《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》62.ダンジョン探索(1)―かような練達の治癒師は、我が生涯において出會ったことがない

「確かにダンジョンだが……アンサスランによくあるものとは若干趣が違っているようなじがする……」

ロノムが探索魔法を展開しながらそう呟く。

ダンジョンの中は舊文明の面影はあるものの巖が剝き出し、自然の窟に近い景が広がっていた。

「本當にダンジョンなのでしょうか? ただの窟に近いような……」

「でも、一応舊文明っぽいところは見られるのですよねぇ。何とも不思議なじです」

ルシアが大きく広がるダンジョンの部を見渡しながら言い、アイリスは巖の間に僅かに見える金屬とも石ともつかない壁を手でなぞりながら呟いた。

「むう。ここに來る前に潛ったダンジョンとは何かが違うという事かね?」

「はい。先般のダンジョンはアンサスランでよく見られるダンジョンと似たような構造や外壁でした。しかし、このダンジョンは何か雰囲気が違っているように思います」

王都冒険者ギルドの目付け役であり半ば無理矢理ここに來させられたシルヴィルの疑問に対して、メルティラが答える。

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「……見つけた。し奧の部屋に特大サイズの魔の反応がある。行ってみよう」

他の四人がダンジョンを観察している間に、ロノムは探索魔法の展開と索敵を終えた。

リーダーのロノムを先頭に、一行はダンジョンの奧へと歩を進めていく事にした。

*****************************

「次の部屋だ、気を引き締めよう」

「一気に突撃なさいますか」

「いや、一呼吸置こう。相手に戦闘意思があるようならば応戦する」

「承知いたしました」

先頭を行くロノムとメルティラが大広間に到達すると、そこにいたのはロノム達が追っていた黃金のドラゴンではなく、漆黒のドラゴンであった。

小さき者達がその部屋に突したことに気付くと、漆黒のドラゴンは巨そのままの居丈高な姿勢で、ロノム達を見下ろす。

『……人か? 何故この場所におる』

そしてドラゴンは空気の振ではない頭に直接響くような方法で、ロノム達に対して語った。

「意思疎通ができるのか!? それに……あんたはあの時ダンジョンにいた……! 俺達は黃金のドラゴンを追ってここにきた。お前達ドラゴンと話がしたい!」

ロノムが漆黒のドラゴンに向かってぶ。

しかし、そのドラゴンの返答は人間で言うところの嘆息であった。

『あの若造め……人如きに後をつけられおって……』

獨り言のような言葉を呟くと、ロノム達に向き直り威嚇するように続ける。

『我は汝ら人と話すことなど何一つ存せぬ。我と汝ら人間は決して相容れぬ仇敵同士であることのみ、伝えておく』

その言葉と同時に漆黒のドラゴンは息を吸い込み大きく咆哮した。

「!」

警戒するロノム達。

そして黒き巨竜の咆哮と共に、奧へと向かう通路からの濃い小型のドラゴン達が何匹も現れた。

『今この場にて、こやつら等紛い共によって腸(はらわた)を食われ果てるがよい』

そう言い殘すと漆黒のドラゴンはその飛を広げ、ダンジョンの奧へと飛んで行く。

殘されたロノム達はドラゴンの群れと対峙することとなった。

「く……! ようやく言葉の通じるドラゴンに出會えたと言うのに……! みんな! 戦闘態勢を!!」

ロノムのびと同時にアイリス、メルティラ、そしてルシアの三人が構える。

「私が相手です!」

そしてまずメルティラがドラゴンの集団に駆け込み、前線を作り上げた。

「メルティラさん! 援護します!」

そしてメルティラが集めているドラゴンの數に向かってルシアが発砲する。

「砂漠(さばく)の風(かぜ)は行(ゆ)く手(て)を阻(はば)む。ゆらゆら揺(ゆ)らめく炎(かげろう)は、あらゆる旅人(たびびと)を拒絶(きょぜつ)する。展開(てんかい)せよ……! フレイム・ウォール!」

ドラゴン達の息はどうやら炎よりも吹雪の方が得意なようである。

それを即座に見切ったアイリスはメルティラに対して炎の防魔法を展開した。

「わ……吾輩も何か……何か……!」

一気に戦へと突した大部屋の中で、シルヴィルも昔手習い程度に使った事のある破壊を詠唱しドラゴンにぶつけるが、しかし無傷。

それどころかドラゴンの怒りを買い數匹が向かってきてしまった。

「や……やめろ……! 來るな! すまんかった吾輩が悪かったぁぁぁ!」

「シルヴィルさん!!」

シルヴィルの前に走ってきたロノムが立ち塞がりドラゴンの進軍を食い止める。

しかし、ドラゴン達の爪と牙、そしてブレス攻撃の猛攻を凌ぎ切れず、ロノムのみならずシルヴィルも深手を負ってしまった。

「く……、メルティラさんのようにはいかないか……!」

「ロッさん! シルヴィルさんを守りながら戦っててください! 草木(そうもく)に浮(う)かぶ朝(あさ)の白(しらつゆ)は妖(ようせい)の集(あつ)めた花(はな)の(みつ)。それはきっと一匙(ひとさじ)の砂糖菓子(さとうがし)。癒しの力をここに! リジェネレイト!!」

そんなロノムとシルヴィルをアイリスの治癒が包み込んだ。

ロノムは治癒の展開された空間にりながら戦い、防衛士の真似事をしながら何とかシルヴィルに向かってきたドラゴン數匹全てを砂へと還す。

そして再びメルティラ達の方へと向かっていき、ドラゴンの各個撃破にった。

「認めよう……かような練達の治癒師は、我が生涯において出會ったことがない……」

ドラゴンの爪に引き裂かれ肩口から部にかけて深手を負ったシルヴィルであったが、アイリスの治癒によってほぼ何の損傷もなく回復していた。

「あのような戦の中で的確に、しかも確かな集中力をもって街の治療院程の治癒を使ってみせるとは……アンサスランにはあのような治癒師の冒険者を他にも抱えているのか……?」

否。

アイリス程の治癒師はアンサスランにおいても數名しか存在しない。

恐らく當代及び歴代Sランクの治癒師くらいのものであろう。

「ルシアちゃん! 防魔法を使うのでメルちゃんの傍に!」

「はい! アイリスさん分かりました!!」

ドラゴンの數は目に見えて減ってきている。

それは勿論ロノムやルシアの活躍によるところが大きいが、それを下支えするアイリスの働きはこのパーティの確かな土臺なのだろう。

そんな事を思いながら、シルヴィルは息を整えながら戦況を見守っていた。

*****************************

「これで……全て倒しましたか……」

メルティラが若干息を切らしながら周囲を見渡す。

「ああ……周囲の部屋にも魔の気配はないみたいだな……」

ロノムも探索魔法を展開しながら周囲を見渡す。

辺りはかつてドラゴンだった砂の山がいくつか盛られていた。

その砂も僅かな風に吹き上げられ、やがてダンジョンの地へと帰っていく。

「それで、どーします? やはりあの、まっくろドラゴンを追いますか?」

ドラゴンの攻撃によって僅かに傷を負ったルシアを治癒しながら、アイリスはロノムに聞いた。

「それで構わないかな? 漆黒のドラゴンに黃金のドラゴン……奴等がいったい何者なのか……。それに、意思疎通が可能なドラゴンなんだ。たとえ向こうが敵対をむき出しにしようとも、もう一度話がしたい」

「りょーかいです。私としても、しゃべる魔がいるのならお話してみたいと思っておりましたしね」

「ええ、私もロノム様に従います」

「敵対している理由って、何でしょうね……? できればその辺りの理由も知りたいです」

ロノムの言葉に三人が三者三様に返す。

「シルヴィルさん、先程は危険な目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした。以降はこのような事がないようにします」

「いや……吾輩の方こそ半端な事をしてすまなかった。次は後方警戒のみに徹することにしよう」

「後方を見て頂けるのは有難いです、宜しくお願いします。それでは、奧へと向かいましょう」

しの休憩の後、ロノム達一行は漆黒のドラゴンを追ってダンジョンの奧へと進んでいった。

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