《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》53.ヘレナの獻

前を進んでいた護衛たちが、敵と戦中だという。

もしやエルヴィスだろうかと、セシリアは期待を抱く。

「ろくな裝備のない、みすぼらしい盜賊たちです。ほどなく鎮圧できるでしょう」

だが護衛は、馬車から顔を出したケヴィンに向け、そう言った。

エルヴィスが率いているローズブレイド騎士団は、みすぼらしい裝備ではないだろう。ローズブレイド領を出立するときも、立派な剣や鎧をに著けていた。

どうやら違うようだと、セシリアはがっかりする。

「我が國の護衛たちは手練ればかりなので、盜賊ごときに遅れは取りません。ご安心ください」

セシリアの曇り顔を怯えているとけ取ったのか、ケヴィンは安心させるように微笑みかけてきた。

しかし、なかなか戦いの音が止まず、苦戦しているような雰囲気が伝わってくる。

護衛の數はそう多くなかったはずだ。盜賊の數が多くて、手が回らないのかもしれない。

そうなると、エルヴィスではなくて殘念だったなどという、悠長なことは言っていられない。の危険が迫っているのだと突きつけられ、セシリアは恐ろしくなってくる。

Advertisement

「馬の気が立って、こちらは危険です! 馬車から降りて移してください!」

の一人が、相を変えて駆け込んできた。

そこまでの狀態になっているのかと、セシリアは焦る。

だが、本當に馬車を離れたほうがよいのか、それとも留まっているほうが安全なのか、迷う。

「じょ……冗談じゃないわ! そんなことを言って、お前が……」

ヘレナが何かをびかけるが、その聲を打ち消すほどの大音響が上がった。

怒聲と悲鳴が一帯を覆いつくし、さらに地鳴りのような音が響き始める。

「こ……これは、確かに移したほうがよさそうだ。行きましょう」

ややうろたえながらも、ケヴィンは馬車から先に降りると、セシリアに向かって手を差し出す。

文句や嫌味など言っている場合ではなく、セシリアは差し出された手を取り、馬車から降りようとする。

「……っ!?」

ところが、控えていた侍が素早く地面を蹴り、セシリアに突進してきた。

ケヴィンもとっさに反応できず、唖然としたままだ。

が手にるものを持って迫ってくるのを、セシリアは呆然と眺めるしかなかった。

「セシリア!」

そのとき、馬車の中からセシリアは突き飛ばされた。

ヘレナが全當たりしてきたのだ。やせ細った姿からは想像もつかないほど、力強かった。

「うっ……」

セシリアはケヴィンを下敷きにして、馬車の外に倒れる。彼がクッションとなったため、怪我をするようなことはなかった。

慌ててセシリアはを起こし、馬車を振り返る。

すると、侍が手にした刃がヘレナのに突き刺さっていて、淡いピンクのドレスを赤く染めていくのが見えた。

「なっ……」

目の前の景が信じられず、セシリアは愕然とする。

まるで時が止まったかのように、全ての音が遠ざかり、目の前が白くなっていく。

「逃げなさい!」

そこにヘレナの鋭い聲が飛び、セシリアは我に返る。

どうして、という疑問が頭に浮かぶ。

「早く!」

ヘレナは侍にしがみつき、きを止めようとしながらぶ。

セシリアは立ち上がり、駆け出した。考えるのは、後だ。

未だ地面に倒れたままのケヴィンの橫をすり抜け、森に向かって走る。

何か考えがあったわけではない。木の多い場所なら隠れられそうという、無意識の行だ。

だが、ドレスがきにくく、足がもつれる。かかとの高い靴では、走ることもままならない。

セシリアは靴をぎ捨て、再び駆け出す。足の痛みも気にならないほど、心が焦る。

木々の中にり、セシリアは奧へ奧へと進む。

木の幹や枝にドレスが引っかかり、あちこちが破れていく。しかし、必死なセシリアはそのことに気付かない。

やがて、ドレスの裾が木に引っかかって、セシリアは転んでしまう。

それでもすぐに起き上がり、再び立とうとする。

「あ……」

しかし、顔を上げたセシリアの目の前には、いつの間にか追い付いた侍が立っていた。

手には、にまみれたナイフを持っている。

愕然とするセシリアは、目の前の侍が馬車酔いに強い侍であることに気付く。

これまでヘレナが彼をセシリアから遠ざけようとしていたのは、まさか正を見抜いていたからなのだろうか。

いつからヘレナは正気に戻っていたのだろうか。

取り留めもないことが、一瞬のうちに次から次へとセシリアの頭に浮かぶ。

そうしているうちに、侍がナイフをセシリアに向ける。

せっかくヘレナが逃がしてくれたのに、ここで終わるわけにはいかない。セシリアはとっさに地面の土をつかみ、侍に向かって投げつけた。

「くっ……」

が怯んだ隙を狙い、セシリアは立ち上がって走り出す。

何も考える余裕などない。いつか再び追い付かれることには気付いていた。そのときを一秒でも遅らせるためなのか、自分でもわからないまま、セシリアは全力で駆ける。

それでも、やがてそのときはやってくる。

地面から盛り上がった木のにつまずき、セシリアは再び転ぶ。

今度は勢を立て直すこともできないまま、侍が目前に迫っていた。まみれのナイフが、振り下ろされようとする。

ここで終わりなのかと、悔しさに苛まれながら、セシリアはぎゅっと目をつぶる。

しかし、いつまで経っても衝撃はこない。

おそるおそるセシリアが目を開けると、侍がうつぶせに倒れるところだった。その背中に、短剣が突き刺さっている。

「セシリア!」

そして、ずっと聞きたかった聲が響く。

駆け寄ってくるエルヴィスの姿を見て、これは夢ではないかと、セシリアは信じられなかった。

    人が読んでいる<【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください