《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》42.戦いの始まり
とうとう、ローズブレイド公爵領を後にする日がきた。
「セシリアさまがお戻りになる日を、我ら一同一日千秋の思いでお待ちしております。咲き誇る薔薇が、いっそう輝きますことをお祈り申し上げます」
使用人たちを代表して、家令のトレヴァーがセシリアに挨拶を述べる。
また來る日をではなく、戻る日を待っているという言葉に、セシリアはここが帰る場所なのだと、心に染み渡っていく。
寂しそうな顔をした使用人たちに見送られ、セシリアとエルヴィスは馬車に乗る。
護衛として同行する騎士たちは誇らしげだが、居殘り組は悔しそうだった。
セシリアは早朝訓練で騎士たちに會ってから數日後、彼らがきっちり整列した狀態で紹介されることとなった。
訓練場で見たときのような自然な姿ではなく、禮儀正しく、模範的な騎士たちから挨拶され、セシリアはしだけ寂しくじたものだ。
だが、いくらエルヴィスが騎士たちと砕けた付き合いをしているとはいっても、彼らの世界にずかずかと踏み込むわけにはいかない。
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わきまえて、セシリアは控えめながらも気取らずに接したところ、奧方さまのことを一生お守りしますと、次々と忠誠を誓われてしまった。
まだ奧方ではないのだがと思いつつ、セシリアはありがたく忠誠をけ取った。
「すっかり人気者ですね。騎士たちの間では、誰が護衛として同行するかで、かなりめたようですよ。使用人たちも、いつも私が去るときはほっとしたような様子なのに、今回のように寂しそうなのは初めて見ました」
馬車の中で、エルヴィスがいたずらっぽい笑みを浮かべながら、口を開く。
「みなさん、本當に良くしてくれて……ありがたいことですわ。帰る場所があるというのは、とても心が安らぐものですのね」
「ローズブレイドはあなたの故郷ですよ。実のところ、よそ者に何か々言ってやろうくらいの考えを持った者もいました。ですが、まるでローズブレイドで生まれ育ったかのような完璧な振る舞いを見て、何も言えなくなったようですね」
「まあ、そうでしたのね……」
言われてみれば、滯在中にローズブレイド家の親族にあたる者たちと會った際、値踏みするような視線をじたことはあった。
だが、セシリアはローズブレイド家にとっては因縁ある相手の娘であり、それが未來の公爵夫人になるのであれば當然だろうと、気にすることもなかったのだ。
むしろ、使用人たちに歓迎されたことのほうが、セシリアにとっては不思議なくらいである。
品定めされていたことに関しては、とりたてて思うところもない。
しかし、久しぶりにアデラインのことを匂わせるような言いに、セシリアはわずかな焦りを覚える。
アデラインの記憶を持っていることを話すかどうか迷っていたセシリアだが、結局のところ、何も言っていない。
おそらくエルヴィスは何かを勘付いているのだろうが、そのことも恐ろしくて尋ねることができずにいる。
エルヴィスは、セシリアのことをしていると言ってくれた。
だが、アデラインの生まれ変わりであることに気付かれていて、セシリアの中にいるアデラインのことをしているのだとしたら、素直に喜べない。
セシリアはアデラインの記憶を持っているとはいえ、そのものではないのだ。
このことを確かめるのが怖くて、セシリアはアデラインの記憶を持っていることも黙ったままだった。
「……帰る場所があるからこそ、立ち向かうだけの勇気をもらえますわね。これからのことをしてこそ、穏やかに過ごせるのですもの」
セシリアは己の心をごまかすように、話を変える。
ローズブレイド領で穏やかに過ごしながら、エルヴィスとの未來に思いを馳せていたが、それは全てが終わってからのことだ。
今はアデラインのことやについて悩んでいる場合ではない。
王都に戻れば戦いが始まるのだと、セシリアは気を引き締める。
「そうですね。あなたとの未來のために、まずはやるべきことをやってしまいましょう」
エルヴィスも同意して、二人は頷き合った。
やがて馬車は王都にたどり著いた。
すると、咲き誇る薔薇の紋章を見た警備兵たちが近寄ってくる。それも靜かに取り囲まれて、護衛の騎士たちがめき立つ。
「ローズブレイド公爵閣下でございますね。國王陛下からの命令書でございます。すみやかに王城にまかり越すようにとのお達しでございます」
國王からの命令書を持った警備兵が、事務的に述べる。
「ずいぶんと急な話だね。我々は、今王都に著いたばかりだ。せめて、著替えてからにさせてもらいたい」
「それはなりません。すみやかにとのことでございます。我々も同行いたします」
威圧的なエルヴィスの聲だったが、警備兵は一歩も引かない。
「お斷りしたら?」
「その場合は、公爵閣下と王殿下を反逆者として捕らえろと命じられております」
反逆者という不穏な言葉が出てきたことに、セシリアは唖然とする。
だが、エルヴィスは落ち著いた態度を崩さない。
「それは穏やかではないね。わかった、行こうか」
エルヴィスが頷くと、警備兵は離れていった。
し距離を取りながら、警備兵たちは取り囲んだ狀態を崩さない。端から見れば、とても強固に護衛しているようだろう。
「……突破いたしますか?」
馬車の橫に馬を寄せてきた騎士の一人が、窓から聲をかけてくる。
「いや、やめておこう。あれらはただの警備兵ではないだろう。それに、ここで反逆者になっては、相手の思うつぼだ。だが、先手を打たれたのは間違いない。今のうちに、ローズブレイドに想定の最悪だと伝えておけ」
エルヴィスが命じると騎士は頷き、すっと離れていく。
「エルヴィス……」
不安に苛まれながら、セシリアはエルヴィスを見つめる。
すると、エルヴィスは揺した素振りもなく、安心させるようにセシリアに向かって微笑んだ。
「おそらく、國王が王太子と同じような焦燥に駆られたのでしょう。あなたに王位を奪われるのではないか、と」
「そんな……」
王位にしがみついていた國王だが、そこまできたのかとセシリアは恐怖を覚える。
「王太子のように簡単にはいかないでしょうが、説得するしかありません。あなたは王太子のときと同じく、よくわからず戸っているように振る舞ってください」
「はい……」
膝の上の拳をぎゅっと握り、セシリアは頷く。
王都に著いた途端に、戦いは始まったようだ。
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