《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》48.開かれた扉
エルヴィスは抵抗することなく、懺悔の塔に連行された。
々時代遅れなものの、上等な調度品の用意された、それなりに立派な部屋だ。
最上階であることから、かつてアデラインも押し込められた因縁の部屋だろう。
周囲を見回すと、エルヴィスは大きくため息を吐き出す。
いずれ起こり得るかもしれないと思っていたことが、予想よりも早く起きてしまった。
國王や王太子が、これほど早くくとは考えにくい。
背後に誰かがいるのは間違いないだろう。
「やはり、あのクズ野郎か……」
王太子ローガンがせっかくの後ろ盾を自分から手放すなど、おかしな話だ。
つまり、それ以上の後ろ盾を得たということだろう。
心當たりのある相手など、一人しかいない。隣國の好王ケヴィンだ。
しかも、嬉々としてエルヴィスを放り出したあたり、後ろ盾となるのはケヴィンだけではないだろう。
ローガンがしているのは、國外よりも國の後ろ盾だったはずだ。
そちらも、心當たりなど一人だけだ。爵位爭いに敗れ、姿をくらました叔父しか思い浮かばない。
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隣國と関わりのあった叔父が、ケヴィンと手を組むのは十分にあり得る。
叔父がローズブレイド公爵となって後ろ盾となるのであれば、これまでと同じ効果が得られる。さらに隣國王の支援も追加されるとなれば、ローガンにとって利點は大きいだろう。
セシリアの幸福など一切考えもしない、ローガンの勝手だ。
「王太子だけではなく、國王までそそのかされたか……」
ローガンがそそのかされるのは、意外などかけらもない。
だが、國王までもがあっさりケヴィンにられてしまうとは、考えたくなかった。もしかしたらあり得るとは思っていたが、いざ目の當たりにすると、けない。
立て続けに起こる災害と、それに対して何の手も打てていない現狀から、國王の人気は低迷している。
これまで神の加護に頼りきりだったため、災害への対策という考えがないのだ。各地への視察は行っているものの、ただの見にしかなっていない。
だが、隣國の技があれは災害への対策を行えるはずだ。
それで即位五十周年まで持たせる気だろうか。
「クズ野郎の執念にはぞっとするな」
叔父を擁立し、王太子と國王を利用してエルヴィスを陥れる。
これがセシリアを得るためだけというのなら、凄い執念だ。
おそらくはそれだけではなく、この國を支配下に置こうという野心もあるのだろう。だが、セシリアがいなければここまでのことをしたとは思い難い。
「まあ、セシリアが魅力的なのはそのとおりだから、仕方がないか」
不愉快なケヴィンのことなど、考えるのはいったん終わりにする。
懺悔の塔に押し込められたということは、すぐにどうこうできる証拠が揃っていないということだ。
あるいは、公爵家の當主を処罰できるほどの証拠など、もともと揃えることができないのかもしれない。
そうなれば、この塔でエルヴィスを殺し、己の罪を悔いて命を絶ったということにされるのだろうか。
アデラインがそうであったように。
「この窓か……」
かつてアデラインがを投げたとされる窓に、エルヴィスは近づく。
エルヴィスのの高さほどにある窓は、アデラインだと顔のあたりだっただろうか。
鍛えているエルヴィスならば簡単に乗り越えられるが、アデラインが一人でよじ登れるとは思えない。まして、アデラインはドレスを纏っていたはずだ。下に踏み臺でもなければ無理だろう。
當時の調査がどれだけ杜撰だったかがわかる。王家にとって都合よく隠蔽されたのだろう。
エルヴィスは悔しさに、奧歯を噛みしめる。
「……今はそれよりも」
を押し殺し、エルヴィスは窓から下を眺める。
さすが最上階だけあって、かつてアデラインのを吸った地面までは遠い。落ちれば、ひとたまりもないだろう。
だが、鍛えた者をこの部屋にれたことがないのかもしれない。
エルヴィスならば、寢臺のシーツを裂いてロープを作り、下りられるだろう。
問題は、下には見張りがいることだ。下りている最中に気付かれては、失敗してしまう。
「……見張りの代時間を狙うか……いや……」
好王がセシリアを狙っているのだ。エルヴィスは早く出したいと気が焦る。
だが、今エルヴィスが単で出したところで、次の手が難しい。
こうも早く事がくとは思わなかったが、それなりの手は打ってある。それを信じて待つことが最善だと頭ではわかっているが、心は早くセシリアの元に駆け付けたい。
「お食事をお持ちいたしました」
エルヴィスが葛藤していると、差しれ用の小窓から、盆に乗ったパンとスープがれられた。
隨分と簡素な食事だ。パンは歪な形で、スープは冷めきっている。
もっとも、毒りを疑うエルヴィスは食べる気もない。
だが、パンに違和を覚えて手に取ってみる。すると、一部引き裂いたような跡があり、その中を調べると小さな紙切れが見つかった。
「……待て、か」
紙に書かれた文字を見て、エルヴィスは苦笑する。
まるで自分の勇み足を咎められたようだ。
いささか決まりの悪さをじるが、打った手が有効にいているということは、喜ぶべきだろう。
大きく息を吐き出して、エルヴィスはソファに腰掛ける。
「……待つというのも、つらいものだな」
エルヴィスは、ふと十七年前のことを思い出す。
一緒に本を読もうと約束した姉がなかなか帰ってこなくて、エルヴィスは部屋の片隅でじっと本を抱えて待っていたのだ。
だが、姉は二度と帰ってくることがなかった。
もう二度とあのような思いはしたくない。セシリアにも、同じような思いはさせたくない。
セシリアを迎えに行くためにも、今はしでも力を回復しておくべきだろう。
完全に警戒を緩めることはせず、エルヴィスはソファに座ったまま目を閉じる。何かの気配があればすぐにけるようにした狀態だ。
だが、エルヴィスの命を狙うような者が現れることもなく、夜は更けていく。
外からは時々微かに音が聞こえてくるが、見張りがいたり代したりしているのだろう。
ところが空が明るくなってきた頃から、外の音が途絶えた。
何かがあったのかと思っていると、しばらくして馬の鳴き聲が響く。そして、塔の階段を上る足音が聞こえてきた。
エルヴィスはソファから立ち上がり、扉の橫にを潛めて警戒する。
やがて足音は扉の前までやってきた。
「やあ、ローズブレイド公爵。部屋の居心地はいかがかな」
その聲を聞き、エルヴィスはし力を抜く。
だが、まだ安心できる狀況ではない。
「……最悪ですね」
「それはそうだろう。これで最高だと本気で言われたら、正気を疑うね」
世迷言のようなことを言いながらも、聲の主が鍵を回す音が響く。
「今回の件に関しては妻も、國のために國王を王位から引きずり下ろすべきと、意見が一致したよ。予想よりも事が早く進みすぎて忙しいんだ。早く行こうか」
扉が開き、その先には第二王子ジェームズが立っていた。
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