《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》70.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなりり上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(9)

「どうもどうも。アライアンスの団長様はおられますかな?」

「オレ様がその団長ボルマン様だが、なんだ? アンタは」

よく晴れた日の晝下がり、不幸にも団員全員が所用やダンジョン探索で出払ってしまいボルマン一人しかいないレッド・ドラグーンのアライアンス本部に、やけに胡散臭い笑みを浮かべた老紳士とその従者が訪ねてきた。

「おお、これはこれはボルマン様でございますか。実はあなた様に朗報がございましてな」

「朗報?」

レッド・ドラグーン本拠地の玄関で、老紳士がボルマンの耳に手を當て囁く。

「私、冒険者ギルドの役員を務めておる者なのですが、実はあなた様が次期Sランク冒険者として選ばれました。その件でちょっとお話をしたいのですが、宜しいですかな?」

「Sランク……Sランクだって!? 勿論だとも、さあ、中にって詳しく聞かせてくれたまえ」

そう言ってボルマンは老紳士と従者をアライアンス本部の建の中へと引きれた。

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「ええと、それで、ボルマン様は白兵士でしたかな」

「いやいや、撃士撃士。オレ様撃士だよ」

団長室に置いてある機を挾みながら、ボルマンと老紳士が會話をしている。

「おお、そうでした撃士でした、失敬失敬。それで、撃士の次期Sランク候補にボルマン様の名前が挙がりましてな。アライアンス団長としての名聲、そして実力も申し分のないあなた様ですので是非にと役員である私も推薦したわけであります」

「そうだろうそうだろう!? オレ様もいつ聲がかかるのかずっと待っていたところよ。アライアンス団長としての統率力とカリスマ! 冒険者としての実力! そしてこの貌とファッションセンス!! どれをとっても英雄ってじだろぉーオレ様!」

ボルマンが老紳士と従者に向かってを誇るようなポーズをとりながら、歯をきらめかせにやけ笑いを見せた。

ちなみにこのボルマン、団長になってからは鍛えることをやめてしまいダンジョン探索にも滅多に出ていないので、筋は衰えはダルダルになり始めている。

「ええ、ええ。勿論でございます。それ故に私もあなた様をSランク冒険者として推薦したのです。ただ……」

「ただ?」

「ここに來て難関にぶつかってしまった次第でございましてなあ……」

「難関だとぉ?」

ボルマンの言葉に老紳士は顔を曇らせながら続けた。

「我々はボルマン様こそSランク冒険者に相応しいと思っているのですが、実はもう一人候補がいるのです。その候補を支援している輩は裏金や賄賂を使ってSランクに押し上げようとしておりましてなぁ……。なんとも汚い手を使っておるのです」

「なるほど賄賂に裏金か。そいつはひどい奴等だな!!」

老紳士の言葉を聞いて、ボルマンが憤る。

「はい。それでボルマン様がSランクとなるために、我々の力だけではもう一押しが足りないのです。それで、ボルマン様ご自のためにも我々に協力をして頂きたいと思い、この度はお伺いさせて頂きました」

「おう、なんなりと言ってくれ。そんな卑怯な奴等に、オレ様のSランク稱號を取られてたまるかよ!」

ボルマンは語気を強めながら、老紳士に対して言った。

そののうちには邪なと正義で満ち溢れている。

「はい。我々が勝つためには奴等に負けぬ資金が必要不可欠です。ボルマン様がSランクとなるために、そして最後に正義が勝つということを見せつけてやるためにも、王國金貨十枚……いえ、金貨ではなく同量の銀貨でも構いません。とにかく資金をお預かり願いたいのです」

「勿論だとも!」

ボルマンは二つ返事で老紳士に答え、アライアンスの倉庫へと向かって行った。

ちなみに王國金貨十枚とは、概算ではあるが上等な馬車と馬がセットで買えるだけの金銭的価値がある。

たとえ大手アライアンスと言えども、おいそれとかしていい額ではない。

「そういや金どこに置いてたっけな。いつもティーリに管理を任せてたからなあ」

老紳士を団長室に待たせながら、ボルマンは金庫の置いてある薄暗い倉庫の中をしていた。

「お、あるじゃーんここにー」

そして金庫を見つけて中から金貨を數枚取り出すと、団長室へと戻っていく。

「ご老人、これを軍資金として使ってくれたまえ。十枚とはいかないまでもとりあえず五枚見つけたので、それで宜しいかな?」

「ええ、構いません。必ずやボルマン様をSランクへと押し上げ、後日記念のトロフィーとボルマン様の名前りの賞狀をお送りいたします。近日中にまたご連絡いたしますのでそれまでお待ちください」

その言葉にボルマンは有頂天となり、金をけ取った後はいやにそそくさとレッド・ドラグーン本部を後にする老紳士とその従者をにこやかな顔で見送った。

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「ボルマン団長、団のことでご報告があります。金庫の鍵が開いていて中の金貨がなくなっていました。何か心當たりはありませんか?」

団長室にってきたティーリが今にも死にそうな顔をしながら、暗く虛ろな目でボルマンのことを問い質す。

その日の夕方、冒険者ギルドから帰ってきたティーリが倉庫を開けたところ金庫の扉が開いており、中にしまっていた王國金貨がすっかりなくなっていた。

日中にはボルマンしかアライアンス本部にいなかったため、金貨が無くなるとすればボルマン本人による著服かボルマンの目を盜んで忍び込んだ泥棒以外は考えられないということになる。

「おう、その金貨はオレ様がSランク冒険者になるために使わせてもらったぞ」

「はぁ? Sランク冒険者ぁ?」

ティーリが思わず聞き返すと、ボルマンはご機嫌な様子で晝間あったことを語り始めた。

「い……いや……ちょっと待ってください。Sランク冒険者がそんなじで決まるわけないでしょ!? そんなの絶対詐欺じゃないですか!!」

「詐欺なわけあるかよティーリ君。オレ様がSランク冒険者になるのは必然なの、実力的にもカリスマ的にもな! つーか、遅いのよ。本來ならオレ様がレッド・ドラグーンの団長になった時くらいに三顧の禮でSランクに上げとけって話でさ、全く、冒険者ギルドの連中も見る目ないっつーか? そんなじ??」

ボルマンは人差し指を振りながらドヤ顔でティーリに言う。

「そ……それで、その人達の服裝とか背格好、年齢とかはどのような出で立ちでしたか……? いえ、冒険者ギルドの役員がどのような方なのか知りたいと思いましてね……。教えて頂きませんか……?」

ボルマンの話を聞いたティーリは全ての力が抜け落ちるかのような覚に襲われながらも、極力冷靜に何とかボルマンから狀況を聞き出そうとした。

「あーん? そうだなぁ……ギルド役員の方はスーツにを包んだ紳士ってじだったぞ? 年齢は老人だったかなあ……。もう一人の方は覚えてねーや」

ボルマンの言葉を聞いてティーリは近くの棚に置いてある冒険者ギルドの會報を手に取りパラパラとめくり出す。

そして會報の後ろの方にあるページを開いて止めると、勢いよくボルマンに見せつけた。

「ほら、ここ! これ! 見て下さいよぉー! ギルド役員を語った詐欺に注意って出てるじゃないですかぁーーー! 服裝とかもまさにボルマン団長が言ってた姿そのものですし、間違いなく詐欺ですってーーー!!」

「ああん? いやいや大丈夫だって。オレ様がそんな詐欺見抜けないわけないだろ? 絶対後でオレ様がSランクになるってトロフィーが來るから、楽しみに待っててくれよ」

泣きび続けるティーリとは対照的に上機嫌なボルマンが、笑いながら彼の肩をバンバン叩く。

「Sランクのトロフィーってなんですか!? 大あの金貨だって何とか必死にやりくりしてようやく赤字をして作り上げたアライアンスの貯蓄財なんですよおおぉぉ!? ギルドの銀行に預けに行こうと思っていた矢先にこんなことになるなんてーーーやだああああぁぁぁぁ!!」

……後日、老人と若者二人組の詐欺師が逮捕され、アンサスランの新聞を賑わせることとなる。

しかし逮捕時の彼等の所持金は既にゼロであったためレッド・ドラグーンに王國金貨が返ってくることはなく、また、當たり前の話だがSランク昇格の記念トロフィーと賞狀がボルマン宛に屆くこともなかった。

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