《【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎のげられ令嬢は王都のエリート騎士に溺される〜》第20話 はじめて

「おかえりなさいませ」

朝言った通り、ロイドは夕方ごろに帰ってきた。

ぱたぱたと玄関までやってきて、クロエは恭しく床に手足と頭を付け迎えの挨拶をする。

そんなクロエを目にして、ロイドはきょとんとした表になる。

「……? どうしたのですか?」

一向にリアクションが無いのを不思議に思って、クロエが首を傾げると。

「いや……なんだそれ?」

「なんだそれって……出迎えの挨拶ですが」

何を當たり前のことを、とばかりに言うクロエに面食らうロイド。

「そんな……仰々しいものなのか?」

「実家ではこれが普通だったのですが……」

「……なるほど」

クロエの言葉に、ロイドは考え込むように顎に手を添えた後。

「別に、床に頭をつけず立ったままでいいし、なんなら出迎えの挨拶も不要だ。貴族の使用人でもあるまいし」

「……良いのですか?」

「逆に何故しなければならんのだ。理解に苦しむ」

「そうですか……では……」

恐る恐る、クロエは立ち上がる。

そして、どこかほっとした。

正直なところ、クロエはこの挨拶の仕方が好きではなかった。

家族の機嫌が悪いと、上から何度も踏みつけられたから。

床に頭をつけなくていい、立ったままでいいというロイドの提案はクロエに安堵をもたらした。

「でも、“おかえり”は言いたいです」

「何故だ?」

「何故って……長い時間會ってなくて帰ってきた人に、無言の方が距離があるみたいで嫌と言いますか」

「……なるほど、そういうものなのか」

「そういうものなのです」

ふむ……と納得したように頷くロイドを見て、クロエは改めて(変わった人だなあ……)と思った。

「しかし……初めての覚だな」

「何がですか?」

まるで、初めての料理を口にしたみたいに。

「家に帰ると、誰かがおかえりと言う……とは、なかなか新鮮な覚だ」

ロイドが言うと、今度はクロエがきょとんとした。

その言葉の意味を噛み砕いたクロエが、にっと笑って問い返す。

「おかえり、にはなんと返すんでしたっけ?」

「……ただいま」

「正解です」

「やけに嬉しそうだな」

「実は私も、こういうやりとりは初めてでして」

家族は、ただいまと言ってくれただろうか。

多分、無い。

無視か、蹴られるか踏まれるかどれかだった。

だから、なんだか嬉しかった。

おかえりに、ちゃんとただいまが返ってきた事が。

「お風呂、りますか?」

リビングに向かうロイドにクロエは尋ねる。

「ああ、そうしようと思う。今から溜めていいか?」

「あ、いえ、すでに溜めてあります。溫度が下がらないように備え付けの蓋をしているので、ちゃんと溫かいかと」

「……気が利くな」

「一宿一飯の禮には全然足りませんよ」

そう言うクロエについていきながら、ふとロイドは思った。

床や壁、機の上などが気のせいか、いつもより綺麗な気が……。

「ロイドさんって、嫌いなものはありましたっけ?」

「不義理と噓と理不盡が嫌いだ」

「あ、すみません。食べの話です」

「……ピーマンはし、苦手かもしれない」

「わかりました、じゃあピーマンは使わないものを作ります……って、嫌いならそもそも家に無いですよね」

「料理もしてくれるのか?」

「はい、そうですけど……迷でしたか?」

「いや、迷ではない……むしろありがたいが……大変ではないか?」

元々料理にこだわりなく、食事は栄養補給くらいにしか見ていないロイドはマッスルポトフでさえ面倒だとじるほど料理に無頓著であった。

たまたま昨日は自宅で剣の素振りとトレーニングをガッツリ行い筋を痛めつけたため、マッスルポトフを作ったに過ぎない。

そんなロイドに、クロエは腕を捲る作をして言う。

「実家では毎日何人分も用意してたので、このくらいお安い用です」

その言葉は、自炊だめだめロイドにとって凄腕のシェフの如き発言に聞こえた。

「凄いな、君は」

思わず、呟く。

心から湧き出た評価だった。

ロイドが他者に心の底から嘆するなど、王直々に仕える近衛騎士団長にして“剣聖”ライウスの剣舞を見た時以來かもしれない。

そんなロイドの言葉にクロエは……。

「……」

「どうした、何を固まっている?」

「……ぁっ、えと、すみません……あの……」

にやけが抑えきれない、と言った風に頬を押さえるクロエ。

「凄い……って言われたの、その、初めてで……嬉しい、と言いますか」

った聲で言った後、恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして。

「そ、それじゃ何か作ってきますね! お風呂、ごゆっくり!」

逃げるようにリビングに引っ込んでいった。

そんなクロエの一連の挙に、ロイドのが突然きゅうっと締まった。

(……なんだ、この覚は)

今まで得たことのないに、ロイドはを押さえ戸いの表を浮かべるのであった。

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