《【書籍化進行中】斷罪された悪役令嬢は、元兇の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く》59.マリエッタの告白

「お待ちしておりました。よくぞ、生きてお戻りくださいました」

微笑みを浮かべながら、マリエッタは口を開く。

その言葉に、セシリアは混する。マリエッタはセシリアを殺そうとしたはずだ。それなのにどういうことか理解できず、いっとき激が引いていく。

「……侍を使い、私を殺そうとしたのはあなたですね?」

「はい。さらに申せば、國境で賊を仕掛けたのも私です。そこを最後の砦として用意しておりました」

セシリアの問いかけに対し、マリエッタはよどみなく答える。

あまりにもあけすけで、セシリアの混は深まっていく。

「……十七年前、ローズブレイド公爵令嬢アデラインを殺したのも、あなたですね?」

「はい。王太后だった大叔母の力を借り、すみやかに危険を排除いたしました」

マリエッタは落ち著き払って答える。

罪悪のかけらもうかがえず、セシリアは背筋が冷たくなっていく。

エルヴィスも揺したようで、足をわずかに踏み出していた。だが、すぐに奧歯を噛みしめながら、足を戻す。

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「何故……そうも、平然としていられるのですか? 罪悪はないのですか? 私はまだしも、公爵令嬢のことはお姉さまと慕っていたはず……それなのに、すみやかに危険を排除などと……」

思わず、セシリアはそう問いかけていた。

直接手を下したわけではないヘレナでさえ、ずっと罪の意識に苛まれていたのだ。それなのに、黒幕本人にそのような様子は一切見當たらない。

「それがハワード家の役割ですから」

じることなく、マリエッタは穏やかに答える。

「ローズブレイド公爵もいらっしゃることですし、全素質の危険についてはご承知なのでしょう。神の加護を維持して國を守るためには、全素質はむしろ邪魔なくらいなのです」

「……だから、始末するのがハワード家の役割だと?」

々、違います。國にいる限りは、何もいたしません。國外に出ようとしたとき、その危険を防ぐのがハワード家の役割なのです。そもそも、かつて王家では全素質の特徴を持った子が生まれると、死産ということにされていたのですよ」

淡々と語るマリエッタに、セシリアはぞっとする。

それは、全素質の特徴を持った子は、生まれた時點で殺していたということだろう。

「あるとき、生まれたばかりの娘を殺された王妃がいました。彼は王が早世して権力を握ると、二度とそのような悲劇が起こらぬよう、知識の管理を王家から移しました。それによって、王家の子は他國に嫁がぬことという決まりを殘し、その習慣は廃れたのです。ところが……」

穏やかだったマリエッタの表に、憎悪がにじんでいく。

「愚かな國王と王太子は、それを古ぼけた決まりだと一笑に付し、あなたを隣國に嫁がせようとしました。かつての王妃の思いを無にするような蠻行を……。私はハワード家の役割に従い、急いで手はずを整えたのです」

かつての王妃は全素質の持ち主を生まれた時點で殺すのではなく、國に留めて生きていけるようにしたようだ。

だが、國外に神の加護が流出してしまっては困る。そのための安全策として、ハワード家に暗殺者のような役割が與えられたのだろう。

そのため、他國の王子からまれたアデラインは殺され、奇しくも同じ相手に見初められたセシリアも、殺されそうになった。

「……私を殺せなかったことが殘念ですか?」

「いいえ、むしろ逆です。刺客を排除し、生きてお戻りくださるとは、まさに神の思し召しです。あなたこそ、神の代理人に違いありません」

マリエッタは陶酔したような眼差しをセシリアに向けてくる。

神の代理人とは、この國における國王の稱號の一つだ。つまり、この言葉は『あなたこそ國王だ』といった意味合いを持つ。

の言葉遣いがこれまでと違うのも、そのためなのだろう。セシリアを王と認めているということだ。

神のお怒りは凄まじく、もはや限定素質の持ち主では言葉をわすことなど葉わず、弾かれてしまうようです」

マリエッタは、床に座り込んでぐったりしているジェームズに視線を移す。

息はあるようだが、口を利ける狀態ではないようだ。もしかしたら、意識がないのかもしれない。

神と対話しようとして弾かれ、消耗してしまったのだろう。

「……それで、全素質の持ち主である私なら、神の怒りを鎮められるからそうしろ、と?」

「はい、そうすれば國は救われます」

何の迷いもなく、マリエッタは答える。

セシリアには、目の前にいるマリエッタが得の知れぬ生きのようにじられ、おぞましい。

には人の心というものがないのだろうか。

あなたを殺そうとしました、でも死ななかったのは神の思し召しなので、私たちのために盡くしなさい。このように言われて、はいわかりましたと従うなど、本気で思っているのだろうか。

「……何故、あなたたちのために、私がそのようなことをしなくてはならないのですか?」

「國のためだからです」

至極當然といったような答えで、セシリアは苛立つ。

「國のためならば何をしても許されると? 國のためなら、を投げ出すのは當然だと?」

「はい、そのとおりです。私の首を差し出せば、あなたが神のお怒りを鎮めてくださるというのであれば、喜んで差し出しましょう」

に任せて放った言葉だったが、マリエッタは一點の曇りもない目でそう返す。

あっけにとられ、セシリアは憤りがしぼんでいく。

代わりに、得の知れぬ気味悪さが這い上がってくる。

「……それなら、公の場でローズブレイド公爵令嬢殺害を認め、王太子と王太子妃が広めた彼の悪評が偽りであると証言できますか?」

「はい。それがおみでしたら、そのとおりにいたします」

考えることもなく、即座にマリエッタは答える。

この場を逃れるための噓ではなく、本気なのだろう。その目はまっすぐで、何の揺らぎも見當たらない。

マリエッタにとって、國は全てに優先されるのだ。あまりにも非人間的で、セシリアは彼こそ國の意思が現化した存在ではないかと思えてくる。

「何でもおっしゃるとおりにいたします。どうか、國をお救いください」

床に額をつけて平伏し懇願するマリエッタを、セシリアは呆然と眺めた。

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