人よりは詳しかったが、その気になれば書で得られる程度のものだ。

おそらく、當主にのみ伝わるといった類のものだろう。

「姉は、王家の法を外部にらしたことを疑われたと聞きます。しかし、姉はらすようなを知らないということで、その疑いは晴れました。ただ、ハワード家を調べて法の話が出てきたとき、何かが引っかかるような気がしたのです」

「確かに、何かが引っかかりますね……」

「今のところは、この程度です。引き続き、調べてみることにします」

セシリアもがざわつくような覚がわき上がってきたが、この話はここまでのようだ。

今はどうすることもできないので、待つしかないだろう。

「さて、今日は本當の目的を気取られることなく、王族とも會話をわせる良い機會です。怪しまれない程度に、探っていきましょう」

そして、エルヴィスは本日一番の目的を口にした。

婚約披パーティーは、國王夫妻や第二王子一家にも招待狀を出している。

普段、セシリアから接しようとすれば、いったい何事だと怪しまれてしまうだろうが、今日は違う。

これからが本番なのだと、セシリアはエルヴィスに対して頷いた。

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