《【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎のげられ令嬢は王都のエリート騎士に溺される〜》第23話 ロイドの提案

「家政婦……ですか?」

「ああ、そうだ」

至極真面目な顔で、ロイドが頷く。

「騎士団の仕事がそれなりに忙しいのと、俺に家事能力が無いのもあって、見ての通り家が荒れがちでな。ちょうど、家政婦を雇おうか迷っていた時期でもあったんだ。埃っぽいのは健康に良くないしな」

「なるほど……」

確かに、王都の第一騎士団となると何かと多忙を極めそうだというのは想像に容易い。

ロイドの家事能力については……昨日今日でお察しである。

「今後、君がどうしたいのか次第ではあるが……行くところが無いのであれば、家政婦としてしばらく家に居るのはどうか、と思ってな」

「行くところは……」

無い。

人生で唯一、自分の味方であったシャーリーは王都にいるであろうが、どこにいるのか聞きそびれており所在はわからない。

わかったとしても、シャーリーはもうアルデンヌ家との関係は無くなっているし、クロエ自家出ののため、むしろ迷をかけてしまうかもしれない。

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「もし君が家政婦を請け負ってくれるのであれば、俺は家事をやって貰って助かるし、君も雨風を凌ぐ事が出來る……という、お互いにとって利益があるのではないかと思う」

お金も頼る人もない今、一つで王都で暮らすとなると、日雇いの仕事を請け負いお金が貯まるまで雨風が凌げる場所を転々とする事になる。

探せば住み込みの仕事も見つかるだろうが、それも確実かはわからない。

なので正直なところ、ロイドの提案はクロエにとって渡りに舟であった。

けど……。

「……私なんかで、いいんですか?」

クロエの低い自己肯定が、そんな問いを口にさせる。

広く人數も多い実家で何年も家事をこなしてきたクロエにとって、一人暮らしの一軒家での家事など朝飯前もいいところだ。

家政婦としては申し分がないどころか、王城に仕える一流の使用人……いや、その何人分ものスキルと能力を持ち合わせているのだが、クロエにはその自覚がない。

(役に立てなかったらどうしよう……もし使えないって捨てられてしまったら……)

マイナスな事ばかりがぐるぐると頭の中を回る。

今まで何度も何度も『使えない』『全くなっていない、やり直し!』と言われ続けてきて慣れっこではあったが……何故か、ロイドにはそう思われたくないと強く思った。

しかし、クロエの能力を見抜けないロイドではなかった。

「君が適任だと思った。俺の帰宅を見越しての風呂の準備に、高いクオリティの料理、そして隅々まで行き屆いた掃除……正直なところ、俺の方からお願いしたいくらいだと思っている」

「そんな……買い被りすぎですよ」

たとえお世辭でも、ロイドの言葉は嬉しいと思った。

ひとりでに口元が緩んでしまう。

(いけないいけない……自分の今後に関わる大事な話し合いなんだから……真面目にしないと……)

クロエは持ち上がりそうになる自分の口角を両手でグニョンと下げた。

「……それはなんの表だ?」

「真面目な表です」

「なるほど、殊勝な心がけだ。話を戻すが、必ずやって貰いたい事は掃除くらいで良い。それ以上の……料理や洗濯、風呂の準備などはなるべくで大丈夫だ。給金もちゃんと出す。一般的な住み込みの家政婦の月給の相場を調べてくるから、詳細の金額はし待っていてくれ。部屋は使っていない一室を自由に使って貰っていいし、食事は自由に作って食べてもらって構わない。明日、金を渡すから、生活に必要なは一通り買ってきてくれ」

「そ、そんな破格な條件でいいのですか……!?」

ぎょっとするクロエに、ロイドは「……普通じゃないのか?」と首を傾げる。

実際、住み込みの使用人としては普通か普通よりもちょっと良い條件ではあったが、実家でオンボロ離れに隔離され毎日ボロ雑巾のように使われていたクロエにとっては、砂漠で行き倒れ直前に突然高級ホテルに連れて行かれたような待遇だった。

「それで、どうだ?」

「えっと……」

條件だけ見れば即決レベルであったが、言葉に詰まっている理由は明白だ。

うまい話すぎて逆に怖くなってきたのだ。

何か裏があるんじゃないか、壯大な謀略にもで引っ掛かるんじゃないか……とか。

今までしょっぱい人生を歩んできたクロエの脳裏に、そんな考えがよぎる。

(でも……)

──ロイドさんって、嫌いなものはありましたっけ?

──不義理と噓と理不盡が嫌いだ。

昨日今日と、ロイドという人間を見てきて確信はあった。

(ロイドさんは、ちょっとズレてて変わっているところはあるけど……は凄く真面目で、誠実で、優しくて……決して人を騙すような人じゃない……)

なら、答えは決まっていた。

ソファの上でちょこんと正座して、クロエは深々と頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく頼む。……その挨拶は、なんだかこっちがむずくなるからやめてくれ」

「はっ、失禮しました」

こうしてクロエは、ロイドの家の家政婦になった。

これからどうなるかわからない、不安なこともあるけど。

とりあえずは、まだロイドのそばにいられる事を嬉しいと思うクロエであった。

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