《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》39.ロノムは思わず拳を握り片手を突き上げた

「アライアンス『シルバー・ゲイル』さん。冒険者ギルドから郵便です」

その時間、シルバー・ゲイルの本部にいたのはロノムだけだった。

他のメンバーも來る予定であったが、まだ顔を見せていない。

ロノムはけ取った郵便を開封する。

容は先日けた「冒険者ランク試験」の結果であった。

「さて、今回試験をけたのは俺とアイリスさん、そしてメルティラさんだけど、どうなっているかな」

冒険者ランク試験は定期的に開催されているが、毎回けなければいけないというわけではない。

ランクは最後に試験をけてから三年間有効であるので、次のランクを狙いたいといった理由がなければ、試験をけるのは三年に一回でよいのである。

しかし今回シルバー・ゲイルのメンバーは験機會ではなかったが、アイリスとメルティラ、そしてロノムは上のランクを狙うために験した。

「メルティラさん……防衛士Aランク……。流石だね、今回の験を勧めておいてよかった」

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「お、おお……アイリスさんも治癒師Aランク昇格か。すごいな……數アライアンスなのにAランク冒険者が二人になってしまった……」

冒険者ランクはギルド員の前での実技も勿論重要であるが、ダンジョン探索の実績も加味される。

ロノム達はアライアンス開業初年度ながら「紫紺(しこん)の寶珠(ほうじゅ)」回収と王様への謁見、ダンジョンの新階層発見、キマイラ討伐と非常に幸運なことが続いていた。

その為ランクを上げるチャンスと見て冒険者ランク試験に挑戦させたのだが、これが大當たりしたようだ。

最後に団長である自分のランクを確認する。

結果は白兵士Cランク、そして支援師Cランク。

白兵士Cランクへの返り咲きである。

ロノムは思わず拳を握り片手を突き上げた。

と、同時に「支援師Cランク」のところに書かれたメモ書きに気付く。

「ん? なんだろう?」

そこを読むと、意外なことが書かれていた。

「貴殿の支援魔法はA相當といえる。しかし、支援師としてB以上の評點を付けるためには攻撃補助及び防衛魔法を修めていなければならず、今回の試験結果においてはCという評価となった。志あるならば至急、攻撃補助及び防衛魔法を取得されたし」

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その文を読んだロノムは小さな聲で詠唱を唱え、知っている防衛魔法をひとつ展開する。

しかしその魔法はロノムの前で小さなを作っただけで、すぐに消えてしまった。

「なんだかなぁ……。勿ないというか、の丈に合った績というか……」

探索や知の魔法以外からきしなのだ、むしろCランクを貰えた事の方が幸運であろう。

そんなことを思いつつ、シルバー・ゲイル本部の掃除をしながらアイリス達が來るのを待つことにした。

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「というわけで、今回はささやかながら、アイリスさんとメルティラさんのランク昇格祝いをさせて頂きたいと思います」

日の落ちかけた夕暮れ時、々な酒のつまみが置かれたシルバー・ゲイル本部の長機の前で、アライアンス団長であるロノムが麥酒のった陶製の容を掲げる。

その言葉に合わせてアイリス、メルティラ、ルシア、そしてゲンさんの四人が、それぞれ飲みった容を掲げた。

「ロッさんもですよ! 昇格おめでとうございまして!!」

アイリスが元気よく返事をする。

「い、いやあ、俺は元のランクに何とか戻っただけだからさ」

と言いつつ嬉しさの隠せないロノムではあった。

「ロノム隊長、アイリスさん、メルティラさん、ランク昇格おめでとうございます! 僕も嬉しいです。皆さんと一緒に冒険できること、誇りに思います!」

「なあルシア、お前もランク試験をけとけば良かったんじゃねえか? Aランクが三人いるパーティとかになったらよ、すげぇことだぜ?」

「い、いえ、僕なんかまだまだですよ。頑張って現狀維持がいっぱいで……」

ゲンさんの言葉に恐しながら、果実ジュースを持ったルシアが答える。

「そんなことはありませんよ。私がAランクに上がれたのも、ルシア様の盡力があっての事です」

メルティラがにこやかにルシアを立てた。

「ところでゲンさんお聞きしますが、Aランクになった事によって何か変わります? 今までどーりでいいのでしょうか」

アイリスが麥酒を飲みながらゲンさんに聞いた。

「そうだなあ……ひょっとしたら、ギルドから何かしらの雑用を押し付けられるかもしれねえな」

「例えばよ、お前達がキマイラを倒した時があっただろ? ああいう手のつけらんねえような奴が出た場合は、Aランク冒険者がいるアライアンスに討伐を依頼したりするんだ。俺も昔は結構んなでっかいのを倒したぜ」

ゲンさんが干しを片手にアイリスに答える。

「なるほどなるほど! そういうのもあるのですなあ」

「あとは、引退後に冒険者ギルドや庁で職員の道とかも開けるから、メルティラさんは読み書きできるようにしておいた方がいいかもね」

ロノムも塩漬けにしたを片手に麥酒を飲みながら、ゲンさんの答えに続いて言った。

「俺も読み書きを教えたはずなんだけどなあ、おっかしいなあ」

「殘念ながら、養父から教えて頂いたのはほとんどが盾の手ほどきでしたよ。あとは、処世くらいでしょうか」

「そうかあ。そりゃあ失敗しちまったなあ」

ゲンさんが頭を掻きながら反省の仕草をした。

「學習や詠唱に読み書きが必要な魔法職とは違って、俺達戦士職はほぼ字を覚える機會がないからね。俺も最初は魔法を使いたかったし調べものとかに必要だから、獨學で何とか覚えたよ。そうだ、今度からは定期的にメルティラさんとルシアさんに読み書きを教える時間を設けようか」

「はい、是非ともご教授ください」

「い、いいんですか? 僕も一緒に勉強させて貰って」

ロノムの言葉にメルティラとルシアが答える。

「ふふーん、私の講義は厳しいですよ! ついてこられますか!」

「が、がんばります……! アイリス先生……!」

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夜は更け照明にしていた蠟燭の燈りも盡きかけた夜半過ぎ、ロノムとゲンさんは窓を開け星明りを眺めながら、二人で酒を飲み続けていた。

アイリス、メルティラ、ルシアの子組三人はそれぞれソファや敷いた布の上に橫になっており、健やかな寢息を立てている。

「で、ロノム、どうよ。アライアンスの団長として、一年近くやってみてよ」

ゲンさんが殘り僅かとなった蒸留酒の盃を揺らしながら、ロノムに聞いた。

「今なら言えますが、最初の頃はあまり後先の事は考えられず、その日その日が暮らしていければそれでいいと思っていました。俺なんて冒険者としては、たかだかBランクにも行けないような腕前ですしね」

「でも、今は違います。正直この一年の出來事は運が強かった……いや、強すぎたと言う気持ちもありますが、それでも運を手繰り寄せるだけの実力と人の助け……それが自分にはあると思っています」

そう言ってロノムは蒸留酒のった陶の容を手に取り、ゲンさんの盃に注ぎながら続ける。

「ゲンさんにはちゃんと宣言しておきますよ。冒険者として……経営者として、シルバー・ゲイルを『頂點』にしていきたいと思います。いつになるか分かりませんけどね」

そして自分の盃にっていた蒸留酒を飲み干した。

「いえ、『頂點』……と言いましたがし語弊がありますね。別にシルバー・ゲイルは冒険者アライアンスの中で最大勢力を目指すわけでも、最大の稼ぎを叩き出したいわけでもありません。アンサスランで最も信頼のおけるアライアンス……と言った方が正しいでしょうか」

「信頼のおける……?」

ゲンさんが盃を持ちながら、ロノムに聞く。

「ええ。ギルドからも冒険者からも……いえ、萬人に頼られるアライアンスです。『何か大事があった時は、シルバー・ゲイルとロノムに頼もう』ってじですかね。自分で言ってて、なんだかふわっとした目標で申し訳ないですけど。言葉にすると難しいですね」

言っている途中で照れ臭くなり、ロノムは頭を掻いた。

「いや、それで充分だ。大目指したいところが分かった。今のお前はよ、現役だった頃の俺よりもよっぽど強いぜ、神的にな。お前にならメルティラ達を預けられる」

ゲンさんがふっと笑いながら、窓の外を見る。

「よしてくださいよ、そんな、いなくなってしまいそうな臺詞……ゲンさんにはまだまだ俺のを叩いて貰わなきゃいけないんですから」

「ははは、大丈夫だ。俺もアンサスランで骨を埋める覚悟はできてる。それによ、フィスケルの野郎に擔がれちまってよ、今はギルドの役員をなんていう面倒くさい仕事を押し付けられちまったからな」

「ええ、頑張ってください。俺なんかでよければ、お手伝いしますよ」

宵も更け語らいながら、二人は尚も気分よく飲み続けた。

そんなロノムとゲンさんであるが、翌日に二人が目を覚ますのはもうすぐ夕方といった時刻である。

アイリスとメルティラからそれぞれきつめのお説教が二人を襲う事となるのを、今はまだまだ知る由もなかった。

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