ロイドに案された所と呼ばれる部屋で服をごうとして躊躇った。

直前になって背中の痣や、家族につけられた生傷を思い出し生まれたままの姿になるのは抵抗があったのだ。

（ええい……今更どうってことないでしょう）

最終的にお風呂のに勝てず、クロエはボロボロの服をぎ、浴室へ。

った途端、木の香りがふわりと漂ってきて思わず目を閉じてしまう。

「わ……」

目を開け飛び込んできた景に、クロエは嘆の聲を溢した。

蝋燭のランプによって照らされたその部屋は、今まで見たことのない作りをしていた。

って手前はを洗うスペースらしく、木で出來た桶や何かのった小瓶が並んでいる。

その奧に長方形型の大きな箱が設置されていて、なみなみとお湯が張られていた。

ほかほかと湯気が立っていてとても溫かそうだ。

この時點でわくわくメーターが振り切れてしまうクロエ。

ロイドに習ったお風呂の作法に従って、まずは桶でを洗い流す。

「いつっ……」

まだ治り切っていない傷に湯が染みて痛みが走ったが、じきに溫かいお湯に包まれた気持ち良さが勝った。

シャンプーとか石鹸とか、何やら聞いたことのない概念の説明もされていたので、髪やにつけてみる。

「あいててて……でも、いい匂い……」

やっぱり傷に染みるが、花や果のような甘い香りがして思わず頬が綻ぶ。

ずっと嗅いでいたい匂いだった。

それに、ふわふわと泡立つ新覚も面白い。

なんだろう、うまく言えないが。

がとっても清潔になっていくような気がした。

念りにを洗った後、いよいよ湯船にをれる。

足先からおそるおそる、を浸していく。

「……ほぁ」

気持ちよくて息がれるという現象を、クロエは生まれて初めてした。

全をじわじわと熱い溫度が包んで心地よい。

だけでなく心まで溫かくなっていくよう。

こんな気持ちの良い催しがこの世にあったのかと、クロエは天にも昇る気持ちになった。

天井には窓ガラスが設置されていて、見上げると夜空が見える。

ゆったりとした夜空を眺めていると、不思議と心が穏やかになっていった。

目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきそうになるが、ロイドに『風呂で寢たら風邪をひくから意識はしっかり保っておけ』という忠告を思い出し慌てて頬をつねった。

「痛い……夢じゃない……」

確かめるように呟く。

二週間前、母親に殺されかけて、実家を飛び出して。

野を超え山を超え、山を超え川を越え山を超えて辿り著いた王都。

お金も頼れる者もいない中でこんな待遇をけるとは思っていなくて、自分が今見ているのは死に際の夢なんじゃないかと疑ってしまう。

（……だとしたら）

夜闇に飲まれてしまうかのような、底知れぬ恐怖をじる。

だが、考えたって仕方がない。

現に今、自分は気持ち良いとじているし、傷のところや抓った箇所は痛いとじている。

これは夢ではない、現実。

そう信じるしかなかった。

なんにせよ、溫かい水をこんなにも贅沢に使ってを清める習慣があるなんて……。

「都會って、凄い……」

呟いたその時。

「湯加減は大丈夫か？」

「〜〜〜〜！？」

ざぱんっ！！

突如として所から聞こえてきたロイドの聲に、クロエは盛大に水飛沫をあげてしまう。

「すまない、驚かせてしまったか」

「い、いえ！　大丈夫です！　湯加減はちょうど良きに存じます！」

「なんだその言い回しは。タオル、ここに置いておくぞ」

「はい！　ありがとうございます」

ロイドの足音が遠ざかる。

（ううう〜……恥ずかしい……）

ぶくぶくと、湯に口までってしまうクロエ。

気を抜くとロイドに対して発してしまうこのの高鳴り、溫の上昇。

それはどんな覚の中でも、夢じゃなく確かな現実であることを証明しているように思えた。

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