《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》83.この手の作戦行は功するビジョンが浮かばん
「いやー、一度登った道とはいえ、やはり山登りは結構大変ですなぁ」
小さい手足を巖場にかけながら、アイリスは誰にともなくぼやいた。
「私も……山登りは……苦手……。できれば……平地の探索が……いいけど……仕方ない……か……」
アイリスの隣を行くネシュレムも巖だらけの山道に難儀しながら歩を進めている。
ロノム達一行は小規模の集団で山岳地帯を登っていた。
メンバーはロノム達アンサスランの冒険者六人に加えてクリストファー伯の兵士十數人と民間人が二人。
民間人二人は元冒険者であり、理由があって今回の行軍に同行している。
「伯爵率いる本隊は、そろそろメインの山岳道を登り始めた頃だろうか」
「はい。時間的には既に山岳民族の居住地へと侵攻を始めている頃ではないかと思います」
ロノムの問いにクリストファー伯の兵団を率いる兵長が答えた。
ロノム達が所屬する小規模部隊とは別にクリストファー伯が率いる主戦力部隊が山岳街道を進んでおり、相手の主力とぶつかる、あるいは睨み合う予定である。
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エクスエルの話では近々大規模な侵攻があるとのことなので迎え撃つ方向でも考えたが、相手の土俵に立つというデメリットよりもセリンヴェイル周辺を戦場にするデメリットの方が大きいと判斷して、クリストファー伯は打って出るという判斷を下した。
「確認ですがロノム様、クリストファー伯が相手の主力を抑えている間に、私達は魔をる男『マクスウェル』を捕縛するということで宜しいのですよね」
メルティラが小聲でロノムに聞く。
「ああ。クリストファー伯の話によれば、こうして山岳道を進んでいれば俺達の目の前に必ずその男は現れるそうだ。俺達はそれを信じてここを登っている」
クリストファー伯が言うには、自が率いる大規模部隊はであり作戦遂行の幹はロノム達小規模部隊であるとのことである。
作戦を展開しているうちに小規模部隊でひっそりと裏山を登り、マクスウェルを何とかするという作戦であった。
「要するに、魔をる男の捕縛あるいは暗殺計畫だろう。やること自は単純極まりないな」
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「そうそううまくいくかな?」
「知らんな、どうせ無駄に登山をして終わりだろう。伯爵は隨分と自信があるようだが、この手の作戦行は功するビジョンが浮かばん」
エクスエルが前後を歩くクリストファー伯麾下の兵士達には聞こえないようにロノムに対して言う。
クリストファー伯はエクスエルの話を聞くまでは魔をる者の存在について把握していなかったのにも関わらず、このような作戦を遂行することは無謀なように見えた。
「それにしても変ですよね。『隠行をせよ』という割には堂々と山岳地帯を登っていますし、元冒険者とはいえ民間人を二人連れていますし……」
ルシアがちらりと後ろを見ながらロノムとエクスエルに言う。
元冒険者の男二人は一応の武を背負いながら、兵士數名に守られるようにロノム達の後ろをついてきていた。
「それも分からんな、特に道案というわけでもなさそうだが……。それはそれとしてロノム、先程から妙な視線をじるがお前の知魔法に何か引っかかっているか?」
「正解。山岳民族の斥候と思われる連中に監視されてるよ。ただ、今のところどちらも手出しできるような距離じゃないし、相手の數もなく襲ってくる気配もないみたいだ。何かを待っているようなじだな」
ルシアを間に挾みながら、ロノムがエクスエルに対して小聲で続ける。
「仮にその、魔をる男……マクスウェルって奴の持っている道が本當にダンジョンコアなら、強力な魔力反応があるはずなので近くに來ているならすぐ分かると思う。もちろん広さに限界があるから、セリンヴェイルから山岳民族の拠點含めた全域とかは無理だけどさ」
「了解した。索敵はお前に任せる」
そう言うとエクスエルは再び無言で歩き出した。
……どれくらい山道を登った頃であろうか。
ロノムの知魔法に他に類を見ない程の力が引っかかる。
「みんな、巨大な魔力反応が索敵範囲にった。同時に、魔と思われる集団も近付いてきている。警戒態勢を」
その言葉にアンサスランの冒険者五人を含め、クリストファー伯の兵士達にも張が走る。
「ロノム、魔をる男マクスウェルで間違いないか?」
「ああ。若干の差異はあれど、ダンジョンコアを知した時の反応とほとんど同じだ。ダンジョンコアが外を自由にき回るはずがないので、魔をる男で間違いないだろう」
「まさか……本當に現れるとはな……!」
エクスエルがクリストファー伯に対して多の畏怖を覚えながら、銀製の錫杖を構える。
そして場にいる面々全員が周囲を警戒していると、兵士の一人が黒山のような集団が土埃を舞わせながら山岳地帯を駆け降りてきている姿を見つけた。
「兵士長、魔の群れを目視しました! 左前方から近付いてきています!」
「総員、戦闘態勢につけ! 鷲翼(しゅうよく)戦で臨む!」
兵長の掛け聲とともに十數人の兵士達は左右に散開しながら陣を展開していく。
一方のロノム達一行は兵士達の構える陣の前に張り出しながら、警戒を続けた。
「ロノム! マクスウェルの位置はどこだ!?」
「地上じゃない、俺達の位置よりも上の方だ! 高臺か、巖場の上か!? いや、それにしては移速度が速すぎる……!」
しかしロノムが周囲にある巖の上や高臺を見回すが、それらしき影は見えない。
「空だ! 上空を見ろ!」
エクスエルの聲と共にロノム達一行が前方に広がる空を見ると、そこには人間を一人乗せた鳥型の魔が空中を旋回していた。
「どれどれ……ほほう、ちゃんといるじゃないか。オレの復讐対象がさ!」
そう言いながら魔をる男マクスウェルはひとしきり上空を旋回した後、ロノム達が陣を敷いた場所近くの高臺へと降り立った。
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その頃、クリストファー伯は自ら軍勢を率いながら山岳街道の中腹で相手の勢力と睨み合いを続けていた。
クリストファー伯の主力部隊は山岳街道の拓けた場所に陣取りながら、対面にいる相手の出方を窺(うかが)っている。
相手勢力を見るにつけ、大半が人型種族であり魔の數はないようだった。
「さて、そろそろ戦闘が起こっていてもおかしくない頃合いですが、小規模部隊の方はうまくいっておりますかね」
相手の勢力を眺めながら、副ゼフィトが床幾に座るクリストファー伯に聞く。
「まー向こうには此方(こなた)が誇る鋭中の鋭が一緒だし問題ないっしょふっふふー。アンサスランから借りてきた冒険者もかなりの手練れみたいだしねー。何だったら問題解決後にみんなスカウトしっちゃおっかなー」
ゼフィトの言葉に、いつもどおりの口調とのほほんとした態度でクリストファー伯が答えた。
「助っ人の皆様をこそぎ引き抜くなどというアンサスランを敵に回すような発言は大概にしておいてください伯爵。それとも、アンサスランを向こうに回して勝算がおありで?」
「んっふっふー冗談よ冗談。いやーそれにしても、前にマクスウェルと一緒にダンジョン探索に出た元冒険者二人をよく見つけてくれたよー。あの二人が見つかんなかったら、もーし作戦開始に時間がかかってたからねー。相変わらず、失せもの探しは得意だねぇ」
「できれば、パーティメンバー全員を揃えたかったのですけどね。最後の一人は別の場所でまだ冒険者を続けているようでして、流石にこの短期間では召集するに至りませんでした」
ゼフィトは腕組みをしたまま微だにせず、クリストファー伯に言う。
「上等上等、二人もいれば充分。ま、なんだろねー。あの手の自己顕示が高いタイプは、自分の力を誇示しつつ復讐しないと気が済まないからさー。自分を追放して死にそうな目にあわせたっていう連中がいるって聞けば、間違いなくスタンドプレーであっちの數が揃う前に襲ってくるだろーねー。敵の核さえ引き釣り出してしまえばこっちのもんってやっつよー」
「伝令によれば、山岳の裏道を隠でいている小規模部隊は予定通り山岳民族に監視されているようです。まさか彼等も自分達が汗を流して裡に仕れた報が手渡されたものであることなど、思いもよらないでしょうね」
クリストファー伯とゼフィトは互いを見合わせもせず前方の山岳民族の陣を見ながら、會話を続ける。
大規模な主力部隊の影で小規模部隊が裏道を侵攻。
小規模部隊の中には、魔をる男マクスウェルにとって舊知の仲が同行している。
彼等はマクスウェルの人定役であり、マクスウェルを確認後に暗殺あるいは捕縛する。
それらの作戦は山岳民族の間者によって全て読まれていた……。
わけではなく、その実態は都合のいい報を手渡され、クリストファー伯の真の作戦通りに踴らされているだけであった。
「さて、充分お見合いもしたことだし、此方(こなた)達もちょっとずつ撤退しますかねー。そいじゃゼフィト、宜しく頼んだよー」
「かしこまりました。伯爵も傲慢のままに過信して思わぬところで討ち取られぬようにご注意願います」
二人はそう言い合うと隊を二つに分けながら、敵を目の前にしながら戦いもせずそれぞれ引き揚げ始めた。
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